新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機の発生から1年が経ち、未来は確かに明るくなっているように見えるが、今はまだ人々と企業への政策支援を撤回する時期ではない。多くの国々で労働市場の状況を示す主要指標は2020年第2四半期のそれより改善しているが、雇用保護措置によって保護されている労働者が数百万人おり、またその他に失業者数が数百万人に上る。今後数か月間、各国が復興計画の実施準備を進める中で、依然として危機の影響を深刻に受けている世帯と企業への支援を継続しつつ、雇用創出と仕事復帰のインセンティブを与えることが不可欠である。こうした措置がなければ、復興は経済的、社会的にさらに悪い状態から始まることになる。短期的なコストは高いが、大量倒産、大量失業、経済不況、労働市場の悪化のコストよりは遥かに低い。さらに、その短期的なコストは支援を最も脆弱な部門、起業、世帯、そして起業と雇用創出への支援に対象を絞ることで削減することができる。
雇用・企業支援: 復興期への橋渡し
Abstract
主な問題点
新型コロナウイルス(COVID-19)は、我々の思い出せる中で最大級の世界的な健康、社会、経済的危機を引き起こした。その危機の発生から1年が経ち、いくつかの国々が記録的な速さで複数のワクチンを開発、承認した。未来は確かに明るくなっているように見える。しかし、まだ政策支援を削減するには時期尚早である。それは、世界金融危機後の苦い経験からも明らかである。
雇用保護措置によって保護されている労働者が数百万人おり、またその他に失業者数が数百万人に上る。実際、多くの企業の財政状況は弱まっている。さらに、ウイルスの新しい変異株とワクチン計画のロジスティクスのせいで、今後数か月は経済活動が引き続き制限されるだろう。OECD諸国ですら、ウイルス感染を防ぐための国民への広範囲にわたるワクチン接種は、早くても2021年第3四半期以降になると見られている。したがって、支援が継続されなければ、倒産と失業が急増するリスクは非常に高い。
今後2~3カ月間に、各国は、経済に強い影響を与える感染の押さえ込み措置に頼らざるを得ず、COVID-19の経済的影響を受けている世帯と企業への支援を継続することが不可欠である。支援を最も必要としている世帯と再び採算が取れるようになりそうな雇用に的を絞って支援を提供する一方で、雇用創出と職場復帰のための正しいインセンティブを与える必要がある。支援を必要としている人が多い中でそれを拙速に撤回すると、感染の押さえ込み措置の影響が深刻な産業部門で、大量倒産、大量失業が発生する恐れがあり、復興がより困難かつ不確実になる。特に、強い政策措置が必要なのは以下の分野である。
この健康危機の影響が引き続き深刻な産業部門と労働者への支援;
高い実績を上げているが債務超過に陥っている企業の事業創造を奨励し倒産を回避する;
採用活動を促進し、支援を求職者と雇用主のニーズに沿ったものにする。
若者には特に注視すべきである。世界金融危機後は若者を支援する確たる措置が数年も遅れたため多くの若者が不利益を被ったが、今回の危機が若者のキャリアに長期にわたって爪痕を残すことがないように、各国は若者が労働市場や教育制度のとのつながりを維持できるよう早急に行動を起こす必要がある。
はじめに
SARS-CoV-2の発生から1年が経ち、世界がパンデミックから抜け出す方法がいくらか確かなものになっている。記録的な速さで複数のワクチンが開発、承認、供給されており、近い将来、厳格な押さえ込み措置が撤回されるという期待が高まっている。政府と中央銀行による異例の行動のおかげで、最悪の状態は避けられた (OECD, 2020[1])。世界的に多くの部門で活動が回復しており、崩壊した雇用も部分的に好転している。ほとんどの経済構造が温存され、急速に息を吹き返すことができた。
しかし、「勝負は最後までわからない(“it ain’t over till it’s over”)」。2020年12月のOECD Economic Outlookでは、世界はパンデミックをくぐり抜け、2021年には世界のGDPは4.2%まで上昇すると予測してる。しかし、不確実性は依然として非常に高い。成長は、パンデミックの状況、ウイルスの新たな変異株の影響、医療政策の有効性、ワクチン接種の広がり、深刻な影響を受けている企業、労働者、家計への継続的な政府支援にかかっている。それと同時に、ワクチンの製造と供給には、依然として重大な弱点がある。集団免疫が獲得できるくらい充分な人口にワクチンを接種させられるまでには、恐らく1年以上かかるだろう (Anderson et al., 2020[2])。さらに、新たな変異株は感染力が強いと見られ、それが既存のワクチンの効果を引き下げるかも知れないという懸念もある。不確実な状態が長期化し景況感が弱まると、2021年の世界の成長率は約2.75ポイント下がると推定されている (OECD, 2020[3])。OECDの予測では、欧州と北米の寄与度の減少が顕著だが、それはワクチンの供給が早急かつ効率的に行われればいくらか巻き返すかもしれない。
