要旨

本稿では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルス、SARS-CoV-2に対するワクチンと感染症の治療方法を、世界中で必要とする人々が公平に利用できるようにするために必要な政策について論じ、現在の研究開発パイプラインにおけるワクチンと治療薬の候補について概略を提示している。そして、国際協力の必要性についても論じ、臨床研究の初期相の範疇に含まれない3つの重要な問題に焦点を当てている。その問題の1つ目は、最も見込みのある研究開発プロジェクトの早急な完了を優先し、パンデミックが弱まったからといって研究を途中で止めてしまわないようにするためにプル機構(pull mechanisms)が必要だということである。2つ目は、どの候補が成功するかわかる前に大規模な生産能力を構築しなければならないということである。これは特に、ワクチンをタイムリーかつ大規模に生産するために重要で、適切なプル機構を設計することでうまく達成できる。3つ目の問題は、知的財産権と調達を管理するルールを今すぐ設定し、安価に十分な量を供給して公平な入手を確保する必要があるということである。

 
主な結論
  • 最も楽観的な推定でも、SARS-CoV-2の有効なワクチンが広く入手できるようになるまでには最低12〜18カ月はかかる。しかもこの仮定は、現在臨床試験が行われている候補の一つが有効だった場合である。他のワクチン開発の経験からすると、ワクチンが利用できるようになるまでに数年かかる可能性がある。

  • 現在注目が集まっているのは、研究の促進とワクチン開発の早期段階である。しかし、科学が飛躍的に進歩するだけでは十分ではない。パンデミックの終焉には、世界人口の50〜75%がワクチンを接種できる医療体制が必要である。そのためには、新ワクチンの生産能力と配分能力を構築し、新ワクチンを安価にし、誰に最初に接種させるべきかを決定し、大規模な予防接種キャンペーンを計画する必要がある。ごく最近になって、一部の国々では能力構築に注目するようになってきたが、協調的な方法で行わなければ意味がない。

  • 研究開発を遂行しワクチンが入手できるようにするためのインセンティブを与えるためには、すでに配分されている資金を補う国際的な事前買取制度(AMC: advance market commitment)のようなプル機構が必要とされている。研究開発を実施するために直接支払われる研究助成金のようなプッシュ機構は、具体的な結果を条件としていない。それに対してプル機構は、研究開発を成功裏に完了することに対して報酬を与え、投資に対する見返りについての不確実性を減らす。さらに競争を促進し、開発競争への民間投資家の参入を促し、有効な医療技術の生産を支援する。国際的なAMCは、生産と物流の能力構築に民間資本を誘致する助けともなるだろう。

  • 将来開発される有効なワクチンの需要を予測し十分な量を生産するのに必要な生産力を計画するために、政府間の国際協力が早急に求められている。

  • COVID-19の治療薬は、今のところ残念な結果しか出ておらず、治療方法も見つかっていない。主に進展しているのは既存の薬剤の再利用によるものだが、その大半には重大な副作用があり、最重症患者のような一部の患者に限定されている。確たる実証を提供できる大規模な試験はまだ行われていない。最終的には、現在試験されている治療方法は「道具箱」の一つにはなり得るので、医師は症例ごとに治療方法を選ぶことになる。

  • 様々なワクチンがあるが、製造・流通の能力構築と医薬品があらゆる人々に行き渡るようにするという共通課題の多くが、COVID-19の治療にも当てはまる。国際的な薬剤供給網を強化して、こうした製品の開発を促進する必要がある。

  • また政府は、将来開発されるワクチンと有効な治療法が広く利用できるようにする必要がある。社会的に最も弱い人々による利用を妨げないように、各国間の入札競争と価格高騰を避けるために知的財産権(intellectual property rights, IPRs)と調達についてのルールに事前に合意する必要がある。プッシュ機構あるいはプル機構のいずれによって配分される公的資金であっても、利用可能性と購入可能性という条件を付けるべきである。政府はまた、ニーズに基づいて希少な製品を各国間で分配する方法についても合意する必要がある。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルス、SARS-CoV-2の流行により、経済社会にかつてない問題が引き起こされている。多数の人々に免疫を与える安全で有効なワクチンと、COVID-19の感染者と感染の疑いがある人々に有効な治療を施すことが、人命を失うことなく社会経済を常態に戻せる唯一の長期的解決策である。これまでの研究開発の取り組みは目覚ましいものがあるが、ワクチンと治療法が広く普及するまでにはまだ多くのハードルを乗り越えなくてはならない。研究開発の進展を加速させる鍵を握るのは国際協力であり、製造と流通の能力を構築すること、そしてこれらのイノベーションを安価で世界中の人々が利用できるようにするための条件を設定することに焦点を当てなければならない。

2020年初頭に世界的に流行が始まって以来、官民双方の資金援助を受けた様々な研究者がワクチンと治療法の研究開発を加速させてきた。その結果、臨床前研究と臨床試験が大幅に増加している。2020年初頭以来、数百に上る臨床試験が登録されている。そのほとんどは薬剤候補の試験だが、いくつかのワクチン候補も試験が行われている。多くの様々なアプローチを試験すれば、少なくとも一つまたはいくつかの候補が成功する可能性が高まる。しかし、非協調的な実験が多く、研究における共通の標準が遵守されなければ、決定的ではない臨床試験に研究者と患者を集めるだけ資源と時間の無駄になり、さらに医学的知識を支える確かな実証の生成をも妨げる可能性がある。

 ワクチン候補の臨床試験が行われたが有効なワクチンはすぐには手に入らない

 2020年5月までに10種類のワクチン候補の臨床試験が行われ、さらに多くの候補が臨床試験前の段階にあった

5月26日時点で、少なくとも10種類のワクチン候補の臨床試験が行われていた(表 1参照)。 そのうち5つについて第1相臨床試験が行われ、残る5つが第1/2相だった。最初の第1相試験1 は、2020年末までに完了する見込みである。さらに、160近いワクチン候補が、臨床試験に先立つ萌芽研究および非臨床研究段階にあった (LSHTM Vaccine Centre, 2020[1])。研究中のワクチン候補の数は急速に増加している。

 
表 1. 現在臨床試験が行われているSARS-CoV-2ワクチン候補の概要
2020年5月26日現在

出資者(国)

候補名

ワクチンプラットフォーム( 表 2 参照)

現在の試験相

現在の試験の完了予定日

Sinovac (中国)

不明

不活化

1/2

2020年半ば

Inovio Pharmaceuticals (米国)

INO‑4800

DNA

1

2020年後半

CanSino Biological Inc. and Beijing Institute of Biotechnology (中国)

Ad5‑nCOv

ウイルス・ベクター(Viral vector)

1/2

2021年初頭

BioNTech, Fosun Pharma and Pfizer (中国、ドイツ、米国)

BNT‑162

mRNA

1/2

2021年半ば

Moderna and United States NIAID (米国)

mRNA‑1273

mRNA

1

2021年半ば

オックスフォード大学ジェンナー研究所(英国)

ChAdOx1

ウイルス・ベクター(Viral vector)

1/2

2021年半ば

Beijing and Wuhan Institutes of Biological Products and Sinopharm

不明

不活化

1/2

2021年後半

Symvivo (カナダ)

bacTRL-Spike

DNA

1

2021年後半

Shenzhen Geno-Immune Medical Institute (中国)

LV-SMENP-DC

その他

1

2023年

Shenzhen Geno-Immune Medical Institute(中国)

Pathogen-specific aAPC

その他

1

2023年

注:開発の段階は急速に変化している。この表に掲載されている情報は、急速に古くなっている可能性がある。

出典: Authors based on EU Clinical Trials Register (EMA, 2020[2]), LSHTM Vaccine Centre (2020[3]), United States NIH Clinical Trials Register (2020[4]).

