要旨

過去の経済危機の経験に加え、現在のコロナ危機の初期に労働市場および社会に生じた帰結は、新型コロナウイルスによる危機が移民とその子どもたちに不当に大きな影響を与える可能性が高いことを示している。本稿は、パンデミックが健康、仕事、教育、語学訓練やその他社会統合策、そして世論の面で、移民やその子どもたちにどのような影響を与えたかを示す初めての実証を提供しており、受入国の政策対応についても記載している。本稿は、移民管理に関する2020年6月の論文の補足である (OECD, 2020[1])

 
主な結論
  • 移民は、高い貧困率、過密な住宅事情、対人距離の確保が困難な仕事の就業率が高いなど、様々な面で脆弱な状況に置かれているため、現居住国生まれの人々よりもCOVID-19への感染リスクがはるかに高い。いくつかのOECD諸国の研究結果から、移民は、現居住国生まれの人々に比べて感染リスクが2倍以上高いことが分かった。

  • 移民のコロナ関連死亡率も高く、現居住国生まれの人々のそれを上回っている可能性がある。

  • 移民は、一般的に雇用条件が不安定で勤続年数が比較的短いため、労働市場における立場が弱いことが多い。また、複数の研究によると、労働市場が不景気な時には差別が著しく増加する一方で、こういう時期には就職先のネットワークが求職にとって重要になるが、そういうネットワークは移民の方が少ない。

  • これまでのところパンデミックの影響が最も深刻な業界では移民労働者の比率が極めて高いため、移民の労働市場における成果はさらに悪化している。例えば、特に大きな打撃を受けた接客業では、EUでは雇用者の4分の1が外国出身者で、雇用全体に占める移民の割合の2倍である。

  • パンデミックが労働市場に及ぼした影響は、まだ正確には測れない。特に欧州のOECD諸国では、雇用維持制度でロックダウンの直接的な影響が緩和されたからである。それにもかかわらず、当初の影響に関する実証によると、現在データが入手できる国々の大部分、特に南欧諸国、アイルランド、ノルウェー、スウェーデン、米国で移民が不当な被害が及んでいる。

  • COVID-19の感染拡大を遅らせるために学校が閉鎖され遠隔学習が実施されたが、移民の子どもたちはいくつかの点で不利な立場に置かれている。移民の親は、子どもの宿題を手伝うための資源を現居住国生まれの親ほど持っていない場合が多く、また現居住国で生まれた移民二世の40%は自宅でその国の言葉で話していない。また移民の子どもは、現居住国生まれの親を持つ生徒よりも、自宅や静かな学習スペースでパソコンやインターネットを利用できない場合が多い。

  • パンデミックにより、成人に対しても語学の遠隔学習が促進された。多くの国で新しい革新的な制度が導入された。例えばドイツでは、移民のための社会統合コースが一時的に閉鎖された代わりに、オンライン学習指導が開設された。しかし、オンライン学習は、低学歴で、特に語学学習の初期段階にある移民にとっては難しいことが分かっており、語学学習のみならずより広範な社会統合の遅れにつながっている。

  • 失業率の上昇と海外渡航によって初期の感染が拡大したことを鑑みると、移民に対する世論が厳しくなる恐れがある。この問題に対処するためのいくつかのコミュニケーションキャンペーンでは、移民がウイルスを拡散しているという誤情報に取り組むことに特に重点を置いている。

 はじめに

COVID-19のパンデミックは、国際的な移民にとって非常に重要な時期に発生した。危機の直前には、多くの国々で移民の流入数が過去最多を記録しており、移民と、現居住国生まれの移民二世の人口が各地で実質的に増加している。1 COVID-19のパンデミックは、国際的な移民にとって非常に重要な時期に発生した。危機の直前には、多くの国々で移民の流入数が過去最多を記録しており、移民と、現居住国生まれの移民二世の人口が各地で実質的に増加している。移民の割合は、現在、OECD諸国全体で5人に1人を占めている。最近入国した多くの移民のうち、難民が比較的高い割合を占めている国々があるが、このグループの人々は特に脆弱で、特有のニーズを抱えている。

それと同時に、パンデミック前には、多くの面で移民の社会統合が進んでいた。トルコとコロンビアを除く全てのOECD加盟国で、過去5年間、移民は仕事を見つけ働き続けることにそれ以前より成功していた。もっとも、大半の国々では現居住国生まれの人々との格差はそれほど縮まってはいなかった。また、過去10年間にほとんどのOECD加盟国で移民に対する態度も改善が見られた。移民の子どもたちの教育的成果も2005年以来改善しており、高等教育進学率やその成果では、絶対的にも相対的にも、現居住国生まれの両親を持つ生徒との格差が縮小していた。こうした進歩が今、パンデミックにより脅かされている。COVID-19危機は、すでに脆弱な移民とその子どもの健康、教育、仕事、さらに広範な社会統合に影響を及ぼしている。

本稿は、こうした分野それぞれにおけるパンデミックの影響と考えられるものを、各国がマイナス影響を緩和するために取った施策とその成果に関する最初の実証を用いて評価している。結論では、COVID-19が移民に及ぼす長期的な影響をまとめ、政策提言を行っている。

 移民の健康への影響

 移民の健康に影響を与えるパンデミック特有の要因

移民の平均年齢は現居住国生まれの人口のそれよりも低いため、理論上はCOVID-19で深刻な健康上の影響を受ける恐れは少ない。例えば、欧州のOECD諸国では、移民人口のうち75歳以上の割合は8%であるのに対して、現居住国出身者ではその割合は12%である。しかし、社会経済的に恵まれない人口グループは健康状態が悪く慢性疾患に罹っている人も多いため、COVID-19を併発するリスクが高まる可能性があるということは、立証済みの事実である。ほとんどのOECD諸国で、移民はこのような脆弱なグループに属している人の比率が高い。

さらに、OECD諸国で相対的貧困状態で暮らす人の割合は、現居住国生まれの人々では20%であるのに対して、移民は約30%に上る (OECD/European Union, 2018[2])。また移民は、低水準の住居に住んでいる人の割合が高く(現居住国生まれの人々の19%に対して移民は23%)、過密で暮らしている人の割合は、現居住国生まれの人々の2倍になるみられている(それぞれ8%、17%)。特に移民は大勢の家族と同居する傾向があることから、劣悪な住宅状況では感染リスクが高まる。

移民は、劣悪な住宅状況に加え、人口密度の高い建物や地域に住む場合が多いため、対人距離が取りにくい。これは、庇護申請者など集合住宅で同居する人々に特に当てはまる。例えば、亡命希望者や難民向けの集合住宅は、他の形態の住宅に比べ、COVID-19検査で最初に陽性と診断された場合の感染リスクが17%も高かったことを独ビーレフェルト大学(2020[3]) が明らかにしている。また移民は、公共交通機関を利用する人が多く (Brun and Simon, 2020[4])、それがパンデミック期にはリスクになっていた。

さらに、移民は在宅勤務ができない生活に欠かせない職業に集中している。こうした職業の労働者はテレワークができない場合が多い。OECD加盟国の4分の3の国々において、テレワークができる移民の割合は、現居住国出身者の人々のそれを5ポイント以上下回っている (図 1)。

例えば南欧諸国、イスラエル、カナダでは、移民は、国内サービス業に従事する全労働者の半数以上を占める (OECD, 2020[5])。移民は、出勤しなければならないだけではなく、業種によってはCOVID-19感染リスクが高い労働条件を受け入れざるを得ない場合がある。例えばドイツでは、食肉処理場でコロナウイルスの感染が広がり1,500人以上の雇用者が感染したが、その大半がEUへの移民であった。それが地域全体のロックダウンにつながった。

 
図 1. 在宅勤務が可能な就業人口の割合(出生地別)

出典: Basso et al (2020[6]), “The new hazardous jobs and worker reallocation”, https://dx.doi.org/10.1787/400cf397-en に基づきOECDが算出。