さらに、世界経済が今後2年間に回復すると予測されている一方で、産出は2022年末になっても多くの国々で危機以前の水準を引き続き4~5%下回るとみられており (OECD, 2020[3])、パンデミックが原因の永続的なコストへの不安が高まっている。したがって、世界金融危機とパンデミックの第一波で得られた教訓を活かすことが重要である。拙速に警戒を解いたり政策支援を撤回したりするゆとりはない。
復興の始まりまでの移行期にはハンドル操作に注意する必要がある。多くの企業と世帯、特に社会的に最も弱いグループは、すでに1年間も闘っているのである。雇用保護措置での回復期にはハンドル操作に注意する必要がある。多くの企業と世帯、特に社会的にもとも弱いグループは、すでに1年間闘っているのである。雇用保護措置の利用は、2020年4月のピーク時よりは減少したが、パンデミックの第二波によって再び増加している。それと同時に、回復している企業と依然として財政的に弱く回復しそうもない企業との格差が拡大している。そうした状況で、支援に値する採算の取れる雇用の特定が以前にも増して重要になっている。
バランスを取ることは、容易ではない。世界金融危機直後のように支援をあまりに拙速に撤回すると、倒産する企業が増え失業率と貧困率が上昇することになり、経済的困難が人々の幸福に目に見える影響を及ぼす。適切な公的支援がなければ、世帯は食料、住居、医療といった必須の消費を切り詰めたり、教育や訓練の費用を節約せざるを得なくなる (OECD, 2014[4]). 。特に若者は、世界金融危機の時のように、今回の危機でも再び大敗北を喫する恐れがある。彼らは、賃金の低下や雇用見通しの悪化に加えて、子供を持つことから、犯罪に手を染めること、健康状態に至るまで様々な社会的成果において、生涯にわたってCOVID-19危機の代償を支払い続けなければならない (Wachter, 2020[5])。
政策当局が現在抱えている主な問題は、雇用創出を促進し採用活動を行っている企業や産業部門への再配分を進めながら、移行期の支援措置をこのような不当に影響を受けた人々にどのように適応させるかということである。特に、寛大な所得支援は、中期的に労働市場の成果を悪化させ、働く意欲を減退させて回復を遅らせると懸念されている。しかし、世界金融危機のときの実証によると、求職者が多い場合に限り助成を提供することの費用対効果はそれほど大きくない (Rothstein, 2011[6]; Lalive, Landais and Zweimüller, 2015[7]; Landais, Michaillat and Saez, 2018[8]; OECD, 2020[9])。
復興期への橋渡し
最近感染を広めている変異株を含むウイルスの活発さと、ワクチン接種を遅らせている製造・供給におけるいくつかの弱点により、景況感が損なわれ、厳格な封じ込め措置が引き続き必要となり復興に着手できるまでの期間が延びるかも知れない。各国が長期的な復興計画を準備する一方で、短期的なCOVID-19危機管理も二の次になってはならない。
一連の公的医療措置と安全な労働環境が、ワクチン接種が広がるまでは依然として新たなCOVID-19の発生を抑える鍵を握っている。それまでは、経済実績はウイルスの動態に左右されることになる。また、ワクチン接種の正の外部性のおかげで、ワクチン接種キャンペーンの有効性が経済復興と雇用に大きな影響を及ぼすだろう。そうすることで、その社会的便益と企業と世帯の決定に影を落とす不確実性を減らすという役割は、コストを大幅に上回る (Brito, Sheshinski and Intriligator, 1991[10]; Boulier, Datta and Goldfarb, 2007[11]) 。
危機からほぼ1年が経っても、将来の動向についての不確実性は依然として高く、多くの国々で厳格な封じ込め措置が採られている。「パンデミック疲れ」が広がるリスクが高まっている。長期にわたる不確実性及び低(または無)活動に耐えるための支援が得られるという確約がなければ、多くの企業、特に最も打撃を受けている産業部門の中小企業は倒産の危機に瀕する。
労働市場に関しては、以下のような強い措置が必要とされている:
この健康危機の影響が引き続き深刻な産業部門と労働者への支援;
高い実績を上げているが債務超過に陥っている企業の事業創造を奨励し倒産を回避する;
採用活動を促進し、支援を求職者と人事採用担当者のニーズに沿ったものにする。
