要旨

観光業の見通しは依然として非常に不透明である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは引き続き大きな打撃を与えており、2020年には海外渡航(international tourism)が約80%減少すると予想されている。国内観光は、少なくとも部分的には打撃を和らげるのに役立っており、各国政府は、雇用と企業を保護しつつ、観光業を回復、再活性化させるために大胆な行動を迅速にとった。また、多くの国々で、COVID-19後の観光経済の回復力を高める対策が進められている。その中には、観光業の持続可能な復興を支援する計画の策定、デジタル化と環境に配慮した観光システムへの移行の促進、将来に向けた観光業の再考などが含まれている。

 
主な問題点:観光業の再建は優先事項だが、将来を見据えて観光業の持続可能性と危機対応力を強化しなければならない

観光業は、パンデミックの影響が最も大きかった産業の一つで、その見通しは依然として極めて不透明である。

OECDの推定では、2020年には海外渡航者が約80%減少するとされている。海外旅行、出張、国際的なイベントに大きく依存している観光業は特に苦戦しているが、多くの沿岸部、地方、農村部は都市部より比較的好調である。

ワクチンに関する明るいニュースにより復興への期待が高まっているが、依然として課題はあり、観光業では2021年までは生き残りを賭けた闘いが続くと予想されている。

国内旅行が再開され、一部の観光地では雇用や企業への影響が緩和されつつある。しかし、本当の意味での復興は、海外渡航者が戻ってきて初めて可能になる。安心して渡航制限を解除するには、国際的な協力と実証に基づく解決策が必要である。

政府の継続的な支援がなければ、観光業全体で企業の存続が危ぶまれる。各国政府は、観光業への打撃を和らげ、雇用の喪失を最小限に抑え、2021年以降の回復を目指して大胆な対策を実施しているが、さらなる取り組みをより協調的に行う必要がある。優先すべき主な政策は次の通り。

  • 旅行者の信頼を取り戻す。

  • 観光事業者の適応と生き残りを支援する。

  • 国内観光の促進と海外渡航者の安全な渡航を支援する。

  • 旅行者と企業に明確な情報を提供し、不確実性を(可能な限り)抑える。

  • 観光部門の能力を維持し、支援格差に対応するための対策を考える。

  • 各国内および国際的な協力体制を強化する。

  • 危機対応力があり持続可能な観光業を構築する。

観光経済が短・中期的にウイルスと共存するには柔軟な政策的解決策が必要だが、その先を見据えて、政府や業界の準備・対応能力に欠陥があるという自覚が重要であり、中央・地方政府と民間企業が協調して行動することが不可欠である。

今回の危機は、これからの観光業を見直す機会である。観光業は岐路に立たされており、今取られる対策が将来の観光業を形成することになる。国政府は、危機の長期的な影響を考慮しつつ、デジタル化に資本を投じ、低炭素社会への移行を支援し、より強く持続可能で危機対応力のある観光経済を構築するために必要な構造改革を推進する必要がある。

本稿は、下記OECD Tourism Paperの要約版である。

Mitigating the impact of COVID-19 and preparing for recovery: https://doi.org/10.1787/47045bae-en .

 未曾有の観光危機と不透明な見通し

COVID-19危機は観光経済に大きな打撃を与え、雇用やビジネスに未曾有の影響を与えている。パンデミックの影響を最初に受けた産業の一つが観光業で、ウイルスの封じ込め策により、世界各地で観光活動がほぼ完全に停止した。また、観光業は現在も続く移動規制と世界的な景気後退により、他の産業より復興が遅れる恐れもある。これは、観光経済にとどまらず、観光を支え、観光に支えられている他の多くの産業にも大きな影響を与える。