いくつかの移民に特有の要因が、特定グループのCOVID-19感染リスクを高めている。例えば、不法滞在者は、検査や病院に行かない場合が多い。移民の中でも一時滞在の移民は、多くの場合、健康保険など社会保障制度が適用されない。さらに、移民先の国の言葉が理解できないため、COVID-19関連情報を得られないことも考えられる。多くの国々で医療サービスや取るべき行動に関する情報が、通常はいくつかの情報チャンネルで複数の言語で提供されているが (EMN/OECD, 2020[7])、最も脆弱なグループの人々にまでその情報が行き渡るようにするのは依然として難しい。また、移民がCOVID-19に感染したときに頼るべき支援ネットワークの規模が比較的小さい場合が多い。

難民などのグループでは、出身国や移動中に経由した国々で置かれた劣悪な状況や(強制)移住に関わる健康問題で、COVID-19を併発するリスクが高い。WHO欧州地域事務所が入手した実証をまとめた報告書 (2018[8]) によると、欧州の難民と移民の間では、虚血性心疾患と脳卒中のリスクが高い。さらに、欧州の難民と移民は、出身国にもよるが、移民先の国の出身者に比べて糖尿病の罹患率と死亡率が高く、また男性よりも女性の方がその割合が高い。それと同時に、移民は、ほとんどの新生物のリスクが低い傾向がある。

 COVID-19について最初の実証

COVID-19感染者数

COVID-19が移民に与えた影響の度合いを評価することは困難である。COVID-19感染者の数と特徴に関する基本的な統計情報は、検査や入院など多くの情報源から得られた公式統計に基づいて国の保健システムに記録されている。さらに、これらのデータを記録する際に移民の地位、出生国、国籍を問う国は多くない。英国、ニュージーランド、米国など、この情報がない国々では、各国のカテゴリーを用いて民族的出自または人種が問われるが、その中に少数民族出身の現居住国出身者の他に移民が含まれている。多くの国々では、上記のいずれも記録されていない。

数少ない出身地別データからは、一般的に移民のCOVID-19感染率が特に高いことがわかる。ノルウェーで確認された感染者のうち、31%が外国生まれの人々(主に人道的移民の割合が高い国々の出身者)で、移民の対人口比の約2倍である。パンデミックのピーク時(3月13日~5月7日)の傾向はスウェーデンでも同様で、感染者の32%が移民であった(移民の対人口比は19%)。またデンマークでは、低所得国からの移民とデンマークで生まれた移民の子どもが感染者の18%を占めているが、この割合は移民が人口に占める割合の2倍である。ポルトガルのEstudo Instituto Saude Publicaによると、リスボンのCOVID-19感染者の24%が移民(主にアフリカからの移民)であるのに対し、外国出身者は首都圏人口の約11%である。また欧州以外でも、移民はCOVID-19の影響を不当に受けている。例えば、カナダ・オンタリオ州では、永住移民の感染者に占める割合は43.5%であるのに対し、その対人口比は25%である (Guttmann A et al., 2020[9]).

しかし、移民の感染率が高くなかった国もあった。例えばイタリアはパンデミックの第一波の影響が特に大きかったが、イタリア国立衛生研究所(Istituto Superiore di Sanità)のデータによると、感染者に占める外国人の割合はわずか5%で、外国人の対人口比の約半分だった。

これらの相反する調査結果には、各国の人口動態やパンデミックの打撃の受け方などの違いが部分的に反映されているが、移民と少数民族人口に対するパンデミックの影響を完全に把握するためには、COVID-19感染者の出身地別登録数の信頼性にも問題がある。全感染者数を用いる際には、実際に注意すべき点が多い。第一に、特に移民が最近増加してその平均年齢が比較的若い国々では、移民と少数民族の異なる人口構成を考慮しておらず、それが重要なバイアスとなっている。例えばイタリアでは、外国人人口の大半は、若年の移民と現居住国生まれの移民の子供で、彼らは感染してもCOVID-19の症状をあまり示さない。さらに、確認された感染者数は、その国の検査戦略の影響を受けている。パンデミックの初期段階では、一部の国で検査能力の制約により、人口の多くが検査を受けられなかった。

検査を幅広く総合的に実施する能力に加え、出身地別の感染者数も、各国が最も脆弱なグループと、特に移民およびその特有の問題(例えば、受入国の言葉が理解できない、法的地位)に手を差し延べられるか否かに左右される。例えばカナダ・オンタリオ州では、移民の検査率は同国生まれの人々のそれよりも低かった (Guttmann A et al., 2020[9])

COVID-19死亡者数

このように、移民に対するCOVID-19の影響をより適切に把握するには、他の尺度が必要である。出身地別のCOVID-19死亡者数は、移民への影響をより適切に測れるが、死亡証明書には必ずしも出身国が記載されていないか、情報がすぐには入手できない。例えばドイツでは、国籍は原則として死亡者登録簿に記録されるが、同データは現在、国の死亡統計の編集には提供されていない。COVID-19死亡統計の信頼性を向上させるには死亡証明書を元にしなければならない。この証明書には少なくとも死因の他にCOVID-19の死亡率に大きな影響を与える主な社会人口統計学的変数、特に年齢が記載されている。

 
コラム 1. COVID-19による死亡者と少数民族

多くのOECD加盟国には、移民の死亡率に関するデータはないが、少数民族に関するデータはある。このことは、特に英国と米国に関係している。移民と少数民族の構成は異なるが、一部重複しているところがある。例えば英国では、自身を黒人・アジア人・少数民族と認識している人々のうち、69%が移民である。米国では、ヒスパニック系少数民族のほぼ半数(46%)が外国生まれで、さらに24%は移民の両親を持ち米国で生まれた二世である。アジア系少数民族については、外国生まれが73%、移民の親を持つ二世が20%である。

入手可能なこれらのデータから、少数民族はCOVID-19に関して、多数を占める人口グループより大きな代償を払っていることが分かる。英国では、2020年9月7日時点で、重症患者の3分の1が黒人・アジア人・少数民族(Black Asian and Minority Ethnic, BAME)と記録されている (ICNARC, 2020[10])が、このグループは前回国勢調査(2011年)の時点では英国人口の22%を占めていた。人口の規模、性別、年齢構成を考慮した英国国家統計局(ONS)の3~5月中旬までのデータによると、COVID-19の年齢調整死亡率は、黒人男性0.26%、バングラデシュ/パキスタン人0.19%、インド人0.16%、白人0.09%であった (White and Nafilyan, 2020[11])。黒人男性の年齢調整死亡率は、白人男性と比較して3.3倍も高い。また黒人女性の同死亡率は白人女性の2.4倍であった。生活環境や社会経済的要素など他の要因を考慮しても、COVID-19の死亡リスクは、白人男女と比較して黒人男性が2倍、同女性が1.4倍、南アジア人男性が1.5倍と依然として高い。これらの研究から分かったのは、BAMEのCOVID-19の重症化と死亡リスクが高い原因は、死亡リスクを高める要因(心臓代謝やビタミンD状態など)、またはその他の患者の治療や社会経済的特徴(社会的剥奪やフレイルなど)などでは部分的にしか説明できないということである(Apea et al. (2020[12]) および Raisi-Estabragh et al. (2020[13])参照)。

米国では、疾病管理予防センター(CDC) が、年齢別で標準化し地理的分布の違いを考慮した死亡統計を推定している。それによると、すべてのCOVID-19調整死者数の41%にヒスパニック系の人々が含まれていた。年齢と地理的分布で調整された人口の割合に基づく推定比率は、33%であった。

白人と比較したCOVID-19死亡率は、黒人では全年齢層で高かったが、ヒスパニック系では労働年齢グループのみが高かった。米国の少数民族は、全体的にCOVID-19死亡率が高いだけでなく、既往の健康状態やその他の人口統計学的・社会経済的要因で調整しても依然として高い。 Bertocchi and Dimico (2020[14]) の推定によると、いわゆる「下級地区」(荒廃地区)と呼ばれる地域の少数民族の死亡確率が依然としてより高い。

COVID-19流行期の超過死亡率

出身地やその他の社会人口的特徴で分類できる死亡証明データがなくても、COVID-19が移民集団に及ぼす影響を評価することが不可能だとは言えない。例えばフランス、オランダ、スウェーデンは、最近の死亡データを死因ではなく出身地別にまとめており、出生国別にCOVID-19が死亡に及ぼした影響が不均等であったことを発見した (図 2)。