表 2から明らかなように、ワクチンには様々な種類、または「プラットフォーム」がある。 様々なプラットフォームにはそれぞれ利点と欠点があり、研究開発の期間と製造過程に影響を与える。核酸ワクチンは(DNAまたはRNAの形で)免疫反応を引き起こすウイルスタンパク質コーディングの遺伝的指令を送る。核酸は人体の細胞に取り込まれ、ウイルスタンパク質の複製を作り出す。これらのワクチンは安全かつ開発が容易で、その生産は遺伝物質を製造するだけで済む。しかし、市販が認められた人間用ワクチンでこのプラットフォームを活用したものは今のところないため、未だに承認されていない。遺伝子組み換えタンパク質ワクチンは、遺伝子工学で製造されたウイルスタンパク質でできており、人体の免疫力を刺激することを意図している。これらのワクチンを有効化するには、ワクチンの反復投与と、ワクチンと一緒に投与される免疫刺激物質である免疫補助剤(アジュバント)を使用する必要がある。ウイルスベクターワクチンは安全で、強い免疫反応を引き起こすが、ウイルスベクターに対する既存の免疫力がその有効性を引き下げる可能性がある。最後に、弱毒化生ワクチン不活化ウイルスワクチンは、弱毒化または不活化されたウイルスそのものを用いて免疫性を生む。麻疹やインフルエンザなどの多くの既存のワクチンは現在この方法で製造されているが、大規模な安全性試験が必要である。

現在、第1相および第2相の臨床試験が行われているSARS-CoV-2ワクチンプラットフォームは、DNAと核酸ワクチン、メッセンジャーRNA(mRNA、DNAとタンパク質の仲介役)、ウイルスベクターワクチン不活化ワクチンである。臨床前研究段階にあるワクチン候補には、遺伝子組み換えタンパク質ワクチン弱毒化生ワクチン、そして麻疹など他の疾病に対して試験済みのワクチンの組み替えがある。

 
表 2. SARS-CoV-2に対するワクチン開発で検討されているワクチンプラットフォーム

プラットフォーム

説明

このプラットフォームを用いた人体ワクチンで承認されたものがあるか

SARS-CoV-2に関するメリット

SARS-CoV-2に関するデメリット

核酸ワクチン(RNAワクチン)

免疫反応が求められている1つ以上の抗原についてコード化されているRNAを投与。人体の細胞がこの組み替え物質を用いて抗原を産生する。

なし

幅広く長期にわたって免疫反応を引き起こすことができ、大規模生産が非常に安定的かつ比較的容易にできる。

感染症ウイルスを扱う必要がなく、ワクチンは一般に免疫原性で、早急な生産が可能。

人体についての実証がない。

起こりうる反応源性に関する安全性の問題。

核酸ワクチン(DNAワクチン)

免疫反応が求められている1つ以上の抗原についてコード化されているDNAを投与。人体の細胞がこの組み替え物質を用いて抗原を産生する。

なし

幅広く長期にわたって免疫反応を引き起こすことができ、大規模生産が非常に安定的かつ相対的に容易にできる。

感染症ウイルスを扱う必要がなく、規模の拡大が容易で、生産コストが低く、熱的安定性が高く、SARS-CoV-1の早期臨床試験で試験済み、早急な生産が可能。

人体についての実証がない。

良好な免疫原性を得るために特殊な伝達物質が必要。

遺伝子組み換えタンパク質ワクチン

免疫システムを最もよく刺激する病原体、または抗原の構成要素のみを投与、ウイルスタンパク質の遺伝子コードが投与された細胞によってインビトロを産生する。

あり;インフルエンザ、ヒト・パピローマウイルス(HPV)、B型肝炎

安全かつ生産が容易、様々な技術を使用。

感染症ウイルスを扱う必要がなく、アジュバント1 を用いて免疫原性を高められる。

強い保護的免疫反応を引き出すために、アジュバント1 の注入が必要になる場合が多い。

世界全体の生産能力が限られている。

これらのワクチンのうちのいくつかは、開発困難(例えばウイルス様粒子)。

ウイルス・ベクター・ワクチン

免疫システムを最もよく刺激する病原体、または抗原の構成要素のみを投与。遺伝物質を細胞に注入するのに、ベクターまたはキャリアとして無害のウイルスまたはバクテリアを使用。

あり;水疱性口内炎ウイルスとエボラ出血熱

安全かつ生産が容易、様々な技術を使用。

感染症ウイルスを扱う必要がなく、MERS-CoVなど多くの新型ウイルスについて優れた非臨床及び臨床データがある。

強い保護的免疫反応を引き出すために、アジュバント1 の注入が必要になる場合が多い。

免疫誘導(vector immunity)がワクチンの有効性にマイナスに作用する可能性がある(どのベクターを選ぶかによって変わる)。

弱毒化生ワクチン

疾病を引き起こす細菌の弱毒化した物を投与、それが防ぐ自然感染に似ている。

あり;麻疹、おたふく風邪、風疹、ロタウイルス

強力かつ長期間続く免疫反応を産生。

いくつかの承認された人体ワクチンで用いられている単純なプロセス、既存のインフラを使用可能。

弱毒化したコロナウイルスワクチンシードの感染性クローンの産生には、ゲノムサイズの大きさのせいで時間がかかる。安全性試験を大規模に行う必要がある。

不活化ワクチン

疾病を引き起こす細菌を不活化または殺菌したものを投与。

あり;インフルエンザ

いくつかの承認された人体ワクチンで用いられている単純なプロセス、既存のインフラを使用可能、SARS-CoV-1について人体試験済み、アジュバント1を用いて免疫原性を高められる。

生ワクチンほど強い免疫性はもたらさない、ある期間に数回の投与が必要(追加接種)。

大量の感染症ウイルスを扱う必要がある(弱毒化シードウイルスを用いることで少なくすることができる)。

1.

アジュバントは、ワクチンと共に投与する免疫刺激物質である。

出典:Adapted from Amanat Fatima (2020[5]), “SARS-CoV‑2 vaccines: status report”, https://doi.org/10.1016/j.immuni.2020.03.007.

 しかし、ワクチンが広く利用できるようになるのはまだ数カ月あるいは数年先である

現在入手できる情報によると、SARS-CoV-2のワクチンが入手できるまでにかかる合理的な推定時間は、12〜18カ月から数年まで幅がある。数カ月以内にワクチンが広く入手できるようになるという仮定は楽観的で、新ワクチンの臨床開発の完了までの平均期間である6〜9年と比べるとはるかに速い。(コラム 1参照)。

SARS-CoV-2のワクチン候補の開発は、2020年に猛烈なスピードで始まった。開発期間についての楽観的な見込みは、すでに臨床試験が行われている候補の一つが安全で有効だということが証明されるということを想定している。開発が実際にこれまでより早く進むと考えるのには、いくつかの理由がある。

  • 第一に、ウイルスのゲノム情報がこれまでよりもずっと早く配列でき、SARS-CoV-2が先行研究の対象となった複数のコロナウイルスと遺伝子的に類似しているため、ワクチンの研究開発を一から始める必要がないためである。

  • 第二に、ワクチン候補の多くは様々なプラットフォームを用いて同時並行で試験が行われており、少なくとも一つが成功する機会が高まるからである。

  • 第三に、開発中のワクチン候補のいくつかは、メッセンジャーRNA(mRNA)という新しいプラットフォームを活用している。これは、開発が早急に進む大きな可能性を有している(表1、表2及びThanh Le et al. (2020[1])参照)。その他は、他の疾病用の既存ワクチンまたは開発中の候補を元にしているため、安全性に関する妥当な実証がすでに手に入るものもある。

  • 第四に、パンデミックが現在進行中であるため、開発が急がれているためである。それにより、例えば臨床試験の期間を短くしたり、通常は逐次的に行われる試験を並行して行ったり、規制当局の承認プロセスを早めたりして、開発プロセスが短期化される可能性がある。

しかし、臨床開発プロセスを加速させるには制約もあり、加速させるあまり安全性を犠牲にしてはならない。ワクチンと治療法、特にワクチンについては多数の健康な人々に投与されるため、安全性基準は高くなければならない(Jiang, 2020[6]) 。したがって、利点の方がリスクを上回るという確たる実証がなければならない。免疫性についての知識は依然として限られている。SARS-CoV-2に対する望ましい免疫反応を引き出すことは、有害な炎症や自己免疫反応を引き起こすリスクがあるために、特に難しいと考えられている (Iwasaki and Yang, 2020[7]) 。こうした不確実性もあって、有効かつ安全なワクチンが入手できるまでにどのくらいの時間がかかるかということについて、より正確な推定をすることは非常に難しい。

#COVID19に対する有効な#ワクチンが広く入手できるようになるまでには、最低でも12〜18カ月かかり、それも現在行われている臨床試験が成功した場合に限られる

 
コラム 1. 臨床試験の期間と成功確率

SARS-CoV-2ワクチンの開発が早く進むことは期待できるが、過去の経験によると、その取り組みを強化しないまでも維持しつつも、期待が過度に高まらないようにした方が良い。ワクチン開発には、複雑な遺伝子操作、生物工学が関わっている。ワクチンの試験には、罹患している相当数の患者と、免疫性の正確な代替的測定値が必要である。臨床前相は数年かかり、抗原、つまり人体において免疫反応を引き起こす物質の同定、特徴、統合、その遺伝情報、実験室試験と動物試験などが行われるが、それに続く臨床試験も完了までに通常は数年かかる。約7〜9年の試験の後、臨床試験段階に入るワクチンの承認確率は12〜33%と推定されている。薬剤の生産は比較的単純だが、長期にわたる試験が必要である。感染症に対して有効な典型的な薬剤候補では、試験期間が約7年間で、その内2〜3年は有効性のみを試験する第3相臨床試験にかかり、試験結果が承認されるのは4候補中わずか1つである。

出典:Authors based on Pronker et. al. (2013[8]), “Risk in Vaccine Research and Development Quantified”, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0057755; Wong, Siah and Lo (2018[9]), “Estimation of clinical trial success rates and related parameters”, https://doi.org/10.1093/biostatistics/kxx069.