観光経済への未曾有の衝撃は、感染状況が変化するにつれてさらに悪化している。ワクチンに関する明るいニュースは、観光事業者と旅行者の期待を高めているが、課題も残されている。ワクチン接種が進むには時間がかかり、観光業はまだしばらくは再開と停止を繰り返すことになる可能性がある。これにより、企業と旅行者の景況感がさらに低下し、事業存続の見通しが立たなくなる。過去数回のショックで観光経済に回復力があることはわかっているが、今回の危機は規模が大きく、経済面と医療面の性質を併せ持っているため、回復への道のりは非常に不透明である。海外渡航が部分的に再開されたとはいえ、非常に限定的である。国内観光は多くの国々でが再開されたが、それではインバウンド観光の損失をほとんど補うことはできない。

OECDの現在の推定では、2020年の海外渡航 (international tourism)1 は約80%減少する。海外渡航のフローが本格的に回復するのは2021年に入ってからで、数年はかかると見られる。これは、他機関による最近の予測と一致している。これは、他機関による最近の予測と一致している。国連世界観光機関(UNWTO)の最新の推計によると、2020年始めから8か月間の海外渡航者の到着数は前年比70%減少しており、それによる輸出収入の損失は、世界金融危機に見舞われた2009年に記録された額の8倍に上る2 UNWTOは現在、海外渡航者の到着数がパンデミック以前の水準に戻るのは2023年に入ってからになると推定している。

国内旅行は、多くの観光地や企業を維持する一助となっており、短・中期的には引き続き復興の重要な原動力となるだろう。国内旅行については、海外渡航規制の反動もあって、2020年半ばからやや持ち直している。しかし、多くの国々が感染のさらなる波に襲われているため国内旅行もままならず、2020年の国内旅行者数は、最終的にCOVID-19以前の水準を大幅に下回ると見られている。例えば、スペインや英国では、2020年に国内旅行者数が45~50%減少すると予測されている。また、国内でも移動制限が継続されいる他、需要パターンと行動が変化しているせいで、すべての観光地と企業が国内旅行の恩恵を受けているわけではない。

このことは、多くの人々、場所、企業、さらには経済全体に非常に具体的な経済的・社会的影響を及ぼしている。観光は、外貨を生み、雇用と企業を支え、地域開発を推進して地域社会を支えている。パンデミック以前の観光業は、OECD諸国の平均でGDPの4.4%、雇用の6.9%、サービス輸出の21.5%を直接生み出していた(世界貿易機関(WTO)によると世界の輸出の6.5%に相当3)。しかし、この割合は観光業が経済活動の主要な牽引役となっているOECD加盟国でははるかに高く、フランスでは対GDP比7.4%、ギリシャは6.8%、アイスランドは8.6%、メキシコは8.7%、ポルトガルは8.0%、スペインは11.8%である。また、観光による間接的な影響も大きく、国と地域経済へのショックをさらに悪化させている。

 
コラム 1. 観光業の業績と復興の見通し:数か国の事例

カナダ:2020年7月にDestination Canadaが発表した観光客数の修正値は、2021年1月にカナダ国境が開かれることを前提としている。Destination Canadaは、2020年ついて、海外旅行からカナダ国内旅行への様々な推定転換率に基づいて、2つのシナリオを作成した。

  • シナリオ1:カナダの海外旅行需要の20%のみが国内旅行に転換されると仮定した場合、観光支出は61%減(413億カナダドル)、観光関連の雇用は55%減(32万4000人)となる。

  • シナリオ2: カナダの海外旅行需要の100%が国内旅行に転換されると仮定した場合、観光支出は43%減(597億カナダドル)、観光関連の雇用は41%減(44万3500人)となる。

クロアチア:観光フローの見通しは、最新の旅行安全性に関する勧告と疫学的状況に基づいて15日ごとに修正される。この情報は、毎日更新されるe-Visitorシステムのデータから得られる。2020年には、観光客数が50%減少すると予想されている。

