要旨

コロナウイルスのパンデミックは、健康、社会的幸福、経済的豊かさを世界的に傷つけており、その被害の中心にいるのが女性である。何よりも看護にあたっているのは女性である。医療従事者のほぼ70%は女性で、彼女らは感染のリスクにより多く晒されている。それと同時に女性の家事労働の負担が、歴史的に続いている無給労働の不平等な男女分担に加えて学校や保育施設の閉鎖により増加している。さらに、女性の方が雇用と所得喪失のリスクが高く、危機や自宅待機が続くと暴力、搾取、虐待、ハラスメントに遭うリスクも高まる。

女性の不安を考慮した政策対応が即刻求められている。政府は、親が働きながら介護や育児の責任も果たせるよう緊急措置の採用と、所得支援措置の強化、中小企業と個人事業主の支援の拡大、暴力を受けた女性を助ける措置の改善などを検討すべきである。根本的に、危機に対するあらゆる政策対応にはジェンダーという視点を埋め込み、女性特有のニーズ、責任、ものの見方を考慮に入れなければならない。

 1.はじめに

コロナウイルスのパンデミックは世界的に深刻なショックを与えているが、その影響は男女で異なる。女性はコロナウイルスに対する前線で働いており、その危機が女性に与える影響は大きい。女性への負担は複雑である。医療従事者は女性の方が多く、家庭では家事や介護などの無給労働の大半を依然として負担しており、経済不安のリスクは高く(現在も将来的にも)、暴力や搾取、虐待、ハラスメントのリスクが危機下や外出制限時には特に高まる。パンデミックはすでに、そしてこれからも、多くの社会的弱者の健康と暮らしに深刻な影響を及ぼし続ける (OECD, 2020[1])。その中でも最も深刻な影響を受けるのが女性である。

医学的見地から、実証によるとコロナウイルス感染者は女性より男性の方が多い。コロナウイルスに感染した男性の致死率は女性より60〜80%高い。しかし、ウイルスが世界的に広がり、パンデミックが女性に及ぼす影響は徐々に深刻化している。

女性は、医療従事者のほぼ70%を占めており、感染リスクにより多く晒されているため、パンデミックと最前線で闘っているが、医療部門のリーダーシップと意思決定過程においては女性の割合は低い。さらに、多くの側面で依然として男女不平等が存在するために、女性の雇用、ビジネス、所得、そしてより幅広な生活水準は、危機によって広がるとみられる経済的な影響を男性より被る可能性がある。世界全体で、低所得で一人暮らしの高齢者は男性より女性の方が多く、経済的に不安定になるリスクが高い。

世界的に見て、育児や介護を行うのは男性より圧倒的に女性の方が多い。OECD開発センターのSocial Institutions and Gender Index (SIGI) によると、最大で男性の10倍多く負担している。外出制限、自宅待機、学校や介護施設の閉鎖、高齢の家族が抱えるリスクなどは、例え女性とそのパートナーが自宅にいて共に在宅で働き続ける場合でも、女性にさらに負担を強いるとみられている。重要なことは、ロックダウンという状況で女性が暴力、搾取、虐待、ハラスメントに遭うリスクが高まるということである。これは過去のいくつかの危機の時にも、またコロナウイルス危機の初期に中国でも見られた。にも関わらず、女性への暴力はメディアであまり報道されていない。これでは、女性の意見に耳を貸さず、その視点を無視して危機への政策対応を行うことになってしまう。

このPolicy briefでは、女性が現在のコロナウイルスのパンデミックのなかで直面する主な課題を取り上げ、女性と社会全体へのマイナス影響を最小限に抑えるために政府が取るべき早期のステップを提案している。こうした政策の多くは、女性だけでなく男性にも影響するが、既存の男女不平等を助長するのではなく削減するように、特に注意を払う必要がある。

現在及び将来的の所得不安定を抑えるには、政府は社会的弱者の雇用保険利用を拡大し、影響を受けた労働者への一時金支払いを検討し、不安定な労働者とその家族が自宅待機できるよう財政的に支援し、小規模事業者がこの危機を乗り越えるために適切な財政支援を受けられるよう検討すべきである。親が仕事と育児を両立できるようにするために、政府は医療現場のような基本的サービスに従事する親に保育のオプションを提供し、育児のために仕事を休まざるを得ない労働者に(または有給休暇を与える雇用主に)直接的な財政支援を提供し、労働者が有給休無給双方の仕事ができるようにテレワークやフレックスタイム労働などを採用すべきである。虐待者と共に家にいなければならず暴力被害に遭っている女性を救うために、被害者のコミュニケーション手段が虐待者に監視されている可能性がある中で、政府はどのように被害者を救うか、支援サービスを行う人々と協力して情報を交換し、注意深く検討するべきである。

もっと根本的に、こうした経済社会政策措置の全てが、政府の危機対応の中でジェンダー問題を主流化する幅広い取り組みの中に埋め込まれなければならない。短期的には、可能な限りジェンダーというレンズを緊急政策措置に適用するということである。長期的には、政府がジェンダー問題を主流化する機能的なシステムを構築し、あらゆる部門とキャパシティにおいて性別に基づく実証をいつでも参照できるようにするということである。政府は、回復のためのあらゆる政策と構造調整が確かなジェンダーと交差性(intersectionality)の分析を通じて行われるようにすれば、男女で異なる影響を評価することができ、さらに対策を練ることができる。

このPolicy Briefは、政府とその他の関係者がパンデミックのジェンダー面の影響と取るべき政策対応について考察する手助けをすることを目的としている。

 2. 女性、介護の責任、コロナウイルス

 2.1. 自宅外で女性が担う介護の責任

女性は、コロナウイルス危機への医療面の対応において重要な役割を果たしている。世界全体で医療従事者の3分の2が女性だと推定されているが、臨床医、歯科医、薬剤師では女性の割合が少なく、データが入手可能な104カ国で看護師と助産師の約85%が女性である(Boniol et al., 2019[2]) 。OECD諸国では、医師のほぼ半数が現在では女性である(OECD, 2019[3])。また、長期介護施設の労働者でも女性が大半を占めており、OECD諸国平均で90%を超えている(図1)。医療現場の労働者の大半が女性であるにもかかわらず、管理職やリーダーのポジションに就く女性は依然として少数である (Downs et al., 2014[4]; Boniol et al., 2019[2])。

 
図 1. 介護職の圧倒的多数は女性である
男女別介護従事者の割合、2016年または直近年

注:この図に示されているOECD平均はOECD加盟29カ国の非加重平均。EU-Labour Force Surveyのデータは、ISCO 4桁及びNACE 2桁分類に基づいている。ギリシャ、イタリア、ポルトガルのデータはISCO 3桁及びNACE 2桁分類に基づいている。ギリシャのデータはサンプルサイズが小さいため注意が必要である。

出典: OECD (2020[5]), Who Cares? Attracting and Retaining Care Workers for the Elderly, OECD Health Policy Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/92c0ef68-en.