フランスの2020年3~4月の超過死亡率(2019年同時期と比較した死亡率の差)は、外国生まれの人々のそれがフランス生まれの人々の2倍になった (Papon and Robert-Bobée, 2020[15])。超過死亡率が最も高かった移民グループは、北アフリカ出身者(2019年同時期比の死亡者数が54%増)、サハラ以南アフリカ出身者(同114%増)アジア出身者(同91%増)であったのに対し、フランス生まれの人々では22%であった。移民の方が超過死亡率が高いという現象は、最も若い年齢層でも見られた。移民の超過死亡率は、フランス出身者の2倍から4倍に上っており、これは外国生まれの人々の方がパンデミックの影響を受けやすい人口密度が高い地域に住んでいることが多いという事情を考慮しても変わらない。

スウェーデンでは、2015~2019年の外国出身の死亡者数の割合は12~14%だったが、2020年3~4月には16%に達した。過去数十年間にスウェーデンに移住した多くの移民がシリア、イラク、ソマリア出身であるが、これらの国々出身の40歳以上の移民の死亡者数は、2016~19年の平均と比較して、2020年3月~5月は220%増加した。それに対して、スウェーデン、EUまたは北米出身者のこの3カ月間における死亡者数の増加率は、年齢構成が他の移民より高いにもかかわらず、18%増にとどまっている (Hansson et al., 2020[16])

オランダでは、親の出生地別の死亡統計によると、2020年3~4月は例年比で、低所得国からの移民とその直系の子どもの死亡数は47%増、高所得国からの移民とその子孫では49%増、そしてオランダ人の親を持つオランダ出身者では38%増であった (Kunst et al., 2020[17])

 
図 2. 2020年3~4月のフランスとスウェーデンの死亡数に占める移民の割合(前期比)

注:フランスの2020年第10~19週の移民の死亡者の割合は2019年同期の割合と比較している。スウェーデンの2020年第10~19週の移民の死亡者の割合は2015~19年の同期の割合と比較している。

出典:両国の公式の情報源に基づいてOECD事務局が算出。

まとめると、移民は平均年齢が低いにもかかわらず、COVID-19の感染リスクと死亡率のいずれも高く、他の集団に比べて高い代償を払っている。長期的には、心の健康を含む移民の健康全体への長期的影響を推定するためにさらなる研究が必要である。OECD加盟国は、これらの問題に対処するために、COVID-19の感染とその後の経過に関するデータの欠陥を補うよう務めなければならない。

 移民の健康への影響を軽減するための政策対応

ほとんどのOECD加盟国は、移民がCOVID-19に感染した場合、不法滞在者を含め、検査や緊急医療を利用できるようにしている。例えば、移民の法的身分にかかわらず、COVID-19に関わる必要な治療を無料で受けることができるようにしているのは、ベルギー、チリ、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、イスラエル、ルクセンブルク、メキシコ、ポルトガル、スペイン、スイスである。一定の保健サービスの利用を制限したり条件を付けたりしている国もある。ポルトガルは、不法滞在の移民が医療制度を利用できるように、彼らに一時的に市民権を付与している。同様にスペインは、基本的なニーズの支援が継続的に受けられるよう、有効文書の保持義務を一時停止した。ギリシャでは、未成年者は誰でも、そして成人の移民は緊急時のみ医療を受けられる。チェコでは、不法滞在の移民は後で治療費の払い戻しを求められる可能性がある。またオーストラリアやカナダなどでは、地域当局が医療の利用に関する問題を扱っており、カナダでは全土で無料、オーストラリアでは一部の州で無料で医療が受けられる。

多くの国々で、移民のための情報キャンペーンも立ち上げられている (コラム 2; OECD (forthcoming[18])も参照)。

 
コラム 2. COVID-19 のパンデミックにおける移民向け情報キャンペーン

政府は、COVID-19のパンデミックの最中に、移民の社会統合に関するコミュニケーション手段を一連の追加目標に適用する必要があった。政府は、ウイルスの拡散を抑制するため、パンデミックそのものについて、公衆衛生対策、医療サービスの利用に関する正確な情報を移民にタイムリーに提供する必要があった。

多くのOECD加盟国の政府は、デジタル通信チャンネルを利用し、COVID-19専用のオンラインウェブサイトとソーシャルメディアチャンネル双方を介したコミュニケーションの利点を組み合わせて、現在の危機的状況で移民とのコミュニケーションを図っている(包括的概観については、OECD (forthcoming[18])参照)。新規に作成された多言語ウェブサイトからは、移民と彼らを受け入れた社会の双方が、COVID-19に関する信頼性の高い最新情報を1つサイト上で入手できる。そうしたサイトには、COVID-19の検査についての情報の他、各地域のロックダウン(都市封鎖)措置や安全規制のマッピングなど、革新的なビジュアルツールが掲載されていることが多い。さらに、ソーシャルメディアは特定の移民にそれぞれの母国語で直接接触し、彼らの質問にも答えることができるため、COVID-19専用プラットフォームとそのコンテンツを宣伝する上で中心的な役割を果たしている。またソーシャルメディアは、誤情報を追跡、対応するための最も重要なコミュニケーション・チャンネルであることも証明されている。

ドイツ連邦政府は、ウェブとソーシャルメディアのプラットフォームを組み合わせて多言語によるデジタルキャンペーンを実施し、COVID-19に関する情報を伝えた。現在の危機に関しては、政府のウェブサイトとCOVID-19専用のオンラインプラットフォーム、“Handbook Germany” の双方で、COVID-19に関する情報をあらゆる妥当な言語で提供している。この情報は、20万人以上のフォロワーを持つドイツ在住の移民向けの Facebook page でも配信され、妥当な複数の言語で記事やビデオ形式で提供されている。同プラットフォームでは、ユーザーの質問に積極的に答えており、関連トピックに関して誤解を招く情報を含むコメントに対応している。

カナダでも同様で、カナダ移民・難民・市民権省のサービスでは、 ウェブサイトとソーシャルメディアチャンネルで提供されるコンテンツをCOVID-19危機仕様にした。このサービスでは、多言語に翻訳された同国の公衆衛生庁の資料に加えて、労働者、学生、庇護申請者など特定の移民グループごとに渡航制限や申請プロセスの変更に関する情報を提供している。同サイトはまた、ライブチャットで個人の質問に回答している。これにより、ユーザーは自身の状況に当てはまる情報を容易に入手できる。

オンライン通信に加え、地方自治体やNGOなどの仲介者も、各国政府が提供する情報を広める上で重要な役割を果たしている。地域の仲介者は、地域社会で暮らす移民を直接支援することができるが、その対象には、特に孤立していてオンラインでの情報伝達が難しい住民も含まれる。例えば英国では、NGOの Migration Yorkshireが、中央政府や地方自治体と共同で、ヨークシャー・ハンバーサイド地域向けに「移民情報ハブ(Migrant Information Hub) 」を立ち上げた。このプラットフォームは、COVID-19パンデミック、公共サービスの利用、移民の居住権についての情報を移民に周知する専用サイトである。さらに、Migrant Hubでは、地域サービスの利用方法を周知するため、多言語ビデオを提供するとともに、「英国保健サービス利用方法」などのテーマで移民向けに無料ワークショップを開催している。

政府とNGOのパートナーシップでコミュニケーションコンテンツを即時翻訳することで、COVID-19に関する多言語キャンペーンを促進している。このようなパートナーシップの例としては、デンマークの公的機関とデンマーク難民評議会(DRC)とのコラボレーションがあり、COVID-19に関する質問に25言語で答えるための専用の ウェブサイトと電話ホットラインを開設しようとしている。同様にノルウェーでも、COVID-19に関する情報を移民社会に拡散するため、政府はNGO向けの予算として2千万ノルウェークローネを確保した。

 移民の労働市場における成果への影響

 労働市場への移民の統合に影響を及ぼすパンデミック特有の要因

移民は、現在の労働市況において多くの面でとりわけ弱い立場に置かれている。第一に、移民は、特に欧州やアジアのOECD加盟国では、臨時雇用されている者が多い。また、移民は勤続年数が短く、季節的変動が大きい業界で働いている者が多い(OECD (2008[19]) 参照) 。しかも雇用主や職業の変更が認められない場合、滞在許可の条件によっては失業というさらに弱い状態に陥る可能性がある。転職が可能な場合でも、雇用主は、労働者が余っている状況では、事務管理上の負担や不確実性があると分かっている移民を採用しようとは考えないかもしれない。