ドイツ:ドイツ連邦Competence Centre for Tourismが2020年7月に発表した最新の“Recovery-Check”の予測では、国内外の観光業の回復について3つのシナリオを提示している。中心的シナリオでは、国内旅行が2019年の水準に回復するのは2021年夏で、海外渡航の回復は2年遅れの2023年4月になると予測されている。2020年の旅行予約数は、2019年と比べて国内旅行で42%、海外渡航で57%減少、2021年には国内旅行で14%、海外渡航で52%減少、2022年には海外渡航で30%減少すると予測される。

スイス:スイス経済研究所(KOF)によると、2020年には宿泊者数が34%減少すると予測されている。国内旅行の需要の落ち込みは比較的小さいが(14%減)、海外渡航のそれは大きい(55%減)と予想されている。国内旅行と欧州域内旅行の需要は順調に回復すると見られるが、海外からの観光需要が回復するのは2023年以降になると予想される。一部のホットスポットを除き、ホテルの宿泊費も下落し、回復は2022年になると予想されている。旅客数が激減すれば、山岳鉄道の運賃は大幅に値上げされる可能性がある。

英国:英国政府観光庁VisitBritainは、海外からの観光需要と国内旅行需要への短期的な影響について様々ななシナリオを想定している。中心的シナリオでは、海外からの観光客到着数は73%減少し、それに伴い支出も79%減少すると予測している(最終更新日:2020年10月上旬)。国内旅行については、中心的シナリオでは旅行者数と消費額が49%減少すると予測している。

観光業は様々な産業と結びついているため、観光業の低迷は経済に幅広く影響を与えている。OECDの推定によると、国内経済で生み出される観光の付加価値の3分の1以上が間接的な影響によるものであるが、そこには観光業と他の産業(食品製造、農業、交通、ビジネスサービスなど)とのつながりの範囲と深さが反映されている。4 一方、UNCTADは、海外渡航者の到着数が66%減少した場合、新型コロナ危機による観光業への打撃により世界全体でGDPの2.8%(1兆2,000億米ドル)が失われると試算しており、その影響が特に顕著なのはクロアチア(GDPが8%減少する見込み)、ポルトガル(同6%)、モロッコ(同4%)、ギリシャ(同4%)、アイルランド(同3%)、スペイン(同3%)である。つまり、海外渡航のフローが12か月間停止すると、世界のGDPが最大で4.2%(3.3兆米ドル)下落する可能性があるということである。5

今回の危機で、観光業の何百万人もの雇用が危機にさらされている。観光業は非常に労働集約的で、高技能労働者だけでなく、低技能労働者にも非常に多くの働き口を提供している。国際労働機関(ILO)によると、宿泊・飲食サービスに関わる産業部門だけでも世界全体で1億4400万人の労働者が雇用されており、そうした労働者のうち約30%が従業員2~9人の小規模の観光事業者に雇用されている。6こうした仕事の多くは接客業で、労働者はウイルスに感染するリスクにさらされている(例えば、ウェイター、客室乗務員、ホテルの受付)。

どの程度の雇用が失われたかは、労働者がパンデミックの影響を被らないよう政府支援が行われているため、まだ明らかではない。しかし、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の推定によると、2020年には世界全体で最大1億7,400万人の雇用が危険にさらされる。7 欧州委員会の共同研究センターは、2020年には観光関連事業を営む企業とそこに依存する企業において、欧州連合(EU)の労働力人口の3.2%〜5.6%に相当する660万〜1,170万人の雇用が時短労働または完全な失業のリスクにさらされると予測している。8 女性、若者、僻地の人々、先住民、インフォーマルな労働者は、零細または小規模の観光業者に雇用されている場合が多く、特に影響を受けやすい。

同様に、各国レベルでも推計が行われているが、観光業への影響の大きさと、目まぐるしく変化する不確実な状況下で予測を行うことの難しさが反映されている。COVID-19危機によって、政策決定や企業の決定に情報を提供するための堅実で比較可能かつタイムリーなデータが欠如しているといった、観光部門の統計情報システムの欠陥が明らかになったが、そこからわかるように、この危機が観光部門に与える現在および将来の影響を定量的に把握することは困難である。現在入手可能な実証によると、海外渡航のフローと観光支出が急激に減少し、国内の観光活動も縮小している。