 初期のR&Dの取り組みは目覚ましいが、それより重要なのはR&Dを完遂し誰もが入手できるようにするための国際協調である

ワクチンが広く人々に届けられるまでには、まだ多くのハードルを乗り越えなくてはならない。ワクチンの製造が承認されても、大勢の人々が利用できるようになるわけではない。図 1で示す通り、十分な量が生産され、安価で、どの国でも官民を問わず様々な団体が調達でき、最終的に医療制度を通じて人々に届くようにするための能力構築が必要である。これは手強い任務である。基本再生産数R0を2〜4とすると2 、欧州諸国におけるCOVID-19拡散のモデルの推定では、集団免疫の達成には少なくとも50%から70%の人々が免疫を持つ必要がある(Flaxman et al., 2020[22])。つまり、世界全体では40〜60億人がワクチンを接種する必要があるということである。

規制当局の承認からワクチンを必要としている人々に届けるまでの間に遅延がないようにするには、COVID-19の場合、通常は研究開発と製造承認の後に必要な活動の多くを今すぐ計画し、研究開発と並行して実行しなければならない。

通常は製造承認後に行われるプロセス(図 1中の赤枠参照)に今備えるには、強い国際協調が求められる。現在のワクチン開発は、図 1の青い線で示したように、その全プロセスの中のごく初期の段階である。現段階では、企業が製造体制を整えることは、依然として非常にリスクが高い。しかし、製造承認の前に体制を構築しなければ、承認を得ても十分な能力が構築されるまでに数カ月から数年かかってしまう可能性もあり、健康と経済活動の阻害という点で多大な社会的コストがかかる。同様に、医療制度にとっては、ワクチンが購入可能になってから調達やワクチン接種について考え始めるのでは遅すぎる。これも今すぐ検討しなければならない点である。

 
図 1. 研究開発から人々の手に入るようになるまで道のりは長い

 新規のプル機構で既存のプッシュ機構を補完し、将来性のある研究開発プロジェクトを完遂できるようにより一層の調整が求められている

現在のパンデミック対策としてだけでなく、将来的な疾患の発生に備えるためにも、プッシュ機構とプル機構の双方がワクチン開発を完遂させるために必要とされている。現在早期の臨床段階にある研究開発プロジェクトは、直近のパンデミックという緊急事態が沈静化しても、成功裏に完了するまで放棄されないように設計されるべきである。研究開発資金の持続可能性に関わる問題は、以前の疾患発生時にも報告されている。例えば、2003年にSARS-CoV-1が発生した際に着手されたワクチンの研究開発プロジェクトは、開発に成功する前に資金不足によって放棄された。こうしたことは、いくつかの有望な候補があったにもかかわらず、またそれが人体にもたらすリスクに気づいていたにもかかわらず起こった(Chen et al., 2020[20]; Menachery et al., 2015[21])3 SARS-CoV-1の際にこれらの研究プロジェクトが完了していれば、現在のSARS-CoV-2ワクチンに関する研究も今一歩進んでいたかもしれない。現在のワクチン開発を完了することは、もしCOVID-19がインフルエンザのような季節性の疾病になった場合、現在のパンデミックに対応する以上に妥当性がある。

研究助成金のようなプッシュ機構は研究開発の実施を確保するが、それは特定の成果を得るための条件ではない。早期段階の研究開発を促進するには有効だが、費用がかかる研究開発の後半段階を完了させたり、新製品を市場に出したりするインセンティブはもたらさない。プル機構は、臨床試験を成功裏に完了すること、規制当局から製造承認を得ること、承認済み製品を特定数製造することに対して報酬を与えることで、こうした問題のいくつかを克服できる。プル機構は、民間投資家に有効な医療技術の開発と生産のための「競争への参入」インセンティブを与えることで研究開発の完了を促すため、プッシュ機構よりも効率的になり得る。プル機構の例としては、政府または慈善団体が新製品を開発した最初の企業または研究機関を報奨する、または有効性が証明され規制当局による承認が得られた新ワクチンを一定量購入する保証を与えることなどが挙げられる。官民の非営利基金は、ワクチンと感染症の新薬の研究開発(コラム 2参照)を促す仲介者という重要な役割を担っている(Kremer, 2004[13])。しかし、プル機構を有効なものにするには相当な資金が必要である。プッシュ機構、プル機構については、以下で詳述する。

 
コラム 2. ワクチンの開発研究のための資金調達

総じて、ワクチン開発は、その生産における科学技術的複雑さと広範な臨床試験の必要性という点でリスクが高いだけでなくコストもかかる。一つの新しいワクチンを開発するのにかかる平均コストの推定値には幅があるが、およそ数億米ドルから10〜20億米ドルである(Gouglas et al., 2018[14])

官民いずれの基金も研究開発において役割があるが、一部のワクチン市場は民間の営利目的の投資にとってはあまり魅力的ではない。民間の営利目的の投資が行われるのは、充分に大きな見返りが得られその見返りを実際に実現する機会がある場合である。しかし、その疾患が継続的に必ず流行するというのでない限り、人々が免疫を獲得するかその疾患が脅威ではなくなれば、ワクチン接種の需要は消滅する。この力学が投資の見返りを不確実にしている。他の医療技術と同様、研究開発が失敗する可能性があることも、不確実性のもう1つの要因である。しかし薬剤とは対照的に、ワクチンの場合は開発費用がかかるだけでなく、その生産にも費用がかかる可能性がある。それと同時に、感染症の発生から社会全体を守ることができるのは、人口の大半が免疫を獲得した場合のみである。したがってワクチンは多くの人々が利用できるようにするために価格を抑えなければならず、利鞘が少なく、不確実性を補うには不十分である可能性もある。総合すると、こうした要素のために、民間投資家にとってワクチンの研究開発から魅力的な見返り替えられるという見通しは減退する。

ワクチン開発に資金提供をする官民パートナーシップで、いくつかのOECD諸国政府も参加している感染症流行対策イノベーション連合 (Coalition for Epidemic Preparedness Innovations, CEPI)の推定では、SARS-CoV-2に有効なワクチンの研究開発を完了するには30億米ドルが必要である。CEPIは、2020年5月26日までに10億米ドルを集めている。4 その他多数の団体が資金提供を約束しているが、その中にはOECD加盟国政府、非政府組織、製薬会社などが含まれている。4月24日に、WHOは官民双方の団体間の世界的協力ツールであるAccess to COVID-19 Tools (ACT) Acceleratorを発表した。これは、研究開発を促進するだけでなく、COVID-19の安全かつ有効な診察、治療、ワクチンを世界的に公平に利用できるようにすることを目指している。5 欧州委員会が主導するCoronavirus Global Responseはこれまでに98億ユーロを集めているが、その資金源には多くのOECD諸国が含まれ、WHO ACT、CEPIその他の取り組みを支援している。6

一方で研究開発において「千の花を咲かせる」アプローチと、他方ではより良い調整と協調との間で適切なバランスを取ることにより、提供されている巨額の資金を効率的に配分する方法を見出さなくてはならない。公的資金または非営利の資金を配分するメカニズムは多種多様であるが、その中のいくつかは、民間の営利資本を誘致するために投資「リスクを軽減」することができる。