一般に、雇用主は労働市況が停滞しているときは従業員を厳選する傾向にあり、生産性を妨げる可能性がある言葉の壁などを理由に、移民の応募者をふるい落としていく場合がある。このような要因がない場合でも、雇用主は、景気後退時にはまず移民を候補からはずす傾向にあることが多くの研究で分かっている(Baert et al., 2015[20])。移民は人脈も少なく、労働市況が悪化すると、このような人脈の重要性も高まる傾向がある (Behtoui, 2004[21])

2008年の世界金融経済危機など多くの景気後退期に上述の要因が確認されているが、現状では、移民の労働市場における脆弱性を特に高める要因もいくつか挙げられる。第一に、COVID-19 パンデミックは、多数の難民を含む記録的な数の移民がOECD加盟国に流入した後に発生した。新規の移民は、移民の長期雇用見通しにはマイナスの影響が長期間続くため、この危機の中で特に大きな打撃を受ける傾向がある。これは、まだ就職先を見つけられない移民に特に当てはまるが、2015~16年の難民危機の際に入国した多くの難民もこの中に含まれる。スウェーデンでは、多数の難民が流入した後に起きた1990年代初頭の不況の影響を分析した結果、新規の移民が不況の悪影響を不当に被っていたことが明らかになった。この危機から10年経っても移民が雇用される機会ははるかに少なく、この影響は長期にわたって強く残った (OECD, 2007[22]); 下記も参照:Aydemir (2003[23]).

第二に、新型コロナウイルスのパンデミックは、移民の就労者が多いサービス部門の雇用に特に影響を与えた。中でも接客業、警備、清掃サービスはロックダウン中に大きな打撃を受けている(表 1) 。例えばEUでは、移民が接客業の雇用の4分の1を占めているが、これは雇用全体に占める移民の割合の2倍に上る。特にオーストリア、フィンランド、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルク、ノルウェー、スイス、スウェーデンでは、移民が接客業の雇用に占める割合が40%を超えている (図 3) 。移民が受ける影響が特に大きいのは、長期定住している移住者より新規の移民の方が接客業で働いている人が多いという事実による (OECD, 2020[5])

 
表 1. 主なサービス部門の雇用に占める移民の割合(2018年)
雇用全体に占める割合(%)

 

カナダ

EU28カ国

米国

接客業

31

25

24

医療業界

27

11

17

小売業

28

12

15

警備・清掃業

30

21

30

合計(全業種)

25

13

18

出典:労働力調査に基づいてOECD事務局が算出。

現在の状況では、移民の雇用者だけでなく自営業者も最も脆弱な立場にいる。OECD諸国全体で移民の自営業者は、雇用者よりも若干多い (OECD/European Union, 2018[2])。彼らの事業は小規模で資本額も小さい。さらに労働者の場合と同様、多くの移民が営む事業は打撃が大きい接客業である。実際にカナダ、デンマーク、ドイツ、ルクセンブルク、ノルウェー、スウェーデンでは、接客業における自営業者全体の40%以上が移民である (図 3)。

 
図 3. 接客業の全従業員および自営業者に占める移住者の割合(2018年)

出典:労働力調査のデータに基づいてOECD事務局が算出。

 移民の労働市場における成果に及んだ影響についての最初の実証

総合的な影響

OECD諸国の大半は、COVID-19危機のピーク時の厳しいロックダウンから徐々に経済を再開しているが、労働市場への影響は今後も深刻化すると見られている。COVID-19危機発生後の各国の失業率の推移は国によって差が大きいが、これは基本的な政策対応の違いを反映しているだけでなく、パンデミック期に労働市場統計の収集と比較が複雑になるせいでもある (包括的な議論および概観は(OECD, 2020[24]) 参照)。

それに加え、近い将来も状況が不確実であることを考えると、移民への影響を評価するのは時期尚早であるが、これまでに入手した実証によると、ほとんどの国々で移民に不当に影響が及んでいることは明白である。OECD諸国のほぼ3分の2の国々で、外国生まれの人々の雇用率がその国で生まれた人々より高かった。南欧諸国、アイルランド、オーストリアでは移民が特に影響を受けており、雇用率は少なくとも4ポイントの下落で、その国生まれの人々と比べて下落幅は2倍以上である (図 4)。

移民の雇用率の低下に関しては、英国、オランダ、フィンランド、チェコ共和国が例外で、これまでの集計値ではマイナスの影響は見られなかった。

移民でもその国で生まれた人々でも、全体的な雇用率の低下は、欧州以外の地域でより顕著に見られる。それと同時に、これらの国々では、これまでのパンデミック期を通し雇用率の変動が激しかった。

 
図 4. 2019年第2四半期~2020年第2四半期の雇用率の推移(出生地別)
%

出典: European Union Labour Force Survey (EU-LFS, Eurostat), US Current Population Survey.

雇用への影響は、失業率の上昇と無活動状態の増加にもつながる可能性がある。実際、失業した移民が困難な労働市況に働く意欲を失ったり、またパンデミックの前に仕事を探していた人が就職活動を止めたり、(ロックダウンや、閉校で家族の世話をしなければならないため)働けなくなったりしているとも考えられる。このような人々は、ILO規定に従い、労働力から外された。大規模な雇用維持制度が実施された国々や、臨時雇用の割合が低い国々では、その影響のほとんどは無活動状態の増加につながるだろう。後者の場合、失業率が低下することもありうる。また、ほとんどの影響が失業率の上昇という形で現れるだろう。

米国では。全体失業率が2020年4月にピークの14.4%に達したが、同年8月には8.5%に下落した。パンデミック以前は、移民の失業率は米国生まれの人々のそれより低かったが、現在は逆に2ポイント高い。米国とカナダで全体的に失業率が高いのは、雇用維持制度が多くの欧州諸国ほど浸透していないためである (OECD, 2020[24])。移民がどの程度こうした制度の対象となっているかは残念ながら不明である。とはいえ、以前の労働市場の数値を見ると、こうした制度の移民にとっての雇用安定効果はそれほど高くないようである。

とはいうものの、ほとんどのOECD諸国では、その国で生まれた人々と移民の双方について失業率が上昇しており、特に後者の方が上昇率がはるかに大きい。図 5は、2020年の最新データと2019年同期のデータを比較した失業率のポイント増加の概観である。データが入手できた国々のうち、ノルウェー、米国、カナダ、スウェーデン、スペインでは、移民の失業率が4ポイント以上上昇した。それぞれの国で生まれた人々の失業率が4ポイント以上上昇したのは、カナダと米国のみである。

 
図 5. 主要OECD諸国における移民と現居住国生まれの人々の失業率の変化(前年同期比:2019年半ば~2020年半ば)
%

注:ドイツ、オーストリア、スイスのデータについて、「現居住国生まれ(native-born)」はそれぞれの国籍を有するものを指し、「移民(immigrants)」は外国籍の者を指す。この図のデータは、オーストリア、カナダ、スウェーデン、米国については2019年8月から2020年8月までの変化、ドイツとスイスについては2019年6月から2020年6月までの変化を表している。その他の国々のデータは、2019年第2四半期から2020年第2四半期までの変化率である。

出典:各国の雇用統計のデータと労働力調査データ(LFS)に基づいてOECD事務局が算出。欧州諸国のLFSデータは欧州統計局から得ている。

移民の失業率が特に高くなったのはスウェーデンで、2019年8月以降の新規失業者のうち58%が移民である。オーストリア、ノルウェー、ドイツでは、新規失業者の3分の1以上が移民または外国人である。

ギリシャでは、移民と同国生まれの人々の失業率の推移が逆になっている。移民の失業率が2ポイント以上上昇したのに対して、ギリシャ生まれの人々の失業率はわずかだが下落した。

この状況は現在も変化し続けている。これは例えばデンマークでは、2020年3月初め以降の失業者数の推移を表す数値から、当初は同国生まれの人々の失業率の方が大幅に上昇した。しかし、時間の経過とともに状況が変化し、8月以降は移民の方が失業発生率が高くなった。