パンデミックが観光経済に与える影響を推定しようとする試みは、急速に進展する感染状況や封じ込め対策の変更によって何度も覆されてきた。従来の推定方法は、現状では信頼性に欠けている。 コラム 1 は、特定の国々における2020年の国内外の観光実績の予測を示している。OECDの予測と同様に、シナリオに基づくアプローチは観光業の復興に向けたいくつかの方向性を示しているが、必要に応じて仮説や簡略化に基づいており、継続的な調整や修正が必要である。

観光業の見通しは極めて不透明であり、復興は相互に関連している経済危機と衛生危機が需給双方の要素に与える影響如何にかかっている。そこには、パンデミックの動向、ワクチン接種(または代替となる対策)の可能性、渡航制限の解除に加えて、観光エコシステム全体で企業が生き残って需要を満たせるか、消費者心理や旅行行動への影響、経済全体の動向などが含まれる。今回の危機は、世界全体に広がって長期化していること、先が見えない状態が続いていること、経済と衛生上の危機が連動していることから、過去に観光システムに衝撃を与えた危機とは性質が異なっている。

パンデミックは、観光経済だけでなく世界的な経済危機を引き起こしており、それが観光業の回復にも影響を及ぼしている。OECDの予測では、世界のGDPは2020年は4.2%の急減となるが、2021年末にはパンデミック前の水準に戻る。ワクチン接種が進むことへの期待が高まっているため前途は明るくなってきたが、課題は残っており、回復は国や産業部門によってばらつきがある。経済の多くの部分でプラス成長に戻っているが、観光業など一部の産業部門では遅れており、それが多くの国で回復に影響を与えている。9

 
コラム 2. 長期的な観光政策の影響:各国の初期の見解

気候変動や、観光が環境に悪影響を及ぼすという認識が高まっていることから、観光の選択において持続可能性がより重視されるようになるかも知れない。自然豊かな地域、地元の観光地が復興の原動力になることが期待されており、近場への旅行がが増えれば環境への影響が少なくなる可能性がある。

人々が地元に留まり国内の観光地を訪れることを好むことから、国内旅行が恩恵を受けると予測される。しかし、国内の観光客は価格に敏感で、消費性向が低い傾向がある。

旅行者の信頼は、危機と現在も続く不確実性によって大きな打撃を受けている。これにより、最初のショックの後も続いている需要と観光消費の減少が今後も長期化する可能性がある。

旅行者の行動は、危機の推移だけでなく消費者の旅行の仕方についての傾向にも影響を受ける。その中には、新たなニッチや市場の出現、安全性に関するルール、非接触型観光体験への注目度が高まることなどが含まれる。

安全と衛生は、旅先や観光活動を選択する際の重要な要素となっている。人々は旅行の際に「自分だけの体験(private solutions)」を好む傾向があり、大きな集まりを避けて私的な移動手段を優先するため、環境に悪影響を及ぼす可能性がある。

観光エコシステム全体で観光供給の構造変化が予想される。すべての企業が危機を乗り越えるわけではなく、この分野の生産能力はしばらくの間低下し、回復が制限される可能性がある。

多くの仕事が失われ、労働者が別の部門に再就職することで、観光部門の技能不足が悪化する可能性がある。

投資額が減少した場合、積極的な政策を導入して観光部門への投資を奨励、回復させ、観光サービスの質を維持して持続可能な回復を促進する必要がある。

自動化の促進、非接触型決済とサービス、バーチャル体験、リアルタイムの情報提供といった観光サービスのデジタル化は、今後も加速すると予想される。

観光政策は状況に敏感に対応する必要があり、長期的には、政策の焦点の変化に迅速に対応できる、より柔軟なシステムへと移行するだろう。危機管理は特に重点的に取り組むべき分野である。安全と健康に関する政策問題も同様である。