初期段階では、多くの異質なプロジェクトが登場することで、成功の機会が増える。これはほとんどのワクチン候補、薬剤候補が失敗すると予想されており、一つの候補が成功する可能性が低いからである。インビトロ研究では、初期の実験室研究と小規模の臨床試験は、後期段階で行われる大規模な臨床試験と比較してコストが低い。研究開発の進展と臨床試験は次第に大規模かつ高価になっていくので、協力して資金をプールし、それを最も可能性の高いプロジェクトに配分することの意味が高まる。後述するように、SARS-CoV-2ワクチンに有効なプル機構に必要とされる金額は、一国政府の資金力を大幅に上回ると考えられる。国際協力ができれば、この機構を有効なものにするのに十分な資金を集めることができる。

COVID-19の研究開発資金は、これまでのところプッシュ機構で配分されているが、この方法は初期段階の研究開発を促進する上で有効である

COVID-19向けの公的研究開発資金の大半は、これまでのところ直接的な研究助成という、いわゆるプッシュ機構によって配分されているが、それだと研究開発は確かに実施されるが、特定の成果を上げることが資金供与の条件とされていない。プッシュ機構は、特定の一連の研究を促進するのに有効かつわかりやすい方法である。研究開発の初期段階では、資金提供者が研究機関への助成やバイオ技術企業や製薬会社への助成などのプッシュ機構で多くの多様な研究プロジェクトを後押しすることが、研究開発を推し進める有効な方法になり得る。一般に研究開発の後半段階に関わるプッシュ機構の一例としては、製品開発における官民パートナーシップが挙げられる。このパートナーシップは官民両部門の強みを活かし、薬剤またはワクチンの供給ルートの開発を行う特定の研究センターに戦略的かつ的を絞った投資を行うというものである。公共部門は、資金供与と学術研究で寄与することが多いのに対して、民間部門はビジネス、臨床試験、供給網、知的財産などの専門知識を提供する (Widdus, 2001[12]; Widdus et al., 2001[13]) 。慈善団体は、通常そのような取り決めに資金援助を行う。こうした取り決めの例としては、GAVIワクチンアライアンス(Global Alliance for Vaccine Initiative, GAVI)、マラリアワクチンイニシアチブ(Malaria Vaccine Initiative, MVI)、国際エイズワクチン推進構想(International AIDS Vaccine Initiative, IAVI)などがある。7

さらに、プッシュ機構は基礎科学とその研究開発への応用に長期にわたって予測可能な資金を提供することができる。例えば、2019年に承認されたエボラ出血熱の最初のワクチンの基礎研究は、2014年の発生のかなり前に着手され、臨床試験への投資をもたらした。基礎研究への投資は、製品開発を加速させ、将来起こりうるパンデミックに備える行動を優先させる一助となる。そのようなイニシアチブの例としては、優先疾患ブループリントに加えられている未知の病原体によって将来引き起こされる疾患を予測するためのWHOの疾病X(Disease X) (Simpson et al., 2020[14])、50万の新たな危険ウイルスの発見を目指すグローバル・バイローム・プロジェクト(Global Virome Project )、人類、動物、環境の関係を研究する欧州のONE Health共同プログラムなどがある。8

プッシュ機構は、民間部門と社会との間で研究開発の見返りに差がある領域で研究開発を促進することができるが、いくつかの問題を抱えている。第一に、資金提供者が事前に、どの科学的アプローチが最も将来性があり追求する価値があるかを、代替的アプローチの見通しについて十分な情報がないまま、決定しなければならない(Widdus et al., 2001[13]) 。つまり、資金提供者と研究者の間に情報の非対称性があるということである。そのため、成功の可能性が低い研究開発プロジェクトに過度に投資をすることにもなりうる。第二に、もし資金提供者が研究の成果(output)ではなく投入(input)コストを全て提供するとしたら、資金提供者は失敗のリスクを全て負うことになる。第三に、研究者は失敗のリスクを負わないので、プッシュ機構では研究のスピードアップと効率のインセンティブが高まらない。研究者には、自分たちのアプローチが成功するという見通しを誇張し、将来の資金を確保するために自分のキャリアアップをするインセンティブが生じる (Morel and Mossialos, 2010[18]; Mossialos et al., 2010[19])

プル機構も利用すべきである

資金提供者は、妥当な研究開発の結果を出すことを資金提供の条件とするプル機構によって、プッシュ機構を補うべきである。プル機構は基本的に、民間投資家の投資の見返りに関わる不確実な要素を減らし、投資家に有効な医療技術の開発、製造競争に参入するインセンティブを与えるように機能する。事前買取制度(AMC)とイノベーションの表彰は、COVID-19の研究開発に民間投資を動員する一助となり、研究者に自分で最も将来性のあるプロジェクトを選ばせるプル機構の2つの例である。

  • 事前買取制度(AMC)では、購入者が、まだ開発途中のある医療技術が定められた水準と保証価格を満たした場合に、それを一定量購入することを事前に公約する。したがって、AMCは研究開発のインセンティブを高めるだけでなく、最終的な製品の製造と流通のインセンティブも高める。資金は購入することによってのみ提供されるからである。保証された量が売れると、契約により製造業者には、追加の供給をより安価で行うことが義務づけられている。つまり、2段階の価格システムということで、第一段階の相対的に高い価格は、購入が決まっている量に対して保証されており、製造業者が行った研究開発投資へのリスク調整済みの見返りを与えることになる。そして第2段階では製造コストにより近い、より低い価格設定になる(基本価格、"base price")。公約の定められた基準には、疾病の予防または治療、対象人口、最低限の効能、投薬量、摂取方法、備蓄、質、安全性要件などがある。AMCはまた、購入の条件、知的財産権(IPRs)の許可、価格、利用しやすさなども指定できる。これまでの例としてAMCは、肺炎球菌ワクチン(Levine, Kremer and Albright, 2005[19])と、薬物耐性菌に関連する結核の治療 (Chalkidou et al., 2020[20]) の開発にインセンティブを与えるために提案された。

  • イノベーションの表彰は、特定の画期的な医療技術の開発が達成された時に、資金提供者が事前に決められた金額を支払うというものである。画期的か否かは、製品の質と有効性を優先するように定義することができる。前もって定められた臨床試験結果のような中間のものでも良いし、有効なワクチンの製造承認のようなより最終段階に近いものでも良い。

SARS-CoV-2のための有効なAMCには、製造能力の構築を支援するプッシュ機構と並行して、数十億に上る資金提供を行うための政府間の強い国際協力が必要である。ワクチンの開発とそれが数か月以内にある程度の規模で製造できるようにするために、公約された金額でリスク調整済みの見返りを、ワクチン候補を持つ複数企業が並行して投資できるくらい充分に大きくする必要がある。しかし、そのようなAMCは民間投資を促し、有効なワクチンに対してのみ事前に定められた価格で資金を提供するので、政府にとっては、失敗するものも含め多くの様々な研究開発プロジェクトに対してプッシュ機構で資金提供するより安価になるだろう。このことは、特に政府が有効性が確められたワクチンを十分な量購入するための入札競争に加わる場合に特に当てはまる。重要なことは、AMCはワクチンの開発と製造のスピードを優先させる−つまり、ワクチンの早期獲得という社会にとっての経済的見返りの方が、AMCのコストよりはるかに大きいということである。GAVIワクチンアライアンス(GAVI)は、WHO ACT Acceleratorが集めたワクチンのための資金はAMCを通じて配分すべきだと提案している。9 肺炎球菌ワクチンのためのGAVIのパイロットAMCは、2018年までに1億4900万人の子供に投与できており (GAVI AMC Secretariat, 2019[22])、AMCが実際にどのように機能できるかを示す一例となっている。SARS-CoV-2ワクチンのためのAMCの機能については、コラム 3で論じている。

政府は、#COVID19のための#ワクチンが広く入手できるように協力しなければならない。各国間の入札競争が人々のワクチンの入手を妨げないようにするために、知的財産権と調達についての合意が必要である

 
コラム 3. 事前買い取り制度(AMC)はSARS-CoV-2ワクチンについてどのように機能するか

米国の経済学者のグループは、SARS-CoV-2ワクチンのための国際的な事前買い取り制度(AMC)に必要な資金額を推計するモデルを設計した(Athey et al., 2020[23])。このモデルによると、COVID-19が世界経済にもたらす大規模な損失を抑えるためには、能力構築を開発と並行して行うことで、ワクチンの開発と製造を加速するために、各国政府が合計約1,370億米ドルを投資することが最適だとされている。参加諸国は、各国のGDPに応じた割合を拠出する。資金配分は、プッシュ機構とプル機構の組み合わせで決まる。また、様々なシナリオによると、福祉の利益の大半は、より少ない投資で達成できる。例えば、予算合計750億米ドルで福祉利益の90%以上を達成できる。したがって、このモデルのパラメーターは適合する。必要な資金額を推定するために、このモデルには研究開発中のワクチン候補の成功確率の推定も必要で、様々な候補の成功確率の間には何らかの相関があると仮定している。これらのインプットは精査が必要で、研究開発の流れが変化するとそれも時間と共に変化する。しかし、基本となる事例推定から、必要とされる資金の桁数がわかる。