経済活動が停滞する中では、失業者の増加については慎重な解釈が必要である。それは、雇用者数が減少すると失業者の比重が高くなる可能性があるからである。大半の国々で失業者数の増加は雇用率の低下と関連していたが、顕著な例外もいくつかある。例えば、ベルギー、フランス、イタリアでは、雇用の減少が失業者の増加ではなく不活動の割合の上昇とともに起きた。

こうした変化には、パンデミック初期の労働力調査データのが十分に利用できないことが反映されている可能性がある。実際、行政のデータの方が一貫性のある全体像を示している。例えばベルギーでは、国籍別の一時的失業保険申請に関する行政データによると、2020年3~8月の全期間で、外国籍の労働者の方が申請が多い。この数値は、3月は+5.9ポイントだったが8月には+8.7ポイントに上昇した。同様に、少なくとも1日以上一時的に失業した者に対する最終的な支払金の件数(7月までの期間)でみると、支払いを受けた人々に占める外国籍の人の割合が、雇用者全体に占める外国籍の人々の割合に比べて7.5ポイントも高い。

特定グループへの影響

特定のグループへの影響は、千差万別である。例えばドイツとオーストリアでは、EU加盟国の国民の失業率の上昇幅は、両国の国民のそれの約2倍であったが、それでも他の移民グループと比べれば低かった。それに対してスペインでは、EU市民の失業率が14.8%から20.5%に急上昇し、EU加盟国ではない国々出身の外国人の失業率よりも高くなった。ノルウェーでは、中東欧出身の移民女性がこれまでのところ最大の影響を受けており、失業率は10ポイント以上増加した。ドイツのデータも女性への影響が不当に大きいことを示している (Anger et al., 2020[25])

同様に、難民への初期の影響に関するデータも、多様な傾向を示している。ドイツとオーストリアでは、主な難民出身国の国民の失業率は2019年には30%を超えていたが、2020年はさらに5ポイント以上上昇した。この上昇幅は、オーストリアとドイツの国民の失業率の上昇幅の3倍以上である。両国とも、難民の現在の失業率は40%を超えている。それに対してスウェーデンでは、難民とその家族向けの初期支援プログラムの履修完了90日後に行われる就労に関する公共雇用サービスの第1回データからは、難民の方が失業しやすい、または無職になりやすいとは言えない。これは全体的に失業の発生率が高まったことと対照的であるが、スウェーデン当局が様々な賃金助成制度の期間を1年延長したことがこのような結果につながったと考えられる。この措置は、同国での滞在期間が短い難民にとっては過度に有利に働いている。

英国の出身国別の時系列データによると、ロックダウンの期間中にBAME系移民の失業率が他の移民と比べて大幅に上昇したが、この傾向は、「白人」と自己申告した移民グループでは見られない (Hu, 2020[26])。興味深いのは、BAMEグループの方が失業する確率が高かったが、一時解雇はわずかだが白人より少ないことである。つまりこれは、BAME系移民は一時解雇ではなく完全に失業する可能性が高いということである。

移民の子孫で現居住国で生まれた人々への影響については、現在データがあるのはノルウェーのみである。同国では、移民の子孫の失業率は7.5ポイント上昇しており、移民一世よりも若干高かった。実際、初期の低い失業水準(2019年第2四半期では3.4%)を考慮すると、相対的な影響はより大きかった。

教育レベル別の影響に関する実証は今のところほとんどないが、数少ない実証によると、コロナ危機は主に低技能の移民に影響を及ぼしている。例えばイタリアでは、学歴のない外国人の雇用率は10ポイント以上下落した。これは後期中等教育以上の学歴を有する者の2倍である。同様に米国では、高等学校の卒業資格かそれ以下の移民の失業者数の増加幅は、それ以上の学歴を持つ移民の2倍であった。さらに、米国生まれの人々では、教育レベル別の失業率の差はそれほど顕著ではなかった。

見通し

労働市場への移民の統合に関する見通しは、特定の業界への影響を含め、全体的な経済状況の変動に大きく左右されるが、COVID-19による打撃が最も深刻と見られるサービス業界で移民が多く働いていることを考慮すると、その見通しが良くないことは明らかである。求人に関する最初の指標からはすでに、移民が被る悪影響が不均衡に拡大する可能性が高いことがわかる。例えばオランダでは、移民の雇用と失業への悪影響がまだ見られないが、中央計画局は求人数が臨時雇用も含めて20%以上減少している職業に従事している確率を計算した (van den Berge, Rabaté and Swart, 2020[27]) 。それによると、高所得のOECD加盟国からの移民とその子孫は、オランダ生まれの両親を持つ人々と比べて、上記の職業に従事している確率が21%高く、その他の移民とその子孫では34%高かった。

 移民の雇用に及ぶ影響を軽減するための政策対応

a. 失業者と所得が減少した人々に対する滞在支援

失業した移民労働者は、在留許可の条件を満たそうと苦心していることが多い。これに対して、多くの国々が、合法的に滞在する移民が不法滞在者になるのを防ぐために、滞在許可の延長や一時出国義務の免除などの措置を取った。例えば、スペイン、ギリシャ、チェコ、ドイツは、パンデミック中に失業した移民の滞在許可を取り消さなかった。またフランス、スロベニア、エストニア、イタリア、アイルランド、ポーランド、ポルトガルなどは、滞在許可を一定期間自動的に延長するか更新した。延長期間は、国家非常事態の終了後までの場合もあれば、事前に指定された暦日までの場合もある。多くのOECD諸国は、一時的なビザ発給を行い、将来のビザ申請にマイナスの影響が出ないように在留期間を延長した (OECD, 2020[1]; EMN/OECD, 2020[7])。オーストラリア、オーストリア、英国など、就労許可を有効にする条件として一定の所得水準を設けている国々では、柔軟な追加措置が導入された。さらにオランダやアイルランドなどいくつかの国々は、求職中の留学生が卒業後も国内に滞在できる期間を延長する措置を採った (EMN/OECD, 2020[28])

b. 支援措置の対象拡大

多くのOECD諸国は、失業手当の受給条件と期間を改正し、その一部が特に雇用契約が比較的不安定で保険料納付期間が短い移民に便益となるようにした。例えば、ベルギーは「不可抗力による一時的な失業」の制度にCOVID-19のパンデミックを含めた。その結果、労働者は支援を受けるために雇用者として働いた日数の条件を満たしているという証明をする必要がなくなった。同様にスペインでは、失業手当を受給するために必要な最低就労期間(過去6年間で360就業日)の適用を一時停止した。アイルランドでは、パンデミックが原因で失業した人はすべてCOVID-19失業給付を受給できる。フランスは、ロックダウンの影響を受けた雇用者の部分失業に関する規則を変更した。スウェーデンは、助成金つき雇用の期間を1年延長した。これは、主な対象グループである移民、特に最近入国した人々に恩恵を与える措置である。

多くのOECD加盟国が、雇用主や企業に対する支援措置を導入している。こうした制度は総合的なもので、外国人も対象に含まれている。その一例が、2020年3月のイタリアの緊急措置令で、危機の経済的影響に対処するため幅広い措置を導入した。オランダでは、起業活動促進ビザまたは自営業の在留許可を有する外国人は、事業資本のための所得支援と融資を受けられる「自営業者のための臨時措置」を申請できる。スウェーデンは、起業者への財政支援を延長したが、新規の企業は、移民が運営している場合が多い。

c. 就労許可の拡充

就労許可は、特定の部門または雇用主に限定されていることが多い。COVID-19危機の期間中は、パンデミックを考慮して、一部の国々ではこうした制約が緩和された (EMN/OECD, 2020[7])。例えばチェコでは、失業した移民労働者は、雇用主や産業部門を変更する許可を得られる。フィンランドでは、有効な在留許可を持つ外国人労働者は、2020年10月末までは雇用主または雇用分野を変更することができる。ニュージーランドは、エッセンシャルサービスに従事する臨時雇用の外国人労働者が勤務時間を調整したり、現在の雇用主の元で別の職務を行ったり、別の職場で現在と同じ職務を行ったりすることができるようにした。