こうした措置には短期的な支出が必要だが、それは短期的な危機が長期化して雇用と経済成長に、引いては公的債務や負債に影響するのを防ぐための投資と見なすべきである。
健康危機の影響が依然として続いている産業部門と労働者への支援
長期にわたって健康危機の影響を受けている自営業を含む労働者と、閉鎖や行政による規制の対象となっている部門の企業は、引き続き支援を必要としているが、彼らにできる限り早急に活動を再開するインセンティブを持たせることも重要である。
一般的、包括的な雇用保護措置は、COVID-19の初期には労働市場への影響を緩和するために不可欠であった (OECD, 2020[1]; 2020[3])。2020年第2四半期のピーク時には、いくつものOECD諸国で、労働者の3分の1が雇用保護措置の対象となっていた (図1) 。初期のロックダウン後に企業が再開すると、雇用保護措置の対象となった労働者の割合は大幅に下落した。しかし最近のデータによると、各国が第2波に襲われた11月、12月には、雇用保護措置の利用は再び増加した。2020年の雇用保護措置の利用は、2009年の世界金融危機のピーク時を大きく上回った (Hijzen and Martin, 2013[12])。
COVID-19危機が進むに連れて、雇用保護措置は労働市場への大規模なマイナス影響に対して素早く効果的に対応したように見える。各国がパンデミックと闘い続ける中で、雇用保護措置は引き続き企業と労働者を支える重要なツールとなっている。産業部門間、地域間で経済活動が再開できるところとできないところがあるという現状では、再び採算が取れるようになりそうな雇用に注目すべきである。1 採算が取れる仕事とそうでない仕事とを選別するのは、特に強制的な規制の影響を受けている産業部門においては、本質的に難しい。こうした企業と雇用の採算性についての市場のシグナルが、非常に弱いからである。さらに、事業と雇用創出が大幅に増えるまでは、再配分プロセスは依然として非常に不活発になるとみられる。しかし、特に強制的な規制の対象となっている産業部門への支援とそれ以外の部門への支援とを差別化することで、支援を生き残りそうな仕事と引き続きリスクが高い仕事に従事している労働者に的を絞るために、各国はいくつもの手段を用いることができる。
強制的な規制の対象となっていない部門の企業には、時短労働措置のコストを部分的に負担してもらったり、雇用保護措置の最長期間を設けたりすることができる。強制的な規制措置の対象となっている企業の場合は、その将来的な採算性を評価することは非常に困難で、支援は引き続き無条件にすべきである。最も影響が大きい部門内で適格性条件を個別に設定することで、最も影響が受けている部門の中でもさらに対象を絞ることできる。
どのようなシナリオでも、雇用保護措置の便益を享受している労働者に公的雇用サービスへの登録を義務づける、または認めることで、または労働者を短時間の訓練に参加させることで、労働者を雇用保護措置で保護されている仕事からそうでない仕事へと移動させることが不可欠である。例えばオランダでは、雇用保護支援を申請した雇用主は、2020年6月以降訓練を積極的に奨励すると誓約しなければならず、また政府はオンライン講習と開発コースを無料で提供する措置を採っている。フランスでは、この場合雇用保護措置の給付により労働者の手取りが84%から100%へと増加するため、労働者には訓練を受ける明確な金銭的インセンティブがある。フランス労働省の調査データ (DARES, 2020[13]) によると、2020年第3四半期には、雇用保護措置を利用している企業の雇用者の約15〜20%が何らかの訓練を受けていた。この割合は大企業と中規模企業において若干高かった。
このように訓練をソーシャルディスタンシングを維持しつつ、パートタイム就労や不定期就労のスケジュールに沿うように実施することは、明らかに困難である。しかし、訓練は、特に雇用保護措置が何ヶ月も実施される中でそれによって就労している労働者を復興に備えさせる上で不可欠である。公的雇用サービスに登録するインセンティブ(または要件)と、従来型の失業保険と類似したスキルの獲得や向上のための訓練を受けるインセンティブ(または要件)があれば、企業や産業部門の拡大に向けた雇用の再配分を損なうこととなく、雇用保護措置で労働者を保護することができる。