医療介護従事者は全て、コロナウイルス危機による想定外の需要に直面しているが、特に重圧がかかっているのは女性労働者である。外出制限措置や学校、保育施設の閉鎖により、従来から女性の仕事とされてきた自宅での無給労働の需要が高まっている(下図参照)。さらに事態を複雑化しているのは、多くの介護労働者が家族への感染予防のために職場外では自ら隔離している、または隔離を余儀なくされているということである。こうした中では、多くの女性医療・介護労働者にとって仕事上の責任と自宅での家事労働を両立させることは、不可能ではないとしても難しいと考えられる。

医療労働者は相当なリスクを抱えている。懸念の一つは、医師の高齢化である。OECD諸国全体の医師の3分の1以上が55歳以上(OECD, 2019[3]) で、医療関係者がすでに抱えているリスクをさらに高めている。これまでにフランスにおいてコロナウイルスが原因で死亡した医師(一般開業医または病院の勤務医)についての報告によると、彼らはベテランか、復帰の呼びかけに応じた医師が多かった。圧倒的に女性が多い長期介護施設の労働者の健康状態も懸念されている。高齢者と基礎疾患を持つ人々が抱えるリスクが高まる中、長期介護(LTC)施設の労働者は特に危機を通じて重要な役割を担っている。 しかし、危機の前でも、長期介護施設の労働者は不当に健康被害に遭ってきた。平均すると、LTC労働者の半数以上(60%)は身体的リスク要因を、44%は精神面の問題を抱えている (OECD, 2020[5])。LTC患者にとってのリスクの高まりと危機によって増幅されるストレスで、LTC労働者はその職務遂行において最大級の課題に直面している。

 
コラム1. ジェンダーとコロナウイルスの健康への影響

初期の実証によると、コロナウイルスの影響は男女均等ではなく、総じて男性の方が被るリスクが大きいとされている (Wenham, Smith and Morgan, 2020[6]) 。中国から得られた臨床的特徴の研究によると、患者の58%が男性だった (Guan et al., 2020[7]) 。さらに、ウイルスに感染した男性の死亡率は女性のそれより65%高い (WHO, 2020[8]) 。この男女差に対する初期の説明には、次のようなものがある。

  • 男性の方が非伝染性疾病(例えば、脳卒中、心臓発作、癌、糖尿病)にかかりやすく、それがコロナウイルスに感染した患者の死亡の危険因子となっている。

  • 健康的な生活スタイルという点で男性の方が女性より悪い。男性の方が喫煙などの危険因子に晒される傾向が強い。

  • 男性と女性とでは免疫システムの働き方はわずかに異なっており、女性の免疫反応の方がわずかに強い。その理由は明確ではなく、この分野の研究は比較的日が浅い。

女性の死亡率は男性より低いが、一部のグループの女性は男性同様リスクが高い。英国を含む一部の国々の当局によると、高齢者と男女とも基礎疾患を抱える人々に加えて、妊婦も感染に特に注意すべきである (Public Health England, 2020[9]) 。これは、過去の事例からみて妊婦は一部の呼吸器疾患に特にかかりやすいという、より一般的な実証に基づく予防措置である(FIGO, 2020[10]; RCOG, 2020[11]) 。本報告書の執筆時に、コロナウイルスに感染した妊婦が一般の人々よりも深刻な症状に陥るという実証はないとするガイダンスを医療当局が公表している (CDC, 2020[12]; FIGO, 2020[10]; WHO, 2020[13])。

 2.2. 自宅における女性の介護の責任

女性は介護部門の雇用の大半を占めているだけでなく、自宅におけるほとんどの無給労働も女性が行っている。OECD諸国平均で、女性が1日に行う家事労働は4時間を上回り、男性よりも毎日2時間近く多くの時間を無給労働に費やしている。無給労働時間の男女差が最も大きいのは日本と韓国(1日当たり2.5時間)とトルコ(同4時間)で、これらの国々では男女の役割についての伝統的な考え方が根強い。しかし、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンなど男女平等に強い進歩的な態度を示している国々でも、無給労働時間の男女差は1日当たり約1時間ある。無給労働における男女差は通常開発途上国、新興諸国の方が大きい(3.4参照)。

女性の無給労働時間の多くは、育児に費やされている。OECD諸国全体で、平均すると女性は育児に35分以上費やしている。男性の育児時間(15分)の2倍以上だ(OECD Time Use Database)。しかし多くの女性は雇用されている人でも、成人の身内、特に親の介護も担っている。欧州諸国で入手可能なデータによると、定期的に疾病、障碍、高齢の身内の世話をしていると答えた雇用されている女性は、雇用されている男性より50%多い(図2)。 これらのデータには、雇用されていない人の介護労働は含まれておらず、相当な変化がある。その理由の一端は、一部の国々におけるパートタイム雇用率の高さ(オランダ、スイス)や、公的社会サービスの提供規模(デンマークでは大きい)にある。

コロナウイルスにより女性の無給労働の負担は重くなる可能性がある。例えば、学校と保育施設が閉鎖されると、親が育児や子供の監督に費やす時間が増えるだけでなく、学校で勉強を教えなければならなくなる人も増える。この追加的負担の多くを女性が担いがちである。同様に、外出制限によって自宅で過ごす時間が増えると料理や掃除といった日常的な家事も増えることになる。こうした需要を満たすことは、多くの親、特に働き続けなければならない親にとっては難しいものである。

 
図 2. 雇用されている女性の方が雇用されている男性よりも身内の介護の負担が大きい
疾病、障碍、高齢などの身内の介護を定期的に行っていると答えた雇用者の割合、男女別、欧州のOECD諸国、2018年

注:データは、疾病、障碍、高齢の身内(15歳以上)の世話を定期的にしていると答えた雇用者の割合を示している。身内は同じ世帯で暮らしている人とそうでない人の双方を含む。

出典:Eurostat Database, based on the European Union Labour Force Survey ad-hoc module 2018, https://ec.europa.eu/eurostat/data/database.