観光業への今回の危機の長期的な影響を判断するのは時期尚早だが、危機以前の状態に戻る可能性は極めて低い。観光部門は、2021年には2019年とは全く異なるものになっているだろう。危機が長引くほど、企業が廃業し雇用が失われ、旅行者の行動への影響も大きくなり、観光経済の再建は困難になるだろう。これは、観光産業にとっては大問題だが、それと同時に、イノベーションを促進し、新しいビジネスモデルを推進し、新しいニッチや市場を開拓し、新しい観光地を出現させ、より持続可能で危機対応力のある観光開発モデルへと移行する機会でもある。 コラム 2 では、起こりうる長期的な影響と、その政策的意味合いについて論じている。

今回の危機により、あらゆるレベルの政府には、その影響を緩和し回復を支援するための強力で協調的な政策行動をとることが求められている。また、これは新しい技術を活用し、グリーン復興戦略を実施し、観光による環境、社会、経済への影響のバランスをより良く取れる政策やビジネス手法に移行する機会でもある。政策当局は、この機会を利用して、観光経済をより強く公平で持続可能な基盤の上に再構築すべきである。今回の危機、そして現在実施されている復興計画は、より持続可能で危機対応力のある観光開発モデルへと移行する千載一遇の好機である。

こうした状況で、観光は世界的にみて重要な政策課題であるため、国連10、世界銀行11 、世界貿易機関12などの国際機関も同様の呼びかけを行っている。G20諸国の観光大臣は、ディリヤ・コミュニケ(Diriyah Communiqué)13 の中で、COVID-19が旅行・観光部門にパラダイムシフトをもたらす可能性があることを認識し、危機の影響が最も大きい人々と企業を支援し、観光部門の持続可能かつ包括的な復興を支援するために、引き続き協力していくことを約束した。14

 観光政策から初期の教訓を引き出し今後の方向性を示す

COVID-19危機は、観光経済に大きな衝撃を与え、人々の暮らし、人との交流、仕事に深刻な影響を与えている。パンデミックの状況は変化し続けており、その影響の全容は依然として不明である。しかし、元に戻ることはありえない。政策当局は今回の危機の教訓を活かし、将来に向けてより強く危機対応力のある観光経済を構築する必要がある。それがどのようなものになるかを明確に述べることはまだできないものの、初期の教訓を概観すると次のようになる。

  • 危機には、あらゆるレベルの政府が協調して対応する必要があり、復興を支援するためには統合的な観光政策アプローチが重要だということが明らかになった。弱い立場にある観光事業、労働者、観光客に対して的を絞った利用しやすい支援を迅速かつ効率的に提供することが、引き続き非常に重要である。あらゆるレベルの政府と民間企業の双方が、変化に対する心構えをするとともに迅速に対応、適応する能力を持つ必要がある。そのためには、より強固なリスク評価と危機対応メカニズム、地域、国、国際レベルでの緊密な連携が必要である。

  • 観光産業の活性化には、多国間協力の強化と強力な支援が不可欠である。一国の政府がとる行動は、他の国の旅行者と企業、そしてグローバルな観光システムに影響を与えるため、各国が協力し合う必要がある。各国は国境を越えた協力体制を構築し、安全な旅行を再開し旅行者と企業の信頼を回復して、需要を喚起して観光業の回復を加速すべきである。また、将来のショックに備えるために、国際的な調整システムを効率化する必要がある。

  • 観光に従事する労働者、企業、観光地のニーズに対応し、より広範な経済復興を支援するためには、その部門に特化した支援が必要である。観光業は、一般的な景気刺激策の恩恵を大きく受けている。しかし、観光業は多くの国々で幅広いマクロ経済の回復から最も大きな影響を受けると同時に、影響を与える産業でもある。観光部門全体のうち、まだ経済活動を再開していない部分や、まだ当分は需要が低迷したり制限されたりしている部分と、深刻な被害を受けた最も脆弱な観光地と小規模企業には特に注意が必要である。