この計画が成功すれば、一カ月に少なくとも5億人分のワクチンが製造でき、1年以内に地球上のほぼ全ての人々が摂取できることになる。ワクチン不足を軽減することにより、この最大規模の製造能力があれば、コストがかかる各国間の入札競争と、貿易制限または知的財産権(IPRs)の承認をめぐる紛争を回避できる。

このモデルの基準シナリオでは、世界的なAMCで合計450億米ドルの資金が約束されており、18のワクチン候補の開発者にこの計画に参加するインセンティブを与えており、その18候補のうち少なくとも1つの有効性が認められ18カ月以内に製造される確率は80%である。残る予算で、政府が開発中の18のワクチン候補全てを製造する能力を構築するコストの85%を直接助成すれば、1候補当たりの推定コストは60億米ドルになる。企業は残り15%を負担するが、そのワクチン候補が承認されれば、限界生産コストの全額を負担する。製造承認が3カ月以内に下りれば、15億人分のワクチンを感染リスクが高いグループ(医療従事者、併存疾患の患者など)に投与でき、その後3カ月以内にさらに15億人分のワクチンをより幅広い人々に投与できる。スピードを優先し、最初に成功するワクチン候補に魅力的な見返りを提供するためには、最初の10億人分は1人分当たり35米ドルで購入し、残る20億人分は1人分当たり5米ドルで購入することになる。

世界開発センター(The Centre for Global Development)は、研究開発にインセンティブを与え生産能力の規模拡大を目的としたAMCを提案した(Silverman et al., 2020[16])。価格は、各国の経済力と医療予算の水準に応じて階層化する。AMCは複数の有望なイノベーターを将来性のある競争者にしておくために、いくつかのワクチン候補に資金を提供し、その条件として地域の生産者に低コストまたは無償で知的財産権を認め、ワクチンの普及を助ける。

 製造能力は研究開発と平行して構築しなければならない

安全で有効なワクチンが開発されたら、それを大規模に製造する必要がある。現段階では、短期間に何人分のワクチンを製造し人々に提供しなければならないかを予測するのは難しいが、数十万人規模のワクチンが必要で、その製造と分配は非常に難しい仕事になると考えられる。もちろん、将来開発されるワクチンが、免疫力を構築するために何回人体に投与されなければならないかということは、依然として不明である。ワクチンを有効にするためには、一人に複数回投与する必要があるかも知れない。

ワクチンの製造能力については、公式には情報がほとんど入手できない。しかし、インフルエンザワクチンの製造能力を監視する取り組みから得られた経験によると、製造量を急に増やすことはできない。ワクチンの製造は薬剤の製造より技術的に複雑で、幅広い技術、人材、品質管理が必要である(Smith, Lipsitch and Almond, 2011[23]; UNIDO and WHO, 2017[24])。製造ラインを構築するには継続的な投資が必要で、過去には数年かかったこともある(UNIDO and WHO, 2017[24])。2015年には、世界全体で、パンデミックに備えて60億回分のインフルエンザワクチンを製造する能力があり、一人2回投与すると世界人口の約40%に免疫力を与えられた(McLean et al., 2016[25])。しかし、この製造ラインではすでに毎年季節性のインフルエンザワクチンを約15億回分を生産している(ibid.)。つまり、充分な能力があっても、製造量を増やすには時間がかかるということである。

したがって、各国は今から協力して需要を予測し、十分な量のワクチンの製造に必要な能力の計画を立てる必要がある。今のところ研究開発を急がせることに注目が集まっている一方で、資金調達、製造能力の計画と構築に関する各国間の協力と協調は、ほとんど行われていない。能力構築には時間がかかるため、この取り組みは研究開発がまだ進行中の今のうちに着手しなければならない。CEPIはすでに、資金調達ニーズに関する予測の中で、製造能力について考察している。10 いくつかの大きな製薬会社は最近、将来のワクチン候補について製造能力の構築に着手すると発表しており、その内のいくつかは公的資金の支援を受けている。

製造能力には、依然として不確実な部分が多すぎて民間投資に頼れないため、部分的であっても、公的資金源から資金を供給すべきである。コラム 3で論じたように、充分に大規模な国際的AMCなら、民間部門に研究開発だけでなく製造能力にも投資するインセンティブを与え、直接的な公的資金を補うことができる。その代わりに、各国は協力して必要とされている能力全体に直接資金を提供し、研究開発のインセンティブと分けることもできる。不確実性の原因の一つは、上述の現在試験中のワクチンプラットフォームのどれが成功するかわからないということである。各ワクチンプラットフォームごとに製造に関わる問題は異なっており、同じ生産ラインで全てのプラットフォームの生産ができるわけではない(Smith, Lipsitch and Almond, 2011[23])。将来のワクチンが、すでに承認された他のワクチンに用いられているプラットフォームを元にしている場合は、既存の製造能力を再利用したり拡張したりすることができる。しかし、これは他の疾病に対するワクチンの製造にとって弱点となる可能性がある。また、RNAやmRNAワクチンのような新しいワクチンプラットフォームについては、全く新しい製造インフラを構築しなければならない。もう一つの不確実性の原因は、ワクチンの製造承認がいつ得られるか、そのときの市場規模はどのくらいになるか、ということである。研究開発にかかる時間が長くなるほど、感染者数が増え免疫を獲得するため、また社会がそのウイルスとの共存に適応するため、ワクチン市場の規模は小さくなると考えられる。

 主に既存の薬剤の再利用によって、治療法の開発が進んでいる

 これまでのところ治療方法の試験は残念な結果に終わっている

2020年5月までに実施されている臨床試験のほとんどで、治療法の試験が行われている。現在、研究者は、開発と試験に数年もかかる可能性がある複合薬を一から開発するのではなく、他の疾患に対してすでに承認されている、COVID-19以外についてベネフィット‐リスクバランスがすでにプラスであることが知られている薬剤の再利用を主に考えている。また、研究者は2002年から2012年の間に2回発生し、それぞれ重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)の原因となったコロナウイルスに対する臨床前研究で良好な実績があった、未承認の薬剤候補についても検討している。

現在の知識とこれまでの限られた進歩を考えると、治療によってSARS-CoV-2との闘いにおける形勢が変化するとという期待はできない。現在試験が行われている薬剤候補は、COVID-19患者の症状の管理を改善する可能性があるが、治癒するわけではなく、予防に用いることもできない。5月26日現在、研究途上の治療方法でCOVID-19への感染が確認された、または感染の疑いがある患者の症状が改善するという無作為対照化試験(randomised control trials, RCTs)の実証はない。そのほとんどには深刻な副作用があり、深刻な症状があるなどの限られた患者のみを対象としている。また、その内のいくつかは静脈内投与のみ可能で、病院でしか用いることができない。

"Solidarity"と"Discovery"11という大規模の臨床試験を含め、現在500以上の治療方法の臨床試験が行われており(Thorlund et al., 2020[27]) 、知識は急速に拡大するだろう。臨床試験がよく設計され、共通の方法論的基準に則っており、結論情報を引き出すに足る規模であるよう、国際的に調整する必要がある。これは、COVID-19の研究開発との取り組みの中で現在行われている、同じ治療法についての多くの異なる小規模試験を含む数百の試験には、必ずしも当てはまらない (Mullard, 2020[28]; Thorlund et al., 2020[27])。ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)とクロロキンをめぐる論争と、現在のレムデシビルの有効性についての不確実性は、小規模試験がいかに混乱を招くかということの例である (Nature, 2020[29]) 。いくつかの革新的なアプローチが、地域的流行下で感染症の高水準の研究を確保するために出現している。例えば、REMAP-CAPは、COVID-19に対する様々な治療法を試験する。その中には、14カ国の160以上のサイトからの参加者が含まれる。精緻な臨床試験が設計されれば、研究者は治療方法をその試験が実施されている間に追加したり、実績が良くないというデータが出た治療法は除外したりすることができる。REMAP-CAPは本来、肺炎の研究用に設計されたものだが、現在はCOVID-19に転用されている(ibid.)。