プラスの側面では、学校や施設の閉鎖と大規模な在宅勤務の普及の一つの結末は、多くの男性が女性が通常抱えてきた有給と無給労働の二重の負担に晒されるということである。少なくとも、多くの男性が彼らのパートナーが行っている仕事の総量を直に目撃するだろう。それだけでなく、多くの男性自身が危機の最中に無給労働の自己負担分を増やし、この分野における経験を積み自信を持つようになる可能性もある。例えば、彼らのパートナーが基本的サービスに従事している場合、無給労働の全てを引き受ける男性も出てくるかも知れない。これは、無給の家事及び介護に関する男女役割分担という慣習を変化させるきっかけとなる可能性がある (Alon et al., 2020[14]) 。状況は同一ではないが、育児休暇を取った父親についての研究から得られた実証によると、家事や介護に著しく晒されると男性の無給労働への関わりに長期的な影響があり得る (OECD, 2019[15])。

 3. 女性、雇用、所得とコロナウイルス

コロナウイルスの感染拡大は、医療危機であるだけでなく経済危機でもある。世界経済は2008年の金融危機以来の大きな危機に瀕している。ウイルスの拡散により国際的な供給網は寸断され、労働者は隔離や感染またはロックダウンのために自宅待機させられている。様々な産業の企業が操業停止や操業規模の縮小を迫られている。今後、相当な雇用喪失が起こるとみられている (ILO, 2020[16])。

過去の経済危機や健康危機から得られた実証によると、コロナウイルスのパンデミックのショックの規模は男女で異なる (Rubery and Rafferty, 2013[17]) 。例えば、2008年の金融危機では、男性優位の産業部門(具体的には建築業と製造業)の方が多くの雇用が失われ、特に危機の直後は女性の労働時間が増加した (Sahin, Song and Hobijn, 2012[18]; OECD, 2012[19]) 。回復期には、男性の雇用の方が女性の雇用より早く改善した(Périvier, 2014[20])。

しかし、感染症が引き起こす経済危機の実証では、女性への影響の方が厳しいことがわかる。例えば、2014〜15年に西アフリカで起きたエボラ出血熱の伝染からの実証によると、危機の間中女性の方が苦しんでいたが、その理由の一端は介護の役割を担うために女性の方が感染率が高かったこと (Menéndez et al., 2015[21]; Nkangu, Olatunde and Yaya, 2017[22]) 、また女性の方が多く担う仕事(この場合、小売業、接客業、観光業)の方が景気後退の打撃が大きかったことにある。 (AFDB, 2015[23]) エボラ危機の性別によってことなる影響に人々の注意が向けられなかったこと、こうした時期に女性を支援する公的政策にも注目が集まらなかったことが、こうした健康危機の最中の男女差への注目をを求める活動を促進した (Davies and Bennett, 2016[24])。

 3.1. 女性雇用者と女性の雇用へのリスク

今回の危機はこれまでのものとは性質が異なっており、経済的影響の規模の全体はまだ見えておらず、この危機が女性の雇用や事業、所得に不当に影響するのか、またどの程度かということについて確たる予測は難しい。しかし、この危機が女性の経済的成果に及ぼす影響について、いくつかのもっともな懸念がある。

過去半世紀間に女性は顕著な進歩を遂げたが、労働市場における女性の地位は依然として男性とは大きく異なっている。平均すると、雇用されている女性の労働時間は男性のそれより短く、賃金も少なく(EPIC )、勤続年数も短い (OECD, 2020[25]; OECD, 2020[26]; ILO, 2018[27]) 。女性の労働市場における就労期間は特に子育て期には男性より短い傾向がある。女性の在職期間も平均すると男性より短い。さらに、男女が働き続ける産業は異なっており、女性の雇用が集中しているのは公共機関と介護、教育部門である (OECD, 2020[25]; ILO, 2018[27])。

コロナウイルス危機の文脈で懸念されることは、こうした男女の雇用格差により女性の方が男性よりも雇用喪失に対して脆弱だということ、つまり、労働市場における女性の地位の低さが彼女たちを解雇の危険により多くより容易に晒すということである。こうした懸念は特に多くの開発途上国と新興諸国で差し迫っている。これらの国々では、多くの女性労働者が「インフォーマル雇用」−多くの場合未登録で基本的な社会保障、法的保障がなく、雇用給付も受けられない仕事−で働き続けている(OECD/ILO, 2019[28]) 。(3.4節参照)

OECD諸国の女性については、過去数年−危機以前−の実証によると、女性の総合的な雇用保障についての不安はない。過去10年間の女性の平均失業率は男性のそれとほぼ同程度で推移しており (OECD, 2020[25]) 、OECD Job Qualityデータベースによると雇用リスクの男女差は総じてごくわずかである(図3)。自覚的な雇用安定性のデータでも、雇用保障における男女差はごくわずかである。例えば、国際社会調査プログラム2015(International Social Survey Programme 2015)によると、自分の仕事は安定していないと考えている労働者の割合における男女差はほとんどなく、むしろ男性の方が女性よりも雇用喪失を恐れているという結果が出ている (ISSP, 2018[29])。

 
図 3. コロナウイルス危機以前は、失業リスクの男女差は総じて小さかった
失業リスク、男女別、OECD諸国、2015年

注:失業リスクは、一カ月の失業者流入率に推定平均失業期間を掛けて算出する。失業者推定値:失業期間が1カ月未満の失業者の、1か月前の雇用者総数に対する割合。推定失業期間:失業者流出率(1−1カ月以上失業している失業者数が1か月前の失業者数に占める割合)の逆数。

出典: OECD Job Quality Database, https://www.oecd.org/statistics/job-quality.htm.