導入された政策の中には、学生や庇護申請者を含む他の移民の就労権を拡大したものもある。例えばベルギーでは、雇用主が庇護者となっている庇護申請者について、従来は4カ月の待機期間が設けられていたが、6月末までは直ちに働くことを許可した。スペインは、学生と庇護申請者を含む18~21歳の第三国(EU以外)の国籍を持つ若者は、2020年9月末までは直ちに働けるようにした。アイルランド、フランス、ベルギーなどは、留学生に許されている労働時間数を増やす一方、カナダやオーストラリアは、留学生がエッセンシャルサービスに従事できるよう、従来設けられていた勤務時間数の上限を撤廃した。

d. 外国資格認定の緩和およびその他の措置

多くのOECD加盟国が、すでに国内在住の外国人医療専門家をより迅速に就職させるための政策を採用している (OECD, 2020[29])。イタリアの他カナダの一部地域、米国のいくつかの州では、外国で医学の学位を取得した医師に一時的な免許を与えた。チリとスペインでは、国の保健医療サービスで採用を推進しており、ベルギー、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルクなどでは、医療専門家が外国で取得した資格の認定申請プロセスを迅速化した。フランスは、外国で訓練を受け、医療部門で医療以外の仕事を行っている労働者の雇用を認めた。

イタリアでは、不法滞在者が3月8日以前から国内にいたことを証明でき、農業部門または家事労働部門で働いていれば、新規の就労許可を得られる。7月初めまでに、3万件以上の申請があり、その大半は家事労働者であった。

これらの行政管理上の変更以外に、具体的に対象を絞った支援措置を実施している国はほとんどない。その中でもノルウェー政府は、移民を対象に、より多くの支援を提供し労働市場により迅速に参加・包摂できるよう能力を向上させることを目的として、4億5,600万ノルウェークローネの対策パッケージを提案した。

最後に、ドイツは、移民起業家向けに具体的な支援措置をいくつか実施しており、その中には、利用可能な危機支援措置に関する情報が5言語で掲載されているオンラインプラットフォームや、州による支援の給付申請を含む全ての州で厳しい状況にある移民企業を支援するための専門ケースワーカーのネットワークなどがある。

 移民の子どもの教育への影響

 パンデミック期に移民の子どもの教育に影響を与える固有の要因

OECD諸国の学校閉鎖は、順次包括的に実施され、全レベルの教育においてオンライン学習の機会が重要なものとなった。学校にはかつてないほど良いデジタルツールが備わっているものの、デジタル学習の機会はまだ平等ではない。移民の子どもたちはこの新たな変化に対応するための備えができていない場合が多い。移民の子どもの割合が大きいOECD諸国の大半で (図 6) 、移民の親を持つ15歳の生徒は、現居住国生まれの両親を持つ同年齢の生徒に比べると、自宅に利用できるパソコンがなかったりインターネット接続ができなかったりする場合が多い。しかし、こうした格差はあるものの、全ての国々で、移民の親を持つ生徒の圧倒的多数は、パソコンもインターネットも利用できる。

 
図 6. 自宅におけるパソコン利用とインターネット接続の状況(15歳の子ども)
%

出典: OECD, PISA 2018 Database.

しかし、移民の親を持つ子どもは、現居住国生まれの親を持つ子どもに比べて、経済、社会、文化的に恵まれていない傾向がある (図 7) 。デンマーク、スロベニア、アイスランド、ギリシャでは、15歳の移民の子どもの半数以上が、経済、社会、文化的状況が下位4分の1に含まれていた。2 OECD諸国平均では、移民の親を持つ生徒は、経済、社会、文化的地位についてのPISAインデックスで下位25%にある割合が2倍である。直近のOECDの調査では、このような恵まれない出自の生徒はより恵まれた生徒に比べて、静かに学習できる環境を持てる割合が低く、パンデミック以前から学業のためにテクノロジーをあまり活用できていないことが分かっている(OECD, 2020[30])。実際には、移民の親を持つ生徒は静かな学習環境が利用できる割合が一貫して低いが(ニュージーランドの外国生まれの生徒を除く)、ここでも大きな違いは見られず、全てのOECD諸国で、移民の子どもの少なくとも4人のうち3人が、自宅に静かに学習できる場所があると報告している。

オンライン学習では、生徒の学習を支援する家族の役割が重要である。移民の親を持つ生徒は、平均すると親の学歴が低く社会経済資源が乏しい傾向があり、親の教育制度に対する理解度も低い場合がある。このように、移民の親を持つ生徒は、現居住国生まれの親を持つ生徒にはない困難を抱える傾向がある。

 
図 7. 恵まれない生徒の割合、移民の出自別
経済、社会、文化的地位についてのPISAインデックスで下位25%に含まれる生徒の割合

注:経済、社会、文化的地位(ESCS)についてのPISAインデックスは、親の職業、親の最終学歴、家庭の財産に関連して持ち家指数、自宅の教育資源、家庭内の「伝統的な」文化に関連する所有物についての生徒の報告により作成された。移民の親を持つ生徒とそうでない生徒との割合の差が統計的に有意である場合は、色が濃くなっている。移民の生徒の割合が5%を超える国々のみを表記。

出典: OECD, PISA 2018 Database, adapted from OECD (2020[31]).

オンライン学習で成果を上げる移民の生徒の能力と、彼らの学校システムのこうした変化への備えに恵まれない出自という状況が及ぼす影響だけでなく、その他にも、移民の親を持つ子どもがこの新しい学習方法で成果を上げる能力に影響する要因がある。移民先の国の言語が理解できないと、家庭学習がさらに難しくなる可能性がある。指導がオンラインで行われると、言葉の壁が立ちはだかり、特に親の支援不足が顕著になる。オンライン学習で級友との日々の接触や教師との交流が少ない中では、移民の親を持つ生徒が言葉の壁を乗り越え、移民先の国の言葉を学ぶことはさらに難しくなる可能性がある。移民先の国の言葉を話さない生徒の割合が高い国々では特に難しい。2018年の全OECD加盟国の平均では、移民の親を持つ15歳の生徒の半数近く(48%)が、自宅でPISA評価で使われる言語を話していなかった。この割合は、オーストリア、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ルクセンブルク、スロベニアで特に大きかった (図 8)。

恵まれない生徒に関する利用可能な比較データはPISAデータに基づいているため15歳の生徒についてのものであるが、移民の子どもへの悪影響は、幼少であるほど高くなると考えられる。子供は小さいほど親の支援に頼ることが多く、数カ月間移民先の国の言葉を習得する機会があまりないことの影響は、幼いほど大きい (OECD (forthcoming[32])も参照)。

 
図 8. 学校の需要で使われる言葉を家庭で使わない生徒の割合、移民の出自別

注:移民の親を持つ生徒が5%未満の国は、この図に掲載していない。

出典: OECD, PISA 2018 Database, adapted from OECD (2020[31]).

 移民の子どもの教育に対するマイナスの影響を緩和するための政策対応

OECD・ハーバード大学教育大学院調の調査では、学校閉鎖が教育の継続性に及ぼした影響を、小中学校の生徒の半数に関しては少なくとも2カ月分の指導に相当すると推定している (OECD, 2020[33])。学校閉鎖中、オンライン授業や教育番組の放送などの遠隔学習手段や、パソコンを用いた学習が数多く実施され、学校と学習者の間を埋めたが、特に移民の子どもたちの教育への影響は依然として不明である。しかし、学習教材について、不均衡な影響を示す実証はほとんどない。パンデミック以前から、OECD諸国平均で、学校で利用できる教育目的のパソコンは、15歳の生徒1人当たりほぼ1台設置されており、ほとんどの国々で学校でのパソコンの利用可能性は自宅よりも公平である。実際、多くのOECD諸国で、パソコン1台当たりの生徒数は恵まれていない学校の方が恵まれている学校より多い。パンデミックに対応するため、多くの国々では、パソコンを必要とする生徒全員に配布しており、移民の子どもを含む恵まれないグループへのマイナスの影響がさらに緩和されているはずである。

同様に、卒業試験の停止・延期が移民の子どもに与える影響に関する初めての実証からは、影響が多様であることがわかる。学校で追跡調査を実施しているオランダの調査 (Swart et al., 2020[34])によると、小学校の卒業前に実施される全国統一試験がなかったために、オランダの1万4千人の子どもが、中学校のレベルについて統一試験が実施された場合より低い「アドバイス」を受けるものとみられる。移民の親を持つ子どもは、このグループに多数いると考えられる。これに対し、中学校の最終学年の生徒について前年のデータと比較すると、移民の親を持つ子どもは、全国統一試験がなかったことにより、その国で生まれた親を持つ子どもよりも卒業できる可能性が高いことが分かっている (Swart, Visser and Zumbuehl, 2020[35])