表 3は、5月26日現在評価対象となっていて最も注目を集めており、最も有望と考えられているCOVID-19の治療方法の概要を収録している。試験が行われている様々な戦略は、3つの自然な経過(natural history)のステップをとってCOVID-19にとり組もうとしている。

  • ウイルスが人体の細胞に入ることを防ぐ。これは、回復期の血漿から作られるクロロキン/ヒドロキシクロロキンと、抗体に基づく治療の場合に当てはまる。

  • ウイルスが人体の細胞に入っても複製されるのを防ぐ。ほとんどの抗ウイルス薬はこのように作用する。

  • 感染症に対する免疫システムの過剰反応(「サイトカインストーム」と呼ばれ、COVID-19感染症の重症化の原因)を防ぐ。これは、一部の免疫抑制治療に当てはまる。

最終的には、現在試験されている治療方法は何らかの「道具箱(tool box)」を構築することに寄与し、医師は症例ごとに治療方法を選ぶことになる。米国の食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可(Emergency Use Authorization (EUA)2 )のような緊急措置は、承認の加速に寄与するが、医学研究では黄金律とされている第3試験相の二重盲検ランダム化比較試験には数か月かかる。緊急時であっても、異例の事態であることは、利益よりも損害の方が多い治療法を承認する理由にはならない(London and Kimmelman, 2020[8])

 
表 3. 現在評価が行われている主なCOVID-19治療法
2020年5月26日現在

 

治療法

認証状況とジェネリック医薬品の利用可能性

対象となる患者群

進行中の臨床試験別(症状が軽症(moderate)、中等症(severe)、重症(critical))

摂取方法

ウイルスが人体の細胞に入るのを防ぐ

クロロキンまたはヒドロキシクロロキン1

マラリア、自己免疫疾患について承認済み。

米国の食品医薬品局(FDA)がCOVID-19について緊急使用許可(入院患者に限定)。

ジェネリック医薬品あり。

軽症及び中等症(まだ確立されていない)

経口

ウミフェノビル(Umifenovir)

ロシアと中国でインフルエンザについて承認済み。

米国、欧州では承認されていない。

まだ確立されていない

経口

COVID‑19 回復期の血漿

FDA/EMAは承認していないが、ìnvestigational capacityにおいて使用可能。

中等症、重症

静脈内投与

人体の細胞内でのウイルスの複製を阻止する

レムデシビル(Remdesivir)

どのような疾患についても公的には未承認。

米国市場内でFDAのCOVID-19についての緊急使用許可の下で使用可能。

EMAは欧州における例外的使用についての勧告を実施。

中等症、重症

静脈内投与

リトナビル/ロピナビル(Ritonavir/lopinavir)

HIVについて承認済み。

ジェネリック医薬品あり。

公的にはまだ確立されていない(軽症から中等症)

経口または静脈内投与

リバビリン(Ribavirin)

C型肝炎について承認済み。 ジェネリック医薬品あり。

公的にはまだ確立されていない(軽症から中等症)

経口

オセルタミビル(Oseltamivir)

インフルエンザについて承認済み。

ジェネリック医薬品なし。

公的にはまだ確立されていない(軽症から中等症)

経口

ファビピラビル(Favipiravir)

日本でインフルエンザについて承認済み。米国では承認されていない。

米国ではCOVID-19における例外的使用のみ可能。

公的にはまだ確立されていない(軽症から中等症)

経口

免疫システムの過剰反応に対処するための静注経路

トシリズマブ(Tocilizumab)

COVID-19以外の疾患について承認済み(リウマチ性関節炎、サイトカイン放出症候群)。

ジェネリック医薬品なし。

中等症、重症

静脈内投与

サリルマブ(Sarilumab)

リウマチ性関節炎について承認済み。

ジェネリック医薬品なし。

中等症、重症

皮下注入

注:開発の段階は急速に変化している。この表に掲載されている情報は、急速に古くなっている可能性がある。

1.

2020年5月25日、WHOは、公表された最新の実証に基づいて、クロロキン/ヒドロキシクロロキンの連帯試験における使用を停止した。その実証では、COVID-19についてはこれら2種類の物質のベネフィット‐リスクバランスが望ましくないことが強調された。

 政策によって、有効な治療法が広く利用できるようにする必要がある

薬剤は、発見から患者への投与まで様々な段階を経るもので、図 1で示したワクチンの場合と類似している。しかし、いくつか重要な違いもある。最も重要なことは、薬剤がすでにSARS-CoV-2に感染している人にのみ投与され、通常は、中等症や重症といった特定の患者グループを対象としているということである。したがって、生産量はワクチンの場合より少なくなる可能性がある。疾患の治療に有効な化合物の発見は容易ではないが、化学物質から作られる薬剤は比較的安価で、生産が容易である。

それでも、薬剤供給網はパンデミック期に十分な量を供給する備えができていない可能性がある。薬剤の中には比較的容易に製造できるものがあるが、その製造は少数の供給者からしか購入できない希少な化学物質に依存している場合が多い。供給網は複雑で、重要な材料の一つが供給不足になるだけで、製造が急停止する(Ledford, 2020[30])。OECD諸国で近年報告されているいくつかの薬剤の不足と不足する薬剤の増加12 は、すでに製薬業界が緊迫した状況にあることを示しており、現在のパンデミックのような医療危機が起これば、不足リスクがさらに高まる (Ledford, 2020[31])

有効な薬剤を大規模に製造する十分な能力を確保し、薬剤が広く入手できるようにする政策も必要である。そうした政策には、製造業者に正しいインセンティブを与え、世界の供給網において必要な能力を構築することが含まれる。最も重要なことは、政策によって薬剤を必要としている人々が利用できるようにし、価格と国際取引の障壁が利用の妨げにならないようにすることである。この問題は次節で詳しく論じる。

 効率的で公平な利用を確保するために、知的財産権、適正価格、調達のルールについて事前に合意すべき

SARS-CoV-2の新ワクチンとCOVID-19の治療のための薬剤が、ウイルスと共存する世界を実現し、海外旅行や貿易を可能にし、企業の景況感を回復させ、最終的に「日常」生活に戻れるようにするならば、それをあらゆる国々で公平かつ幅広く利用できるようにすることが重要である。そのためには、現在の知的財産権制度が、研究を妨げず新たな知見が広く普及し、製品価格が利用を妨げず、さらに製造業者に充分かつ適正な見返りがあるように適用されるべきである。また、各国間で製品の調達と分配を調整する必要もある。

 知的財産権でR&Dのインセンティブを高め、多様な方法で医療技術の妥当な価格を確保できる

医療危機から抜け出す方法の発見が急がれる今、R&Dの経済的インセンティブは、価格の安さと公平性の懸念と折り合いをつける必要がある。通常、薬剤のR&Dは民間投資を誘致するために主に様々な形態の知的財産権(IPRs)に依存している。特に特許は、R&Dのインセンティブを高める上で重要である。また、特許は情報開示が求められるため、新たな知識の普及に有利に働く。13IPRsはR&Dのインセンティブを高めるために重要だが、その所有者は供給量を制限して高価格を維持するという市場をコントロールする力を手にすることができ、それが医療技術の広範な利用を妨げる障壁になる可能性がある。COVID-19の場合、多額の公的資金がすでにR&Dに割り当てられているが、上述のようにさらに多くの資金が必要となる。納税者がすでにR&Dに関わるリスクとコストの多くを受け入れ、新ワクチンと有効な治療法の幅広い利用可能性が社会経済的活動を確保する鍵を握るならば、IPRsによって金銭的な利用障壁を作ることがないようにすべきであり、製品価格は購入しやすさを確保するためにも製造コストに近い水準に抑える必要がある。R&Dと製造のコストの各国間の分担方法は、主に各国政府によるR&Dと製造のプッシュ機構、プル機構への資金提供額で決められる。

現在の知的財産権の制度は、将来のワクチンと治療法に適用される

開発中のワクチンは全て新しく、開発者が公共部門、民間部門、あるいは官民パートナーシップなど、何であれ特許を取れる可能性が高い。COVID-19の治療法として臨床試験が実施されているほとんどの薬剤は、すでに他の疾患について承認済みである(特許期限が切れているものも切れていないものも含む)。しかし、再利用される薬剤でも、欧州、米国などいくつかの国々では、一定の条件下で知的財産権保護の対象となり得る(Ducimetière (2019[26])参照)。