短期的には、コロナウイルスが原因の経済停滞は一部の産業部門により多く影響し、女性の方がリスクが高いと見られる。直近では、旅行や消費者との身体的接触がある産業が必然的に打撃を受けるだろう。その中には、航空業、観光業、小売業、宿泊業、飲食サービス業(カフェ、レストラン、ケータリングなど)が含まれる。これらの産業の多くが女性を雇用している。比較可能なデータがあるOECD諸国平均で、航空業の雇用の約47%、飲食業の53%、宿泊業の60%を女性が占めている(ILO, 2020[30]) 。小売業では、ラトビア、リトアニア、ポルトガルでは75%以上を女性が占めている(図4)。

供給網の川下に位置する産業も打撃を早期に受けるだろう。一例が衣服製造業で、供給サイド(外出規制による工場閉鎖)と需要サイド(小売店の閉鎖による注文減少)双方からの混乱に直面する可能性がある。この産業では女性が占める割合が非常に高く、一部の尺度によると世界全体で服飾業界の労働者の4分の3が女性である(OECD, 2020[31]) 。そして、服飾供給網が世界全体に分布していることから、最も深刻な打撃を受けるのは開発途上国と新興諸国の女性である。例えばバングラデシュは服飾業が年間輸出額の80%以上を占めており、この業界で働く労働者の85%が女性である (Islam Ishty, 2020[32]; OECD, 2020[31])。本報告書執筆時の早期の報告によると、コロナウイルス危機に関連する需要ショックによって、バングラデシュでは約26億7000万米ドル服飾輸出が取り消しまたは延期となっている(FWF, 2020[33])。

雇用への長期的影響と雇用喪失の期間は、現時点で予想を遥かに上回っている。多くは封じ込め措置の厳格さと期間、景気後退の底深さと幅広さに左右される。封じ込め措置が拡大して供給網の途絶がの悪影響が出始めると、経済的影響は産業部門を超えて広がるだろう。実際、早期の報告によると、多くの国々ですでに建築業と製造業に落ち込みが見られる(ILO, 2020[16]) 。景気後退がさらに広がると、男女どちらが大多数を占める産業でも関係なく雇用喪失が起こる。

公共部門で働く女性は、少なくとも短期的には、雇用が保障される。OECD諸国全体で、公共部門の雇用者に占める女性の割合は不均衡に高い。平均すると、公共部門の労働者の60%以上が女性で、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンでは約70%に上る (OECD, 2019[34]) 。こうした労働者の多くへの需要は重くなるが(上記参照)、政府が需要を維持し危機の緊急医療と社会保障の側面に対処しようとするため、公共部門の雇用は少なくとも今後数カ月間は相対的に安定している。

 
図 4. 女性はコロナウイルスの直近の影響を最も大きく受ける小売業などの業種で雇用の多くを占めている
小売業の雇用分布、男女別、2018年

注:国際産業分類ISIC Rev 4のカテゴリー47(自動車、オートバイを除く小売業)の雇用に占める女性の割合。

出典: OECD calculations based on data from ILO ILOSTAT, https://ilostat.ilo.org/data/.

 3.2. 自営業の女性と女性が経営する事業のリスク

自営業者と中小企業は、現在の危機の中心にいる。経済的課題の大きさは依然としてわからないが、中小企業と自営業者は供給網の途絶により大きな打撃を受け、景気後退が長期間に及べば深刻な影響を受ける。小売り、観光業、交通部門などのサービス部門の中小企業は、すでに封じ込め措置や需要の崩壊、その結果起こる流動性資金の不足に起因する副次的影響に苦しんでいる。遠隔労働を可能にするデジタル機器や設備がないことも、現在の状況では不利に働く可能性がある。総じて、多くの中小企業は対応するための資源を持っていない。

この危機の影響は、全ての中小企業と自営業者が受けるであろうが、事業の種類やビジネス戦略の違いにより、男性起業家と女性起業家では影響に違いがあるかも知れない。OECD諸国の生産園の女性の約5%が事業主(創立から42カ月以上経っている)だが、新事業の事業主(創立から42カ月未満)は3%、事業を開始しようとしている人が5%である (OECD/European Union, 2019[35])。

2008年の金融危機から得られた実証によると、女性が事業主であることが男性事業主よりも必ずしも脆弱だということにはならない。2009年に創業された企業の3年存続率は、イタリア、フィンランド、スロバキア、オーストリアを含む多くの国々で事業主が女性でも男性でもほとんど同じである。存続率にわずかな差が見られたのはポーランド(57%対63%)で、それより差が大きかったのはフランス(63%対70%)、スペイン(49%対58%)である(OECD, 2012[19]) 。この耐久力の一端は、女性の事業が医療サービス、教育サービス、その他景気後退の影響が比較的小さい個人サービスに集中する傾向があるという、女性による事業の性質で説明することができる。このことは例えばイタリアでの調査とも一致する。それによると2008〜09年の経済危機の最中、女性起業家は男性起業家より保守的なビジネス戦略を採る傾向があった(Buratti, Cesaroni and Sentuti, 2018[36])。

しかしコロナウイルスの影響は、各国が商業活動と個人の活動に対して厳しい制約を行っているため、2008〜09年の不況より素早く、またより多くの事業に及ぶように見える。女性の方が少ない資本で自己資本により多く頼って事業を行っているという実証がある(OECD/European Union, 2019[35]) 。つまり、リスクを回避する事業戦略を採る傾向があるにもかかわらず、女性事業主の事業は収入が著しく減少またはゼロになる期間が長引くと廃業のリスクがより高くなりかねないということである。

 3.3. 女性の所得と貧困に陥るリスクの高まり

雇用喪失や廃業の影響に男女差があるにもかかわらず、危機による所得喪失のリスクは女性の方が男性より受けやすい。OECD諸国全体で、女性の平均所得は男性のそれより低く (OECD, 2020[37]) 、女性の方が貧困率が高い(図5)。また、女性の方が保有する富が少ないことが多いが、その理由は様々である(Sierminska, Frick and Grabka, 2010[38]; Schneebaum et al., 2018[39]) 。そして介護負担がより大きいために(前述)、女性の方が解雇された後で別の仕事や収入源(断片的な仕事など)を見つけることが難しい場合が多い。

 
図 5. ほぼ全てのOECD諸国で、女性の貧困率は男性のそれより高い
相対的所得貧困率、全年齢、男女別、2017年またはデータのある最新年

注:データは等価換算された世帯可処分所得、つまり世帯人数で調整された税引き・給付後所得に基づいている。貧困の閾値は各国の可処分所得中央値の50%に設定されている。ニュージーランドのデータは2014年、アイスランド、日本、スイスは2015年、デンマーク、メキシコ、オランダ、スロバキア、トルコは2016年、オーストラリア、イスラエルは2018年のものである。

出典:OECD Income Distribution Database, oe.cd/idd.