危機が長期化すると、危機の初期段階で仕事と所得を失った労働者の失業保険の受給期間が切れたり、貯蓄を使い果たしたりするため、「最後の手段」である最低所得保障の申請者数が増加する。多くの国々では、給付額を暫定的に増やしたり、資力調査を緩和したり、一時払いを導入したりしている。各国はこうした特権の縮小を検討しており、最低所得保障給付をもっと利用しやすくなるよう、受給権の区分や申請手続きを見直したり簡略化したりすることができる。的を効果的に絞ることが重要であるが、各国は、支援を緊急に必要とする人々が引き続き受けられるようにする必要がある。例えば、各国は徐々に所得調査を再導入し、家計がその支出を調整できるようにする一方で、雇用の機会が引き続き少ない間は資産調査を引き続き緩和する(例えば、自宅や事業資産の免除)ことができる。各国は、こうしたプログラムの対象を若年成人に広げようとしているとも考えられる。若年成人は、失業保を受給できるほど就労期間が長くないが、公的扶助の所得区分の上限を上回る程度には働いているかも知れないからである。
高い実績を上げているが債務超過に陥っている企業の事業創造を奨励し倒産を回避する
公的機関による大規模な支援措置と破産制度の一時的な変更は、COVID-19危機の最中の事業の失敗を保留することに成功している。データによると、2020年にはGDPがかつてないほど落ち込んだにもかかわらず(注2)、廃業した企業数はOECD諸国平均で30%減少した (OECD, 2021[14])。2 政府による支援がなければ、中小企業の倒産率はおそらく2019年比で2倍になっていただろう (Gourinchas et al., 2020[15])。宿泊・食品サービス業、芸術・エンターテインメント・娯楽、教育、その他のサービス部門が特に影響を受けている。しかし、企業の開業率は過去最低水準まで下落し(2009年の危機時より低い)、開業した企業の中でも、成長可能性は高いがリスクも最も高いプロジェクトは、日の目を見ていない。大量倒産のリスクは、実質的に新たな成長企業への資源の再配分がなければ、非常に高くなる。
労働者のための良質な雇用と収入見通しだけでなく経済成長を維持するためにも、創造的破壊は、生産性が低い活動から高い活動に資源を(再)配分できるようにするために必要である。しかし、開業には時間がかかり、企業の負債増加という重荷は効率的な結果につながらないと考えられるため、「通常の」創造的破壊のプロセスへの回帰は漸進的になるだろう。今後数か月の間に、少なくとも二つのリスクを管理しなければならない。一つは、高い実績を上げているが債務超過に陥っている企業が、「過剰債務(debt overhang)」という現象、つまり多額の負債により投資が削減されたり投資不足の問題3 が起きたりして、借金返済のために倒産したり、イノベーションや投資の取り組みを削減したりするリスクである (Demmou et al., 2021[16])。二つ目は、危機前から採算が取れていなかったが公的支援のおかげで生き残ることができた、実績が低い企業を救済するリスクである。いずれの場合も、COVID-19が発生する以前から懸念されていた全体的な生産性がマイナスの影響を受けるだろう (Adalet McGowan, Andrews and Millot, 2017[17])。
短期的には、一つ目のリスクの方が特に雇用面でより深刻であろう。特に、危機前には採算が取れていた多数の中小企業の債務不履行を避けるために、高レベルの企業負債と、多数の破産手続きに対処する必要がある。そのためには、場合によって、危機の間は抑えられていた負債の繰り延べが必要になるかもしれない。
現状では、公的支援は基本的には既存の企業に絞られているが、創造的破壊のプロセスは新規事業の創設が再開しないと始まらない。「企業の失われた世代」の影響は非常に大きい。Sedláček (2020[18]) の推定によると、米国では、世界金融危機の最中に企業の新規参入は一定数あったならば、生産が回復するのが4~6年早く、失業率は危機から10年後には0.5ポイント低くなっていただろう。
さらに、新企業が雇用創出の大半を担っていることが、相当数の実証から明らかになっている (Criscuolo, Gal and Menon, 2014[19]; Haltiwanger, Jarmin and Miranda, 2013[20])。したがって、スタートアップ、中でもイノベーションをより多く行っているところを支援し、ある世代全体で開業する企業がなかったということにならないように、スタートアップの開業を奨励することが不可欠である。また、自営業者にも適切な保護を提供することが賢明である。例えば、これまで自営業者向けの失業保険がなかった国ではそれを提供したり、今後数年間は開業の要件を緩和したりすることが含まれる。それによって、すでに高リスクの環境下で事業を始めるリスクを抑えることができるだろう。社会的パートナーも、小規模の若い企業のニーズとリスクに対してセクター別合意(sectoral/branch agreements)を状況に合わせて提供することで、新規の開業と成長を後押しする役割を担うことができる。
採用活動を促進し、支援を求職者と人事採用担当者のニーズに沿ったものにする。