特許に依存しない新薬も、オーストラリア、カナダ、日本、米国、EU加盟国など多くのOECD諸国でデータと市場優先権によってジェネリック医薬品競争から保護される。データの排他性は、最初の開発者の製造承認から一定期間、ジェネリック医薬品製造業者が、最初の開発者が臨床前研究や臨床試験で得たデータを参照してジェネリック医薬品の安全性と有効性を示すことができないようにするというものである。市場優先権が認められる期間中は、ジェネリック医薬品製造業者は製造承認を申請することはできるが、その製品を市場で売り出して最初の開発者と競争することはできない。このような優先権は、規制当局が与える (’t Hoen, Boulet and Baker, 2017[34])。特許権保護がない場合でも、国や薬剤の種類によっては、この優先権により最初の開発者の製造承認から5〜12年間は、ジェネリック医薬品の市場参入が実効的に除外される場合がある (Boulet, Garrison and ‘t Hoen, 2019[35]; ’t Hoen, Boulet and Baker, 2017[34])。このような権利を放棄するライセンスがないと、パンデミック期に新薬を早急かつ大規模に製造する妨げとなる可能性がある。

知的財産権が利用を妨げる障壁とならないように、政府は手を尽くすべき

今回の危機下では、「オープンイノベーション」モデルとパテント・プールを結合することで、IPRsを管理するための様々なオプションが出現している。これらは、R&Dの早期の段階で思い切った決断をする大学と企業に、企業が優先的IPRを用いて競争するインセンティブを維持しつつ、そのIPRを臨床研究と製品開発に投資する企業が利用できるようにすることを奨励することによって、技術の進歩を加速させている。もう1つのオプションは、プッシュ機構で配分されたものかプッシュ機構かを問わず公的R&D資金に利用しやすさと購入しやすさという条件を付けることである。例えば、R&Dに資金提供する主体は、彼らが資金提供しているR&Dの結果開発された製品を、任意的ライセンス(voluntary licenses)または公有財産にするよう要求することができる。政府もIPRsを取得したり、場合によって、価格を抑えるために現在の知的財産権制度が認めている柔軟性を利用することもできる。

最近、米国を含むいくつかの国々の大学によって、「オープン・イノベーション」イニシアチブが導入された。4月7日に、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学が、大学で行われるイノベーションを幅広く公平に利用できるようにするという技術ラインセンス原則を公表した。この原則は、COVID-19のパンデミック期及びその後短期間は、ほとんどの種類の技術についてIPRsを非排他的に、特許使用料を徴収せずに利用できるようにしている。被許諾者には、その成果物を広く利用できるようにするために、できるだけ広く低コストで普及させることが求められている。14

パテント・プールは、ある技術の2人またはそれ以上の特許保有者間でその特許を第三者に対してライセンスする合意である。パテント・プールは、複数の特許取得済み技術を同時に利用しなければならない技術にライセンスを与えることで取引コストを削減する際には特に有益だが、競合する技術間の競争を緩和することには懸念がある(WIPO, 2014[27]; Lerner and Tirole, 2002[28])。パテント・プールの規則は、メンバー間の利益の分配方法、プールのメンバーではない人々にライセンスを与えられるか、特許を個別にライセンスすることができるかなど、非常に多様になり得る (Lerner and Tirole, 2002[28])

コスタリカ政府と支持団体は、COVID関連のIPRsを「無償または妥当かつ安価な条件でライセンスを供与する」世界全体で共有できるプールの創設を呼びかけている。15 その他にもすでに進行中のイニシアチブがある。ユタ大学のOpen Covid Pledgeは、化学者、発明家、弁護士、技術産業が協力して設立したもので、新型コロナウイルス関連の技術についての基本的なライセンス合意の利用を促進している。16 医薬品特許プール(Medicine Patent Pool, MPP) は特許権者と被許諾者、具体的には品質標準要件を満たしたジェネリック医薬品の製造業者とのライセンス合意を促進するためのものだが、これもCOVID-19関連のワクチンまたは薬剤についてそのような役割を果たせるようその権限が拡大されている。17 全てのMPPライセンスには、被許諾者が製造した薬剤の製造承認を促進ために、データ独占権の放棄が含まれる (’t Hoen, Boulet and Baker, 2017[34])

任意ライセンス(Voluntary licenses, VLs)は、特許権者が任意で第三者に彼らの特許を利用することを認めるメカニズムである。VLsはバイオテクノロジー、遺伝子、後にはCOVID-19に再利用された特許取得済みの製品についてのいくつもの発見に適用された。18 VLsは、イノベーションが数多く累積している場合、つまり以前のイノベーションに後続のイノベーションが依存している場合に特にメリットがある。しかし、VLsには多くの障害がある。その主なものは、当事者間でライセンスされているイノベーションの価値と支払われる特許使用料について合意が得られないことである(Scotchmer, 2004[29])

もう1つのオプションは、プル機構を知的財産権のライセンスと、価格設定、利用しやすさの条件にすることである。上述の事前買取制度(AMC)は、ワクチンの大規模な製造と普及を助けるために、低コストまたは無償で地域の生産者にIPRのライセンス供与に関わる資金の支払いを必要条件としている。

VLsに頼ったり、一定量の薬剤を事前に決められた価格で購入するAMCsなどのプル機構をライセンス合意に含める以外に、政府は新技術のIPRを取得することもできる。これはまたR&Dのインセンティブを高め、政府はIPRを公有財産にすることができ、知識を国際公共財にすることを可能にする。

最後に、政府は、特にVLsが拒否されたり、緊急事態に対応するのに時間がかかりすぎたりする場合に、強制実施権を含む特許保護を柔軟に行えるようにする国内法のメカニズムを準備または有効にすることができる。カナダ、チリ、ドイツ、イスラエルなどは、すでにCOVID-19パンデミックに対策を取っている。19 しかし、強制実施権(CLs)は一方的に発行できるので、それを広く利用するとIPRsがもたらすインセンティブを損ない、望まない効果をR&Dに及ぼす恐れがある(OECD, 2018[28])。国際的な事前買い取り制度を含む上述のプル機構は、研究開発のIPRに基づくインセンティブの代替策となり、CLsの利用を避けることができる。

特許権保護に対して柔軟性を採り入れることは、国際条約で認められている。世界貿易機関(WTO)の貿易関連知的所有権協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights, TRIPS)は、各国の政策目標を達成するためのそのような柔軟性の適用について、とりわけ国民の健康を守るために必要な場合を含め、各国政府に大幅な裁量の余地を残している。柔軟性があることで何よりも、既存の特許権保護に対して例外を設けたり(第30条)、強制実施権(第31条)を適用することができる。20 強制実施権(CL)は、特許を持たない企業が、特許権者の承認なしで特許取得済み製品を製造または特許を取得した製造プロセスを使用することを認める。原則として、強制実施権には、特許権所有者が適切な報酬を得るという要件があり、通常は正当な取引条件で所有者から承認を得ることで進めなければならない。しかし、そのライセンスの使用が公的、非商業的利用のため、または国の緊急事態あるいは非常事態への対応である場合には、後者の要件は適用されない(第31条)。TRIPS協定と公衆衛生に関する2001年ドーハ宣言では、「この協定は、公衆衛生を守るというWTO加盟国の権利を擁護し、特に医薬品を誰もが利用できるようにするように解釈、実施すべきである」ことを再確認した。21その中では、各国がCLsを供与する権利と、そのライセンスを供与するグループを決定する自由と国の緊急事態またはその他の非常事態とは何かを決定する自由を有することを明記している。通常のCLsの下で製造された医療技術は、WTO全加盟国が全ての特許取得済みの製品とプロセスについて利用できることになっているが、主に国内市場に対して提供されなければならない。TRIPS協定改正により(第31条の2)、廉価のジェネリック医薬品の製造と輸出が、こうした医薬品を独自に製造できない国々のニーズに応える目的に限って認められた。22これは、流行と闘うために必要な医薬品、ワクチン、診断などの医薬製品に適用される。輸入資格を有する国々には、開発途上国と最貧諸国が含まれる。

CLsを使用しようとする政府は、被許諾者がデータの独占または市場優先権によって、その製品を販売できないということがないようにしなければならない(上述)。このことは、これらの独占権が特許と切り離されたもので、全ての国々がCLが行使された場合に自動的にそれを放棄するというメカニズムを採っているわけではないので、難しい問題になり得る。したがって、CLは、ジェネリック医薬品またはバイオ後続品の市場参入を妨げるデータの独占と市場優先権の正当性に対しては、何の効力もない場合がある。例えばEU法は、データの独占と市場優先権を、強制実施権が輸出目的の医薬品製造に対して行使される場合のみ放棄しており、EU域内で販売される製品に対しては放棄していない (Boulet, Garrison and ‘t Hoen, 2019[35]; ’t Hoen, Boulet and Baker, 2017[34])