ひとり親の多くは女性だが、特に脆弱な立場にある。単一の収入に依存しているということは、雇用喪失がひとり親家庭にとっては、特に公的所得支援が弱い、または得られるまで時間がかかる場合には死活問題となりうるということである。2008年の金融危機で得られた実証によると、多くの国々で、所得と貧困という観点だけでなく、適切な栄養や暖かい住宅のような必須の財や活動の利用可能性という点でも、ひとり親世帯の子供の方が二人親世帯の子供よりも不況の悪影響を遥かに大きく被っていた(Chzhen, 2014[40]) 。

男女不平等は、高齢者の住環境にも見られる。50歳以上の人のほぼ8人に1人が、困ったときに頼れる人または身内がいないと答えている (OECD, 2020[41]) 。さらに、一人暮らしの高齢者−特に移動に支障がある人々は食料、薬品、その他の必需品の調達に補助が必要である。こうした人々に占める女性の割合は高い。80歳以上の高齢者では、一人暮らしの女性は男性の2倍おり(OECD, 2017[42]) 、感染リスクに晒されることなく適切な支援を受けることが極めて困難である。

ほぼ全てのOECD諸国で、女性は男性より高齢になるほど貧困に陥りやすい。2016年には、OECD諸国平均で高齢の女性の15.7%が相対的貧困だったのに対して、男性高齢者では10.3%だった(OECD, 2019[43]) 。その理由は、女性の方が賃金が少ない仕事に就くことが多いことに加えて、女性は高齢になるほどパートタイムで働くようになり、介護などの理由で仕事を離れる期間ができやすいことにある。その結果、女性の方が年金分担金の要件を満たすのが難しく、また最小限の年金しか受け取れない場合が多い。男女間の年金格差は大きい。欧州諸国では、65歳以上の女性の年金受給額は男性のそれより平均で25%少ない。ドイツ、ルクセンブルク、オランダでは、その差は40%を超えている(図6)。

 
図 6. 男女間の年金格差は大きい
年金の男女差、65歳以上、2015年またはデータのある最新年

注:男女の年金格差は、65歳以上のひとについて以下の計算式で算出されている:1−女性の平均年金受給額÷男性の平均年金受給額。その中には、高齢者給付(官民いずれか)、恩給、障碍者給付の受給者を含む。アイスランドのデータは、2014年のものである。

出典:OECD (2019[43]), Pensions at a Glance 2019: OECD and G20 Indicators, OECD Publishing, Paris, https://dx.doi.org/10.1787/b6d3dcfc- en.

 3.4. 開発途上国におけるコロナウイルスと女性

コロナウイルスで予測される女性の弱さは、開発途上国で特に増幅しそうである。

直近では、開発途上国の女性は、特に医療インフラが不十分または未発達の地域では、他の誰よりも健康リスクに晒されやすい。このリスクの大半は、医療従事者と家庭での無給労働者として、女性が介護を過度に負担していることによる。上述のように、女性は世界的に見ても医療従事者の大半を占めているが、それだけでなく無給の介護労働も行っており、その男女格差は開発途上国で特に大きい。女性が担う無給労働は、南米・カリブ諸国では男性の3倍、北アフリカではほぼ7倍である(図7)。医療設備が限られている中では、病人や高齢者の看病を含むこうした介護を行うことで感染の機会が大幅に高まる。2014〜15年に西アフリカで発生したエボラ出血熱の際に得られた実証によると、女性による介護が女性の感染の主な原因であった (Menéndez et al., 2015[21]; Davies and Bennett, 2016[24]; Nkangu, Olatunde and Yaya, 2017[22])。

この危機では、感染だけでなく、更なる間接的影響が開発途上国の女性の健康、特に妊婦に及ぶ。過去の感染症危機から得た実証によると、蔓延してくると医療制度が分娩や胎児の健康管理を含む適切な妊産婦医療サービスを提供できなくなる場合が多い (Brolin-Ribacke et al., 2016[44]; Sochas, Channon and Nam, 2017[45]; Wenham, Smith and Morgan, 2020[6]) 。封じ込め措置や医療施設での感染のリスクや恐れも、女性が妊産婦医療サービスを受けるのを躊躇したり、女性が助産師の介助なしで出産する可能性を高めたりしかねない (Brolin-Ribacke et al., 2016[44])。

 
図 7. 無給労働における男女差は開発途上国では非常に大きい
家庭での家事、介護、自発的労働に費やされる1日の平均時間の男女比

開発途上国の女性は、健康リスクに加えて、雇用と所得の喪失という点でも他の人々より弱い立場にある場合がある。OECD加盟国の女性、そしてあらゆる地域の男性と比較して、開発途上国の女性は労働市場とのつながりが希薄で、雇用保険や拠出制医療保険制度などの重要な社会保障をほとんど利用できない(OECD/ILO, 2019[28]) 。開発途上国の女性は、男性よりも保有している財産も少なく (Doss et al., 2014[47]) 、特定の年齢層は男性よりも極貧状態になる可能性が遥かに高い(Munoz Boudet et al., 2018[48])。極貧状態に陥るリスクが特に高いのは、女の子、若い女性、20〜34歳前後の親になる年齢の女性である (OECD, 2018[49])。

開発途上国における女性の不安定性の主な要因は、女性たちが低賃金の仕事にインフォーマルに雇用されている場合が多いことにある。世界的に見ると、男性の方が女性よりもインフォーマル雇用についている場合が多いが、世界の貧困諸国の多くでは、非公式雇用で多く見られるのは女性である。例えば、ほとんどのサハラ以南のアフリカ諸国、南アジア、南米などの国々である (OECD/ILO, 2019[28]) 。さらに、非公式雇用で働く女性、特に農村部の先住民族の女性は、自分が質の低い非公式雇用にふさわしいと思いがちである (ECLAC, 2019[50]) 。実際、様々な種類の非公式労働者の間には、「貧困のヒエラルキー」がある (OECD/ILO, 2019[28]) 。雇用主も賃金労働者も、良質な仕事に就きよい給料を得ると健闘する傾向があるのに対して、自営の家庭内家族労働者は、あまり熱心に働かない傾向がある。女性のこの後者のグループに含まれていることが多い。例えばメキシコ−高中所得国−では、家庭内労働者(ほとんどが女性)の99%が社会保険に加入していない(OECD, 2017[51]) 。これらの労働者は雇用に基づく社会保障に未加入で労働法の対象にもなっておらず、基本的な労働安全衛生基準を満たさないため、特に社会的に脆弱である。さらに、特に農村部では、多くのインフォーマルの経済活動が道端で行われており、経済封鎖期間中は危うくなりかねない。