いずれにせよ、潜在的な学習の不足は大方一時的なものと考えられるが、教育的向上心の低下や不登校など、従来型の学校教育の欠如にによって生じるその他の要素は、各生徒の将来に長期的な影響を与える可能性がある。教育におけるこのいわゆる「ヒステリシス(hysteresis)」現象には特に注意すべきである (OECD, 2020[33])

実際、フランスやノルウェーなどいくつかのOECD諸国では、パンデミック後に移民の子どもが退学したという報告がある。移民の生徒の学業への悪影響を防ぐには、生徒が厳しい状況でも意欲をなくさず、学習を継続できるようにし、学校の授業時間以外でも移民先の国の言語で交流できる新たな機会を提供する必要がある。移民の親を持つ生徒とその国で生まれた生徒との間の格差は、多くの国々で縮まってきたところだったが、このパンデミック期にそれが広がる可能性がある (OECD/European Union, 2018[2])

 初期支援および語学学習への影響

 社会統合策に影響を及ぼすパンデミック特有の要因

COVID-19による世界的規模に近いロックダウンにより、多くの移民、特に移民してきたばかりの人々が履修していた語学コースが中断された。大半の国々では、制限が課されたことから対面の社会統合コースは中止を余儀なくされたものの、最近その多くでの対面コースが再開した。パンデミック以前にもオンライン語学コースを選択できる国もあったが、このようなプログラムは履修資格のあるすべての移民に提供できるほどの規模ではなかった。社会統合プログラムを完全に停止した国も少なくない。OECD全体で、語学支援や社会統合を使命とするボランティア組織も活動を一時停止した。

語学学習が中断したことで、非常に不利な立場に置かれる移民もいる。移民先の国に到着してから最初の5年間は、移住者が公的制度や利用可能なサービスを習熟する重要な期間である。語学学習が継続できないと、語学コースで上達が見られず、意欲を無くしてしまうことが多い。非公式な学習を支援する受入国の人々からの社会的孤立が生じることも懸念される。移民先の国の言葉が理解できる移民は、受入国の言語がほとんどあるいは全く話せない移民に比べるとネイティブ話者との接触機会が多い。それは、一つにはネイティブと話す必要があるという点で雇用される可能性が高いからである。そのため、特に受入国の言語の理解力が初歩的な移民は、雇用可能性とより広範な社会統合の面で、語学プログラム中断の影響を受ける。

 マイナスの影響を緩和するための政策対応

2020年春、各国はこうした問題を緩和するため様々な措置を講じた。スウェーデンは、社会統合プログラムの受講資格を12カ月延長した。デンマークは、必須試験の期間を延期し、試験なしでも新しい課程に進めるようにした。ロックダウンによる孤立の面に対応するため、ネイティブ話者とのオンライン語学指導プログラムやスポーツの個別指導を設けた国もある。英国は、孤立するグループの社会的接触を改善するためのツールを模索するために実証の収集を開始した。ロックダウンは、コース提供者にとっても財政的に厳しくなることが多い。そのためドイツでは、こうした人々に財政的支援を提供するプログラムを実施した。

コロナ危機は、デジタル・遠隔学習業界に急速な革新を促した。授業の延期により、学習が不足し中退の可能性が高くなることが確認されているため、多くの国々が新しいデジタルツールに注目したり、既存ツールの使用を大幅に増やしたりしている( コラム 3参照)。一方、移民したばかりで移民先の国の言語知識がほとんどあるいは全くない移民グループにとって、遠隔学習への移行は、上級コースにはない独特の課題を抱えることになる。例えば、ドイツの初級語学研修コースは、他国と同様、ロックダウン期間中に事実上中断したが、職業訓練向けの上級語学コースの3分の1は、スムーズにオンラインに移行した。オンライン授業への移行に積極的に対応した移民もいれば、学習を断念した者もいた。オーストラリアのロックダウン中のオンラインコースに関する評価によると、オンライン授業への移行は、介護職の人々にはうまく機能したが、庇護申請者、難民、識字率が非常に低い他のグループについてはそうではなかった。全体として、参加者の60%がオンライン授業を楽しみ、40%が柔軟性の向上に満足し、また80%の生徒がこの期間にスキルが向上したと回答している。しかし、70%は対面授業ならもっと向上したはずだとも述べている。

 
コラム 3. ロックダウン中の遠隔学習アプローチ

ロックダウン中、オーストリアの統合基金(Österreichischer Integrationsfonds)は、欧州言語共通参照枠(Common European Reference for Languages, CEFR)のレベルA1~B1の無料オンライン語学コースを提供し、参加資格を有する2万人の移民が参加した。この人気の高さを考慮し、同省は今後も、対面授業とオンラインの混合プログラムやオンライン授業を継続することを検討している。

ドイツは4千万ユーロを投資し、政府サービスの停止により各コースが中断しないよう、約7千のオンライン授業を承認した。また、色分けされたマーカーを使って生徒が教師と答え合わせができる学習ポータル(vhs-Lernportal)の利用を促進した。このポータルは、デスクトップとスマートフォンの両方に対応している。なお外出制限中にオンライン授業を楽しんでいると報告した移民が多かったものの、限られた人数しか同コースを利用できなかったため、ドイツ連邦移民・難民庁は、同期間中に実施されたクラスは「ボーナス」で、移民の言語学習資格として考慮されないと決定した。履修資格のある移民の38%が、この期間中に無料オンラインコースに移行した。職業別語学研修は、参加者の人数を3分の1に減らして維持され、社会統合コースは低料金で維持された。

フランスは、ロックダウン中も社会統合への支援を継続できるよう、すでに社会統合プログラムの枠内でフランス語コースを開始していた移民に、週15〜24時間の遠隔学習を提供した。遠隔授業は、インターネットの利用、基本的な技術力とフランス語力が必要であったため、参加者6~10名のグループ向け100時間コース(開始時のレベル分けでA1レベルに最も近い移民向け)と、3~5名のグループ向け200時間コースを対象に行われた。授業以外の学習は、アプリやラーニングウォール、電子メールで行われた。筆記演習に関する個別支援や補習も行われた。このプログラムは、アプローチを試すために小規模で実施された。フランスは、この実験で得られた教訓に基づき、将来的にEラーニング形式のプログラムを一般コースに統合する予定である。

既存のツールを活用できた国もある。例えばポルトガルのオンライン語学学習プラットフォーム(Plataforma de Português Online)では、学習者が2つのモジュールにより学習を進めることができる。ユーザーは、登録後に自分の母国語を選択するよう案内され、指示や教材は母国語で提供される。レッスン全体を通じ、テキストと音声の双方でツールの説明がなされ、各ユーザーにチューターが割り当てられる。エストニアでは、英語とロシア語両方の話者向けにEコースを提供している。移民の生徒は、エストニア人の教師と電子メールでメッセージを交換し、支援を受けられる。

重要なのは、移民が技術やデジタルリテラシーの不足を理由にコース学習ができなくなるのを防ぐことである。フィンランドでは、すでに長い歴史を持つ遠隔学習プログラムが確立しており(ある大手プロバイダーによると2019年の中退率は3%、200日間コースを修了した移民の52%がレベルB1.1以上の目標を達成)、移民には通常、コースの開始時に端末が提供される。外出制限期間中は、オンラインツールを操作できない生徒向けに、コース教材の送付や宿題の提出に郵便を利用した。ドイツは、ロックダウン期間中のコース履修を通常の受講資格分としてではなく、オンライン個別指導の補足として提供した。このような政策によって、デジタルリテラシーが低い移民は、対面授業が可能になったとき再開する意欲が高まると考えられる。ベルギーでは、オンラインコースを受講するのに必要な機器が入手できない移民に対し、管轄機関を通じて端末を配布した。