  • より持続可能で回復力のある観光経済の構築のために、政府の支援を今すぐに開始しそれを継続させるべきである。観光地と観光業者は、経済が回復したときにすぐ観光サービスを提供できるように支援を必要としている。観光業者と協力して、支援がなくなっても事業を継続できるようにすることが重要であり、すでに危機の長期的な影響への対応が始まっている。より広範な環境、経済、社会の目標を念頭に置いて対策をとる必要がある。15

  • 観光業の回復を支えるには、政策を明確にし、不確実性を(可能な限り)抑える措置を講じることが重要である。観光経済の先行きは依然として極めて不透明で、企業と旅行者の信頼性は大きく損なわれている。ウイルスの発生や感染状況の変化に応じて渡航制限と封じ込め措置を変更する必要がある場合、明確な情報伝達、よく練られた情報政策、明確な疫学的な基準が特に重要である。

  • カギを握るのは、情報収集、調査、データ分析を通じて、政策や企業の意思決定に有益な実証基盤を改善することである。今回の危機では、急速に変化する状況の中でタイムリーで比較可能な詳細データを入手することの難しさが浮き彫りになった。プログラムやイニシアティブの有効性を評価し、観光業の復興の進捗と危機対応力を把握するには、信頼に足る一貫した指標が必要である。渡航制限を安心して解除し、海外渡航全体を再活性化させるためのリスクを考慮した解決策は、確たる科学的証拠に基づくものでなければならない。また、そうした解決策は、システムが確実に機能するよう十分な容量を備えた導入可能なものである必要がある。

  • 危機は、観光をより公平で持続可能かつ危機対応力のあるものに発展させるモデルへと移行するまたとない機会である。今回のパンデミックは、観光システムの構造的欠陥と外的ショックへの脆弱性を改めて露呈した。観光経済の多様化と危機対応力の強化、将来の衝撃への備え、長年の構造的欠陥への対処、より強く公平で、持続可能な観光開発モデルへの移行に不可欠なデジタル転換と低炭素社会への移行を促すことが急務である。

担当

Jane STACEY (✉ jane.stacey@oecd.org)

1.

International tourism refers to tourism that crosses national borders for tourism purposes (leisure, business etc.). OECD estimates are based on international tourism arrivals in the OECD area.

2.

UNWTO (2020), World Tourism Barometer, Volume 18, Issue 6, https://doi.org/10.18111/wtobarometereng. October 2020

4.

OECD (2019), "Providing new OECD evidence on tourism trade in value added", OECD Tourism Papers, No. 2019/01, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/d6072d28-en.

5.

UNCTAD (2020), Covid-19 and Tourism: Assessing the Economic Consequences (UNCTAD/DITC/INF/2020/3), 2 July 2020

6.

ILO Briefing note (2020), The impact of COVID-19 on the tourism sector, June 2020

8.

European Commission Joint Research Centre (2020), Behavioural changes in tourism in times of Covid-19: Employment scenarios and policy options, JRC Science for Policy Report

9.

OECD (2020), OECD Economic Outlook, Volume 2020 Issue 2: Preliminary version, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/39a88ab1-en. 1 December 2020

10.

United Nations Secretary General Policy Brief (2020), COVID-19 and Transforming Tourism, August 2020

11.

World Bank (2020). Rebuilding Tourism Competitiveness : Tourism Response, Recovery and Resilience to the COVID-19 Crisis. World Bank, Washington, DC. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/34348

13.

G20 Diriyah Communiqué, Tourism Ministers Meeting, 7 October 2020

15.

OECD (2020), OECD Economic Outlook, Volume 2020 Issue 2: Preliminary version, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/39a88ab1-en. 1 December 2020.

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