移民女性は特に社会的に弱い。世界全体で、多くの女性労働者が家庭内労働者として、またはインフォーマルの介護労働者として働いている(ILO, 2016[52]) 。こうした女性の労働環境は不安定さが増しているだけでなく、彼女たちが自国に残してきた家族についても懸念される。働いている国が封鎖されると、家族を養うために必要なこうした労働者の所得も奪われる恐れがある。同じように、男性パートナーまたは他の親戚による海外送金に頼っている女性と家族も、封鎖措置と雇用喪失により送金額が減少することを考えると弱者である。

もっと一般的に、コロナウイルス危機が原因の貧困と困難は、開発途上国の女性と女の子に対する有害な社会的慣行を悪化させる恐れがある。上述の懸念は全て、社会的に浸透している差別的社会規範と慣習に根ざしているだけでなく、助長されている。実際、OECD開発センターのSIGIによると、差別的な社会制度は特に比較的貧しい国と社会で特に強い(OECD, 2019[53]) 。こうした差別的制度は、危機に対応する上で女性の能力を制限する可能性がある。一例に過ぎないが、MENA地域(中東・北アフリカ)では、雇用が失われている時期には就労機会をまずは男性が取るべきという強い期待がある(OECD, 2017[54]) 。しかし、貧困と有害な女性差別的社会慣習、例えば児童婚、女の子の早期退学、夫と死別した女性からの資産取り上げとの間にはつながりがあるという実証もある (OECD, 2018[55]) 。

 4. 女性、封じ込め、性別による暴力

女性に対する暴力はすでに世界的な健康問題である。世界全体で、女性の3人に1人以上が一生に一度は、身体的または性的暴力をパートナーから、または性的暴力をパートナーではない人から受けている(oe.cd/vaw2020) 。この危機は、コロナウイルスによってさらに悪化する可能性がある。

過去の危機や自然災害から得た教訓によると、封じ込め策により女性や子供への暴力が増加、また暴力のきっかけとなることが多い。例えば、2014〜15年の西アフリカにおけるエボラ出血熱の伝染から得られた実証によると、大流行期にはその前年に比べて性的暴力や虐待を経験する女性・少女の割合が高くなった(UNDP, 2015[56]) 。社交行事(例えばフットボールの試合)がキャンセルされ、社交場所が閉鎖され、さらに学校閉鎖、避難措置の厳格化などが相まって人々の不満が高まると、家庭内に限らずレイプや暴力の事例が急増する。さらに、シエラレオネにおけるエボラ危機の結果についての研究によると、ウイルスによって親類を失った少女の非常に多くが、食料を含む生活必需品を得るために取引としての性交渉を強いられていた(Risso-Gill and Finnegan, 2015[57])。

実際、中国と一部のOECD諸国の社会サービス提供者からの報告によると、パンデミックの最中に多くの女性と子供がその虐待者と家に閉じこもることになるため、女性に対する家庭内暴力(DV)が増加している (Du, 2020[58]; Le Monde, 2020[59]) 。個人の移動を制限すると、暴力から逃れようとする人は他所に避難場所を探せなくなり、強制的都市封鎖の間、虐待者は女性と少女に対して絶大な支配力を行使できることになる。パートナーからの暴力に苦しむ女性は、虐待者がいるときに自分自身を守るために家庭を離れることや緊急時連絡先に通報することが非常に難しくなり、すでに避難所や仮設住宅にいる女性と子供は感染リスクがあったり引っ越し先がなかったりする中で移動することが難しいと感じる。

感染拡大とそれに関連する封じ込め措置の社会的影響が広がり始めると、社会的慣習と家父長制に基づく男性らしさがDVの原因となりかねない。OECD SIGI 2019の実証によると、DVの蔓延はDVに対する社会的許容と密接に結びついている(図8)。コロナウイルスの感染拡大以前から、すでに世界全体で15〜49歳の女性の27%がDVの使用を正当と考えていた (OECD, 2019[53])1 コロナウイルスの社会的影響(例えば家から外出できない、社会的交流の喪失、学校閉鎖によって子供と終日顔を合わせなければならない、強制的共同生活に固有の緊張状態)は、暴力の正当化に何らかの追加的理由を与える可能性がある。男性によって行使されることが多いDVは、男性の女性に対する権力と支配につながる家父長制に基づく男性らしさに深く根ざしている。個人と世帯レベルの危機と不安が明らかになると、加害者は自分の支配をより明確化し、ロックダウンによる自分の欲求不満を暴力によって表現しようとする可能性がある。

 
図 8. 女性に対する暴力を正当化する社会的慣習は、女性に対する暴力の増加と関連している
DVを正当化する態度と生涯にDVに遭う確率と相関

注:「DVに対する態度」は、以下の特定の理由の少なくとも一つにより夫が妻を殴打することが正当化されると考えている15〜49歳女性の割合で表している。DVが正当化される理由:料理の失敗、夫への反論、無許可の外出、子供の放置、性行の拒否。生涯にDVに遭う確率は、パートナーからの肉体的、性的暴力に一生の間にあった女性の割合。データは134カ国から入手している。R² =0.2113

出典:OECD Development Centre (2019[46]), Gender, Institutions and Development Database, https://oe.cd/ds/GIDDB2019.

コロナウイルスの考え得る最終的な影響−(男女とも)高い失業率、賃金の喪失、職の不安定化−は、虐待を受けている女性にとっては特に危険である。虐待者にとっては経済的支配が重要なツールだからである。経済的不安定により、被害者は加害者と共にいなければならなくなる恐れがある。したがって、政府はコロナウイルス感染拡大への政策対応のあらゆる部分で、パートナーによる暴力の防止を優先課題とすることが必須である(5.4節)。

外出制限中にデジタル技術ヘの依存が急拡大することも、性別に基づく暴力に影響を及ぼす。デジタルツールは女性が暴力から逃れる方法の一つであるが、虐待者の女性に対する支配を高める可能性もある。一方で、女性はオンラインで助けを求め、支援サービスの情報を共有することができる。しかしそれと同時に、外出制限により加害者が被害者を支配しやすくなり、被害者の携帯電話やコンピュータといったデジタルツールを支配することで被害者を外界から隔離できるようにもなる。