雇用創出がかなり回復すればようやく危機から脱することができるだろうが、雇用創出は依然としてパンデミック以前の水準を大幅に下回っている (図 2)。COVID-19の発生以来失われた雇用は容易には戻らない。したがって、優先すべきは新たな雇用を生み出すことである。その中で多くのOECD諸国が検討している復興計画が重要な役割を担うだろう。しかし、その完全な導入には、何ヶ月あるいは何年もかかるだろう。
短期的には、金融政策による支援は継続する必要がある。最新のOECD Economic Outlook (OECD, 2020[3])を参照されたい。ミクロレベルでは、臨時の的を絞った雇用助成が、雇用創出の促進に有効なツールとなり得、いくつかのOECD諸国が最近このような制度を導入または更新した(例えば、オーストラリア、フランス、イタリア、英国)。世界金融危機で得られた実証によると、雇用助成は雇用の伸びを高め、費用対効果も高い (Cahuc, Carcillo and Le Barbanchon, 2018[21]). 。特に、検査やワクチン接種のロジスティクスを支援するために、直接的な雇用創出も期待できる。ワクチンの供給、優先的に接種を受けるべき人への連絡、管理業務、ワクチンセンターの会場整理などのために「青年団(youth corps)」、または米国で構想されているようなより一般的な公衆衛生の職業団(public health job corps)を創設することは、検討すべき一案である。
就職口の量は、パンデミック前の水準を依然として下回っており、2020年夏に若干回復したもののパンデミックの第二波により再び減少しているが、産業部門間、職業間で大きな違いがある(図3). 。オンラインの求人サイトの高頻度指標によると、2020年12月には、宿泊・食品サービス業の求人はパンデミック以前の水準を45%下回っていたが、運輸・倉庫業では、オンラインでの求人が2020年1月より30%高くなった。同様の差異は、職業レベルでも見られる。病院の労働者、食品小売業や倉庫業の雇用者のオンライン求人は、パンデミック前と同様あるいは増加した (OECD, forthcoming[22])。
これらのデータからわかることは、就労の機会が相変わらず限られていて転職が必ずしも容易ではない(必要なスキルと地理的分布という観点で)とはいえ、一部の労働者を当分は需要が低いとみられる産業部門や職業から、求人が急速に回復している部門と職業に再配置する余地があるということである。したがって、パンデミックの最中でも労働者が雇用の機会を得て、ソーシャルディスタンシング措置で対面の講習の機会が減っているとはいえ、スキルを向上または維持できるようにし、新しい仕事を探す支援を引き続き行うことが不可欠である。特に、各国は、就職支援、相談に特に有効であることが証明されている労働市場活性化プログラムの規模を拡大する必要がある。
さらに、公的雇用サービスは、求職者だけでなく雇用主にも有効な支援ができる。フランスで行われた公的雇用サービスで中小企業に無料の採用サービスを提供するという大規模な無作為抽出実験の結果によると、事前チェックや選別といった採用活動の負担を企業から公的雇用サービスの相談員に移行することで、求人や採用にある程度の正味の影響がもたらされる (Algan, Crépon and Glover, 2020[23])。
このような複数の課題を抱えているため、公的雇用サービスは追加の資源(直接人材を雇う、もしくは短期的には民間のサービス提供者からの外部支援による)を必要としている。一部のOECD諸国、例えば英国では、すでに公的雇用サービスの人材を増やし始めている。新たな資源がないと、需要の急増によって既存の制度とサービスに過度に負荷がかかり、提供されるサービスの質が明らかに下落する可能性が高い。
世界金融危機直後には、失業者数が急増したにもかかわらず、訓練、職業紹介、採用支援のための資源は充分に増えなかった。2007〜10年には、失業者数は54%増加したが、労働市場活性化プログラムの支出はOECD諸国平均でわずか21%の増加に止まった。その結果、求職者1人当たりの平均支出額は、ニーズが最も高くなった時期に実質的に21%減少した (OECD, 2011[24])。今回は、COVID-19による労働市場の課題に対処するには、労働市場活性化プログラムと公的雇用サービスに相当な追加投資が必要である。しかし、公的雇用サービスが人材、場所、物資などの点で能力が制限されているとしたら、資源を増やすことは有効ではないかも知れない。また、公的雇用サービスは、必須ではないサービスの停止、求職監視サービスの規模縮小、給付申請手続きの緩和などによって、一部の資源を転用することもできる (OECD, 2020[25])。さらに、近代化された積極的で先進的なデジタル技術を導入した公的雇用サービスがある国々は、プロファイリングツール、デジタルツールとサービス、主要パートナーとの協力関係を活用して、求職者、雇用主、労働者に有効かつ機敏な支援を提供することができる。