 各国は新ワクチンの配分方法について、貿易摩擦と入札競争を避けるために合意する必要がある

在庫が希少な製品の配分方法については、各国間で事前に合意する必要がある。これは、一部の国々で見られた衝動買いや過剰な備蓄などの一方的行為と、生産国による輸出規制を避けるためである。こうした行為は過去にも、例えば2009年にインフルエンザが世界的に流行した際にも見られた。23

国際協力に基づく購買制度を事前に決め、資金力に関わらず製品を各国に配分する基準を明確にしておく必要がある。例えば各国は、パンデミックの影響が最も深刻な国々に優先的にワクチンを配分するという合意をすることができる。また、人口規模で配分、つまり協力している国々の総人口に対する各国の人口規模、または高齢者や慢性疾患の患者といった特にリスクが高い人口グループの規模をもとに配分することもできる。パンデミックの世界的広がりを念頭に、協力は幅広く、できるだけ多くの国々を関与させる必要がある。

また、医薬用品の取引に関するより幅広い確約も含めることができる。基本的な医療用品その他の基本的財・サービスの関税撤廃の提案を含め、これら製品の国際的なフローを促進することに関する多国間交渉は、すでに行われている。例えば5月5日には、WTO加盟44カ国がCOVID-19と、「基本的医薬要因その他の基本的財・サービスの国際的なフローを促進するために、ベストプラクティスと簡潔な手続きの採用及び更なる貿易開放など具体的な行動について、WTOに検討を奨励する」多角的貿易制度に関する声明を公表した。24 「COVID-19のパンデミックと闘うための基本材の貿易に関する宣言(Declaration on Trade in Essential Goods for Combating the COVID-19 Pandemic)」によって、具体的な提案がニュージーランドとシンガポールから提出された(WTO, 2020 G/C/W/777) 。25 この宣言には、基本財の一覧が収録され、特に関税撤廃、輸出禁止措置に対する規制、非関税障壁に関する助言、貿易促進などが提案されている。

既存の国際共同調達制度の経験から、各国はワクチンの需要を事前に計画し協力を実現する方法について、教訓を得ることができる。調達は、特定の価格で認められた品質の医薬用品を手に入れるプロセス全体から成り、その中には価格交渉、需要予測、予算策定、タイムリーな搬送など幅広い活動が含まれている (Management Sciences for Health, 2012[30])。調達における国際協力の前例は、情報共有のための緩い協定からより統合された形態まで幅広く、参加諸国がオープンな入札を行ったり、合同で契約を結んだり、供給者と取引を行う中央組織を設立するなどがある(World Health Organization, 2016[31])

例えば、全米保健機構(Pan American Health Organization, PAHO) が1979年に設立したワクチン調達のための回転基金は、現在では南米・カリブ諸国41カ国からなる合同調達制度である(World Health Organization, 2016[31]; DeRoeck et al., 2006[32])。この回転基金は、PAHOが統括して入札、契約、支払いを行う非常に統合された制度である。より最近の例は欧州のもので、EUは現在、H1N1インフルエンザが大流行した際に設立された共同調達メカニズム( Joint Procurement Mechanism) 26 を用いてCOVID-19危機に対処している。これは、ワクチン、抗ウイルス剤、その他医療機器や財・サービスなどの医薬用品を「深刻な国際的な健康への脅威と闘う目的で」共同で調達するものである(European Commission, 2016[33])。2020年4月現在、36カ国(EUとEEAの全加盟国、英国、アルバニア、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)がこの制度に参加している。このメカニズムは、参加諸国が非常に統合されており、その中で欧州委員会が調達プロセスに中心的な責任を持ち、参加国に代わって入札を行い、供給者に対して単一の契約主体となり、医薬用品を加盟国に配分する (ibid.)。しかし、排他性についての要件はなく、加盟国はこの制度に加盟しながら引き続き供給者と個別に契約することができる。また、各国はどの段階でもこの制度から脱退することが認められている (Azzopardi-Muscat, Schroder-Beck and Brand, 2016[34])

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[41] World Health Organization (2016), Challenges and opportunities in improving access to medicines through efficient public procurement in the WHO European Region.

担当

Stefano SCARPETTA (✉ stefano.scarpetta@oecd.org)

Mark PEARSON (✉ mark.pearson@oecd.org)

Francesca COLOMBO (✉ francesca.colombo@oecd.org)

Eliana BARRENHO (✉ eliana.barrenho@oecd.org)

Guillaume DEDET (✉ guillaume.dedet@oecd.org)

Martin WENZL (✉ martin.wenzl@oecd.org)

1.

薬剤とワクチンの臨床試験は通常次の3つの連続相で行われる。第1相試験では100人未満の少数の成人に対して安全性と認容性を評価する。第2相試験では数百人というそれより多くの人々に対して安全性、投薬量、投薬方法を試験する。第3相試験では数百から数千人の大規模なグループに対して安全性と有効性を確立することを目指す。

2.

つまり、免疫を持っていない人々の中で既存の感染者一人当たり2〜4人に新たに感染させるということである。現在のところR0の推定値は非常に幅広いが最大で6である(Sanche et al., 2020[35])

3.

下記を参照:OECD (2020), Beyond Containment: Health systems responses to COVID‑19 in the OECD. Available at https://www.oecd.org/coronavirus/en/.

9.

COVID-19ワクチンのための事前買い取り制度についてのGAVIの提案は、下記参照: https://www.gavi.org/sites/default/files/covid/Gavi-proposal-AMC-COVID-19-vaccines.pdf.

11.

WHOが監督する世界的な連帯試験(Solidarity trial)と、フランスのNational Institute of Health and Medical Research (INSERM)が監督するヨーロッパディスカバリー試験。両試験とも2020年3月に開始され、数年にわたって患者を追跡する。下記ウェブサイト参照: https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/global-research-on-novel-coronavirus-2019-ncov/solidarity-clinical-trial-for-COVID-19-treatments and https://presse.inserm.fr/en/launch-of-a-european-clinical-trial-against-COVID-19/38737/.

12.

薬剤不足に関するOECD報告書は、2020年半ばに発表される予定である。

13.

様々な国々の当局と世界知的所有権機構(WIPO)は、COVID-19に関連する特許出願に関する情報の利用促進を目指している。WIPOは、Patentscope COVID-19 Indexを開設した。下記ウェブサイト参照。 https://patentscope.wipo.int/search/en/covid19.jsf.

16.

下記ウェブサイト参照: https://opencovidpledge.org/.

18.

例えば、AbbVieは、ジェネリック医薬品製造会社によるリトナビル/ロピナビル (Kaletra®)の供給を妨げるMPPの許諾者に対する全ての規制−このHIV治療法のジェネリック医薬品の供給に対する規制を含む−を自主的に放棄した(’t Hoen (2020[47])参照)。ギリアド・サイエンシズ社は、レムデシビルに対してVLsを発行する計画があることを公表した。下記参照: https://www.statnews.com/pharmalot/2020/05/05/gilead-remdesivir-covid19-coronavirus/.

19.

カナダのBill C-13は政府によるライセンス使用の許諾を促進している;チリでは、議会の決議により政府にCLsの供与が求められた;ドイツは感染症の流行を国家的重要事項とし、連邦保健省にCLsの許諾を命じる権限を与えている;イスラエルはTRIPS第31条に基づいてトナビル/ロピナビル (Kaletra®) の供給について通常CLを発行する一方で、特許権者は特許権の執行権を放棄した(注 18 参照)。例えば、Musmann (2020[43]) and ’t Hoen (2020[47])参照。

20.

TRIPS協定の第31条は、「強制実施権(compulsory lincenses)」という用語を明記せず、「特許権者の承認のない使用(use without the authorisation of the patent owner)」と述べており、第三者へのライセンス供与と政府自体による利用を意味している。後者の政府利用は、特許権者と商用許可について事前に交渉する必要がないため、手続きが比較的容易である。

22.

この改正を受け入れていない少数派のWTO加盟国には、暫定の例外規定が引き続き適用される。

24.

下記WTO文書参照: WT/GC/212.

25.

下記WTO文書参照: G/C/W/777.

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