全ての加盟国に共通するテーマは、被害者が司法制度をあまり利用できないことである(主に経済的理由による)。女性は特に司法の利用において複合的な問題を抱える傾向がある。多くの経済的、構造的、制度的、文化的要因が司法の利用を妨げている可能性がある。その中には費用に関わる障害(司法サービスの直接的費用)、構造的障害(法律文書の中の過度な専門用語)、社会的障害(裁判についての固定概念と偏見)、危機に瀕している人々が特に抱える障害(自己主張が容易ではない障碍者、移民の女性)などがある。これらは、コロナウイルスによる移動規制やロックダウンのような状況下でさらに増幅されやすい。危機は、避難所、医療サービス、児童保護、警察、法的援助メカニズムなど、被害者にとって重要な政府サービスの提供にも負担を掛ける可能性がある。

 5. 政策課題と政策オプション

 5. 介護を担う女性、労働者、家族への支援

現在多くのOECD加盟国で実施されている保育施設と学校の大規模な閉鎖により、多くの働く親、特に介護や育児における女性の負担が不均衡であるため働く母親は相当な困難を抱えている(2.2節参照)。これまでの文献にあるように(OECD, 2012[19]; OECD, 2017[60]) 、多くの女性はすでに危機以前から「ダブルシフト」で働いていた。学校と保育施設の閉鎖は、仕事と家庭との両立において多くの女性が直面する困難を増幅しただけである。さらに複雑なのは、今回の危機では、非公式に育児を依頼されることが多い子供の祖父母が特に弱者で、他者、特に子供との密接な接触を最小限に抑えるように求められていることである。頼れる家族がいない場合、多くの働く親には自宅で子供の面倒を見る以外の選択肢がない。

 
介護・育児の責任を担う女性、労働者、家族のための政策オプション
  • 医療、公益事業、緊急サービスなどの基本的サービスに従事する親のために公的保育のオプションを提供する。

  • 代替的な公的介護サービスを提供する。

  • 休暇を取得する必要がある労働者に直接的資金援助を提供する。

  • 労働者に有給休暇を与える雇用主に財政的助成を提供する。

  • 労働者の家族に対する責任を考慮して柔軟な働き方を促進する。

在宅勤務は一部の働く親にとって部分的な解決策になり得るが、在宅で勤務時間をフルに働くことは、特に幼い子供のいる家族や夫婦のいずれか一人しか在宅ではない場合、またひとり親にとっては、実際には不可能ではないにしても非常に困難である。さらに、全ての労働者に在宅勤務という選択肢があるわけではない。総じて、特に低技能低賃金の職業は在宅勤務ができないものが多い(OECD, 2016[61]) 。コロナウイルス特有の状況では、公共事業や緊急サービスのような基本サービスに就く多くの労働者にも、在宅勤務という選択肢はないだろう。そして、大規模な在宅勤務が女性の生産性にもたらす影響についての懸念もある。女性は平均すると男性と比べるとデジタル技術の利用、接触、経験が少なく (OECD, 2019[62]) 、遠隔労働の場合不利になる可能性がある。特により多くの家事を担っていることと併せると、女性労働者は継続的な在宅勤務期間を通じて能力をフル活用して働くことが特に難しくなることが考えられる。

多くの働く親は、休暇を申請しなければならないかも知れない。短期的には年次休暇を利用できるかも知れないが、雇用主の許可を得なければならない場合が多い。例えば英国では、労働者は雇用主に休暇前に連絡をしなければならず、雇用主は場合によっては休暇取得を制限または拒否することができる。米国では国全体で、労働者が取得できる法定年次休暇がない。

学校・施設閉鎖の場合に休暇を取るという親の追加的権利は、不明確である場合が多い。 ほぼ全てのOECD諸国で雇用者は傷病の子供またはその他の扶養家族の世話をするための休暇が認められている(OECD, 2020[26]) 。一部の国々では、予期せぬ閉鎖(例えば、ポーランドとスロバキア)や「予期せぬ緊急事態」(例えばオーストラリアと英国)の場合には休暇を取得する権利が認められている。後者の場合は突然の学校閉鎖も含むと考えられる。その他の国々(例えばオーストリア、ドイツ)は最近、既存の緊急時休暇を学校や保育所の閉鎖にも適用されることを明確化した。しかし、こうした休暇の権利は、無給休暇の場合にのみ行使できるとされている場合もあり、給与の支払いの決定は、通常は雇用主に任されている。さらに、こうした休暇(または有給休暇の権利)二時間制限がある国もあれば(例えばオーストリア、ドイツ、スロバキア)、こうした権利をどのくらいの期間行使し続けられるかが明確でない国もある。

一部の国々では、学校や保育センターが閉鎖された場合に働く親を助けるため緊急措置を導入し始めている。保育施設と学校が閉鎖されているいくつかの国々では(例えばオーストリア、フランス、ドイツ、オランダ)では、一部の施設を最小限度の人員で開放し、特に医療や社会保障、教育などの基本的サービス従事者の子供を預かっている。例えばフランスでは、こうした家族向けの保育施設では最大10人まで子供を預かることができ、家庭の外で働く保育士は通常は3人の子供を預かれるところを、例外的に6人まで受け入れられるようになっている。オランダでは、基本的職業のリストに公共交通、食料生産と輸送と配達、燃料輸送、廃棄物管理、マスメディア、警察、軍隊、基本的な公共機関が含まれている。

また、いくつかの国々では代替的な介護・育児サービスの利用コストを助成している。イタリアでは、12歳未満の子供がいる関連労働者は15日間の休暇を給与の50%を受け取って取得でき、12歳以上の子供の場合は無給で取得できる。あるいは代替的な育児・介護サービスに使える600ユーロ(医療従事者は1000ユーロ)のクーポンを受け取ることもできる。この措置は雇用者、自営業者双方とも利用できる。フランスでは、学校閉鎖または隔離の影響を受けた親は、代替的な育児方法または働き方(例えば在宅勤務)が見つからない場合、有給の疾病休暇を取ることができる。ポルトガルでは、12歳未満の子供がいる親で在宅勤務ができず子供の学校が閉鎖されている場合は、基本月給の3分の2の給付を受け取ることができ、これは雇用主と社会保険が半分ずつ負担する。自営業者は標準的な手取り収入の3分の1を請求できる。

その他の措置には、労働者に有給休暇を与える雇用主に対する資金援助がある。日本では、厚生労働省が学校閉鎖の影響を受ける労働者向けの独自の有給休暇制度を設ける企業を助成すると公表している。雇用主は、一人1日8,330円を上限として休暇を取る労働者への継続的な給与の支払いに対して、助成を受けることができる。