最後に、最近仕事を失った、あるいは就職口を見つけられないまま卒業した若者との接触を失わないようにすることが極めて重要である(コラム 1参照)。 より弱い立場にいる若者は、所得支援の対象でなかったり、公的機関を信頼していなかったり、単に支援を受けられることを知らないといった理由で、公的雇用サービスに相談しない場合が多い。学校や若者支援団体と協力し、ソーシャルメディア・キャンペーンを行うことで、早急かつ積極的に手を差し延べることが、現在の危機では特に重要であろう。
コラム 1. 若者に必要な支援を行う
世界金融危機直後には、若者の労働市場における困難に対処するための政府の行動があまりに遅すぎ、彼らのキャリアと収入に長期にわたる爪痕を残した。OECD諸国の若者の失業率が2008年以前の水準に戻るまでに丸10年かかった。COVID-19で余儀なくされた長期にわたる学校閉鎖で、中途退学のリスクが高まっている。新卒者には労働市場への門戸が閉じられており、若い労働者がまず始めに仕事を失っている。また、若い労働者は、就労期間が短かったり非正規だったりして、標準的な失業保険制度の支援を受けられない場合もある。
今回の危機が若者のキャリアと幸福に長期にわたって爪痕を残すことがないように、各国は若者が労働市場や教育制度のとのつながりを維持できるよう早急に行動を起こす必要がある。早期の対策が重要という認識は、欧州連合のYouth Guaranteeの基礎にもなっている。これは、2013年にEU全加盟国が25歳未満の全ての若者が良質な雇用または訓練を卒業後または失業後4カ月以内に受けられるようにすることを公約したものである。EUは最近、Reinforced Youth Guaranteeを開始し、いくつかのOECD諸国は2020年に危機に対処するための特別イニシアチブを道入した。その例が以下の通りである。
フランスとイタリアは、若年労働者向けの採用助成を導入。
オーストラリア、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランドは、企業が実習と実地訓練プログラムを維持拡充できるように、賃金助成を導入。
ドイツ、スコットランドは、危機によって一時解雇されている実習生を受け入れている雇用主のために追加助成を導入。
カナダは、30歳未満の労働者に賃金助成を行うSummer Jobs Programmeを拡大。
韓国は、若者向けのデジタル訓練プログラムに投資し、Youth Digital Job Planを導入。
日本は、学生ローンを利用するための要件を緩和し、資金を必要とする学部生、大学院生に学生支援緊急給付金を支給。
若者のためのOECD行動計画(OECD Action Plan for Youth)は、各国と利害関係者が若者のより良いキャリア構築を後押しできるように、一連の措置を設定している。その中には、カウンセリング、求職支援、企業プログラム、特に恵まれない環境にある若者への集中支援といった、費用対効果の高い労働市場活性化措置が含まれている。
結論
今後数カ月間、各国が大規模な復興計画の実施準備を進める中で、COVID-19の経済的悪影響を引き続き受けている世帯と企業への支援を継続しつつ、雇用創出と就労再開のインセンティブを与えることが不可欠である。
多くの国々で労働市場の状況を示す主要指標は2020年第2四半期のそれより改善しているが、雇用保護措置によって保護されている労働者と失業者の数は数百万人に上っている。多くの企業で、財政状態が非常に悪化しており、見通しは不透明である。そのような中で、企業の非効率や健全な「創造的破壊」のプロセスによってではなく、現在も続く封じ込め措置、先が見えない状況、適切な支援の欠如などによって、倒産と失業が急増するリスクがあることは明白である。言い換えると、危機の影響が依然として深刻な企業と世帯に的を絞り込んだ支援措置を維持しなければ大量倒産、大量失業が起こり、復興は経済的、社会的にさらに悪い状態から始まることになる。その短期的なコストは高いが、大量倒産、大量失業、経済不況、労働市場の悪化を避けることによる恩恵の方が遥かに大きい。さらに、こうした短期的なコストも、支援を最も脆弱な部門、起業、世帯、そして起業と雇用創出への支援に対象を絞ることで削減することができる。
多くの制度、施設が存在しているが、受益者の増加に効果的に対処し障害を避けるために、活用できる人材と資金を増やす(またはすでに増やした国々ではそれを維持する)必要がある。精密かつリアルタイムの行政調査データが特に困難な時期に政策策定を導く上で重要である。いくつかの国々でパンデミックが始まったときから行われているデータをタイムリーかつ後半に利用できるようにする取り組みは、今後も継続すべきである。