語学研修とその他の初期支援活動を担う組織が広く分散化しているシステムでは、遠隔学習への適応がより難しかったようである。例えば、ノルウェー応用社会問題研究所(FAFO) (2020[36]) がパンデミック期の自治体の初期支援活動−主に語学学習−に関して行った報告によると、2つに1つの自治体がこの新しい状況に適応するのに苦心していることが分かる。

今後、各国がCOVID-19の経験を生かすには、プログラムに柔軟性を加え、将来的にオンラインコースをより有効に活用することができるよう改善分野を特定することが必要である。それと同時に、最も弱い立場のグループには、現在のところ教室での対面学習に代わるものはほとんどないことが明らかになった。この状況において、いかにして困難に遭遇する可能性が高い移民に最適な支援を届けられるかを把握し、こうした困難に取り組むことが最も重要である。

 移民に関する世論への影響

 世論に影響を及ぼすパンデミック特有の要因

COVID-19が世界中で注目を集め、議論の的となる中、世論における移民問題の重要性が薄れてきているように見える。しかし、移民問題は、COVID-19に関する2つの主要かつ対照的な問題の中核にある。1つには、医療部門は移民の労働力に大きく依存している。その他のエッセンシャルワーク(農業、店員、配達サービス)でも多数の移民が働いているという事実を考え合わせることで、OECD諸国における移民の経済的・社会的貢献が浮き彫りになっている。それと同時に、当初のウィルス感染拡大の重要な要因が国境を越えた人の移動であったことから、移民がウィルスを拡散しているとして攻撃される事態も発生している。

こうした2つの対照的な状況にある移民に関して、世論の純粋な影響は不明である。しかし、世界大恐慌および世界的な金融危機後の景気後退の経験を考えると、経済状況の観点から移民に対する世論を理解することができる。失業率が高まると、特に低技能労働者の間で移民に対する世論は厳しくなり、意見が大きく分かれる傾向が伺える (Finseraas, Pedersen and Bay, 2014[37]; Hatton, 2016[38]; Mcginnity and Kingston, 2017[39])。失業率が高まり、公共財政がひっ迫する中では、移民問題と移民に関する世論がより否定的になることが予想される。.

 世論へのマイナスの影響を緩和するための政策対応

いくつかのコミュニケーションキャンペーンは、パンデミック期に移民に対する世論の反発を防ぐことを目的としており、特に移民がウイルスを拡散しているという誤情報対策に重点を置いている (OECD, forthcoming[18])。このような中で、国連は、COVID-19に関連するヘイトスピーチ対策として「指針(guidance note)」を公表し、政府とメディア(ソーシャルメディアを含む)に対する一連の勧告を行った。国際移住機関(IOM)は、メキシコと共同で、大規模かつ分散型のソーシャルメディアキャンペーンを実施した。このキャンペーンは、移民がCOVID-19の拡散を加速しているという仮説に基づく差別を防ぐため、移民用シェルター、安全な住宅または臨時のキャンプ施設がある共同体の住民を対象としている。バルセロナやニューヨークなど、多数の地域コミュニティも、移民に対する誤情報や差別に取り組むため、特別なコミュニケーションキャンペーンを開始した。

世論を対象としたCOVID-19の情報キャンペーンのほとんどが国際機関や地方自治体によって実施されている一方、いくつかの国々の政府も具体的な措置を講じている。例えばドイツ連邦反差別局では、同局に寄せられる苦情の増加から判断し、パンデミックに関連して人種差別や反ユダヤ主義的な差別が台頭していると判断した。それに対して、人種差別の増加に対する意識啓発のための特別キャンペーンを開始するとともに、被害者が支援を得るための方法について情報を提供している。フィンランドでは、政府がソーシャルメディアのインフルエンサー(高い影響力を持つ人々)を通じてCOVID-19に関する誤解に対処する大規模な全国キャンペーンを開始した。

最後に、パンデミックにおける移民の貢献を公に認めている国々もある。例えばフランスでは、ロックダウン中に最前線で働いていた移民に対し、市民権付与手続きプロセスを加速させる予定である。

 政策当局のための対策

本稿で示したとおり、移民とその子どもたちは、パンデミックの初期段階に特に不利な影響を受けており、将来の健康と社会統合双方についても引き続き大きな影響を受ける可能性が高いことが全ての指標からわかる。それは、多数の移民が流入し、受入国の社会にうまく統合した期間の後に生じている。コロナ危機が続き、そのマイナスの影響が、とりわけ雇用の面で特に入国したばかりの多くの移民に及ぶ時期に、パンデミックが移民の社会統合危機に変わらないようにすることが急務である。この目的に対し、次の政策オプションが考えられる。

  1. 1.

    健康、雇用、教育という観点から移民とその子どもたちの状況を把握し、課題とそれに対する適切な政策対応を明確にする。

  2. 2.

    移民の健康への過度な影響を緩和するため、移民がCOVID-19の検査、治療を確実に受けられるようにする。とりわけ検査に関しては、障壁を取り除こうとしている国が多いが、他の国、特に検査にまだ制限がある国々では、支援を強化し、残された財政的・法的障壁を取り除く必要がある。

  3. 3.

    移民のための住宅や雇用条件が、ウイルス感染予防のための衛生基準を順守していることを確認する。 これは特に、集合住宅に住む一部の移民グループ(亡命希望者、季節労働者)と特定の厳しい職場環境で働く人々(食肉加工業で働く移民)にあてはまり、こうした条件により保健衛生面で特に弱い立場にいる。

  4. 4.

    労働市場へのパンデミックの影響が、移民とその子どもで移民先の国で生まれた子どもたちへの差別を強める恐れがあるため、差別に関する認識を高め、反差別の対策を強化する

  5. 5.

    経済・雇用支援策が、雇用者と自営業者双方を含む全ての移民に確実に届くようにする。これは形式上支援策が利用できるというだけにとどまらず、情報を提供し実際にこれらのグループに支援を提供するということである。

  6. 6.

    移民の貢献を忘れず、適切な報酬を与える。

  7. 7.

    語学研修などの初期支援で、特に参加や一定の成果が義務付けられている場合は、柔軟性を高める

  8. 8.

    遠隔学習において移民の子どもたちが直面する固有の問題に取り組む。 学校閉鎖と遠隔学習に関する決定と適切な支援措置を講じるという観点から、このニーズを分析する必要がある。

  9. 9.

    通常の社会統合策の枠外でも、移民がその居住国の出身者と交流する機会を提供する。 この点においては、関心を引くイニシアチブとして、社会統合コースのロックダウン中にドイツが提供したオンラインによる個別指導がある。

最後に、移民の社会統合は投資だということを念頭に置くことが、これまで以上に重要である。各国が財政刺激策を実施する中で、移民の社会統合に関する重要な構造的問題に対処するため、財源の一部を活用する必要がある。今、投資が不十分だと、移民、特に入国したばかりの多数の移民の社会統合に長期的にマイナス影響が及び、移民自身だけでなく、その国で生まれた彼らの子どもの世代にまで影響が及ぶことになる。移民とその子どもの人口に占める割合が高くなっていることを考えると、格差の拡大や機会の不平等といったリスクは、最終的に社会的結束に対する脅威にもなるため、適切な対策を取る必要がある。

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担当

Stefano SCARPETTA (✉ stefano.scarpetta@oecd.org)

Jean-Christophe DUMONT (✉ jean-christophe.dumont@oecd.org)

Thomas LIEBIG (✉ thomas.liebig@oecd.org)

1.

本稿では、“migrants”、 “immigrants”、“foreign-born” という言葉を同義語として使用している。(訳注:前者2つを移民、後者を外国生まれと翻訳している)特に記載がない限り、その中には移民カテゴリー、法的地位、国籍に関係なく、海外で生まれた人々を全て含む。同様に、特に記載がない限り、native-born(訳注:現居住国生まれの人々と翻訳している)には、両親の出生国や属する民族に関係なく、その国で生まれた全ての人々を含む。それに対して「移民の子ども」は、外国生まれの両親を持つ全ての人々を指す。したがって、現居住国で生まれ移民の両親を持つ子どもが含まれる。

2.

経済、社会、文化的地位(ESCS)についてのPISAインデックスは、親の職業、親の最終学歴、家庭の財産に関連して持ち家指数、自宅の教育資源、家庭内の「伝統的な」文化に関連する所有物についての生徒の報告により作成された。

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