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[3] OECD (2020), OECD Economic Outlook, Volume 2020 Issue 2, OECD Publishing, Paris, https://dx.doi.org/10.1787/39a88ab1-en.
[1] OECD (2020), OECD Employment Outlook 2020: Worker Security and the COVID-19 Crisis, OECD Publishing, Paris, https://dx.doi.org/10.1787/1686c758-en.
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[4] OECD (2014), “The crisis and its aftermath: A stress test for societies and for social policies”, in Society at a Glance 2014: OECD Social Indicators, OECD Publishing, Paris, https://dx.doi.org/10.1787/soc_glance-2014-5-en.
[24] OECD (2011), OECD Employment Outlook 2011, OECD Publishing, Paris, https://dx.doi.org/10.1787/empl_outlook-2011-en.
[22] OECD (forthcoming), An assessment of the impact of COVID-19 on job and skills demand using online job vacancy data, OECD Publishing, Paris.
[6] Rothstein, J. (2011), Unemployment Insurance and Job Search in the Great Recession, National Bureau of Economic Research, Cambridge, MA, http://dx.doi.org/10.3386/w17534.
[18] Sedláček, P. (2020), “Lost generations of firms and aggregate labor market dynamics”, Journal of Monetary Economics, Vol. 111, pp. 16-31, http://dx.doi.org/10.1016/j.jmoneco.2019.01.007.
[5] Wachter, T. (2020), “The Persistent Effects of Initial Labor Market Conditions for Young Adults and Their Sources”, Journal of Economic Perspectives, Vol. 34/4, pp. 168-194, http://dx.doi.org/10.1257/jep.34.4.168.
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担当
Stefano SCARPETTA (✉ stefano.scarpetta@oecd.org)
Stéphane CARCILLO (✉ Stéphane.Carcillo@oecd.org)
Andrea GARNERO (✉ andrea.garnero@oecd.org)
注
← 1. 詳細はOECD Employment Outlook 2020 (OECD, 2020[1]) と雇用保護制度についてのPolicy brief (OECD, 2020[9])参照。
← 2. フランスについてはCros, Épaulard and Martin (2020[26]) 、米国についてはWang et al. (2020[27]) 参照。
← 3. Kalemli-Özcan, Laeven and Moreno (2018[28])の引用:「高水準の負債は投資を損なう可能性がある。リスクの高い負債で資金調達している企業に追加投資を行うメリットは、株主ではなく債務保有者の方にあるからである。投資のインセンティブが低下するということは、高水準の負債を抱える企業が投資不足の問題を抱えるということである」