一部の国々の公共部門は、仕事と育児を両立する親を支援するために、柔軟な働き方を拡大している。例えばアイルランドでは、公共部門の労働者に対して在宅勤務、フレックスタイム制、時間差勤務、休憩時間の延長、週末勤務など、柔軟な働き方を導入している。斬新なものとしては、雇用者に臨時に異なる役割を与えたり別の組織で働いてもらったりして、柔軟な働き方が有効に機能するようにすると共に、必要なサービス提供を可能にするというものがある。

  5.2. 雇用喪失に直面する女性、労働者、家族への支援

コロナウイルス危機は、社会の多くの部分で仕事と暮らしを脅かすが、女性が比較的低い賃金で、財産も少なく、より多くの育児・介護を負担し、雇用喪失の潜在的リスクが高いということは、女性は男性よりも脆弱な立場に置かれやすいということである(3節)。経済的不安定さの高まりは、2008年の不況期にも見られたように、女性、特にシングルマザーにダメージが大きい。この点で、雇用喪失しても生活水準を維持できるようにする政策が、特に女性には重要である。

 
雇用喪失、所得喪失の恐れがある女性、労働者、家族を支援するための政策オプション
  • 失業給付の対象を非正規労働者まで拡大する。

  • 低所得世帯、特にひとり親(大半は女性)向けの給付を利用しやすくする。

  • 影響を受ける労働者への一時金の支払いを検討する。

  • すでに予定されている失業保険の利用を厳格化する改革の内容またはタイミングを再考する。

  • 立ち退きの一時停止や住宅ローン、公共料金の支払い猶予によって、経済的に不安定な労働者が自宅を維持できるように支援する。

失業給付と関連の所得支援は、所得喪失の衝撃を緩和するのに不可欠である。しかし、全ての失業者がこうした支援を受けられるわけではなく、もし健康保険が雇用または給付の受給と結びついている場合は特に問題である。最近のOECDの分析(2019[63]) によると、近々導入される緊急措置の以前から、国ごとに、また国内でも非正規雇用の労働者は正規雇用者より保障が少ないといったように、所得支援の利用可能性に大きな差がある。

OECD諸国に関する既存の実証によると、働く女性の方が男性よりも所得支援措置の対象になっている割合が低いということはない。むしろ、OECD Job Qualityデータベースの2015年のデータによると、失業保険の対象となっているのは男性より女性の方が若干多いくらいである(図9)。しかしこのデータには、特に開発途上国と新興諸国に多い非公式経済の「隠れた労働者」は含まれていない。これらの労働者は、仕事にかかわる社会保障をほとんどまたは全く持っておらず、雇用喪失に対して特に脆弱である。

 
図 9. 平均すると、失業保険に加入している労働者は、女性の方が男性よりわずかに多い
有効失業保険、男女別、OECD諸国、2015年

注:有効失業保険とは、失業保険の加入率×失業保険受給者の純所得代替率平均+失業扶助の加入率×失業扶助受給者の純所得代替率平均と定義される。失業保険と失業扶助の受給者の平均代替率は、家族給付、社会扶助、住宅給付を考慮している。

出典: OECD Job Quality Database, https://www.oecd.org/statistics/job-quality.htm.

コロナウイルスの危機以前から、多くの国々は個人事業主を含め、勤務形態の変更という状況で失業給付の受給を強化する方法を模索していた。しかし、コロナウイルス危機の最中には、早急に利用しやすい所得支援を提供するために、追加的な臨時緊急措置が必要とされている。いくつかの国々は、2008~09年の世界金融危機への初動対応をモデルとして、イニシアチブを表明している(OECD, 2014[64]) 。危機の最中の労働者及び企業支援政策についての詳細は、(OECD, 2020[65]) を参照されたい。

その焦点の一つは、低所得世帯を対象とした受給資格の緩和に向けられている(OECD, 2020[65]) 。英国は、低所得の自営業者が主な資力調査に基づく給付(Universal Credit)をもっと利用しやすくし、地方政府に対して新たな救済基金で各地域の脆弱な人々を支援することを公表した。

もう一つの選択肢は、早急に資金を必要としている労働者への一時金の支払いである(OECD, 2020[65]) 。例えばフランスでは、世界金融危機の際に、失業したが失業保険の対象となっていない労働者に公共雇用サービスを通じて一時金として500ユーロが支給された。オーストラリアは、受給資格を持つ低所得のオーストラリア人650万人を対象に、一時金として750豪ドルを支給すると公表している。イタリアでは、3月分として一部の自営業者に対して一時金として600ユーロが支給されることになっている。モロッコでは、今回の危機の結果仕事を失った雇用者に月額2000MAD(199米ドル)が2020年6月まで支給される。

政府はまた、すでに予定されている改革の内容と実施時期について、再検討する必要があるかもしれない (OECD, 2020[65]) 。例えばフランスでは、2019~20年の失業保険改革で最低受給条件を24か月間に4か月間就労するとしていたものを6か月間へと厳格化し、非正規契約労働者の所得代替率を制限している。こうした労働者は職を失うリスクが高いだけでなくSTW schemeのような他の保障を受ける可能性も低いため、この改革の一部は数か月延期されることになった。米国では、補助的栄養支援プログラム(SNAP、旧 “food stamps")の利用制限の期限が4月だった。

また各国は、世帯が雇用や所得の喪失により賃料、住宅ローン、公共料金が払えなくなった場合でも住宅を維持できるようにする措置を実施している(OECD, 2020[65]) 。いくつかのOECD諸国(イタリア、スペイン、スロバキア、英国)は、住宅ローンの支払いを一時的に猶予する措置を採った。その他、担保執行の一時的停止(米国)または立ち退きの一時停止(フランス、スペイン、英国、米国、カナダの一部地域と自治体)を実施している国もある。ギリシャでは法改正により、コロナウイルス危機により雇用契約が停止された賃借人は3月と4月は住宅の家賃の月額60%を支払えばよいことになっている。日本では、コロナウイルスの影響を受けた世帯は必要に応じて公共料金の支払いを延期することができる。コロナウイルスの感染拡大に対して特に脆弱で「避難所」の確保ができないホームレスへの支援措置を導入している国もある。例えばフランスでは、ロックダウンの期間中ホームレスが利用できるようホテルの部屋を借り上げている。チュニジアのコロナウイルス緊急措置には、1500万TND(5800万米ドル)の低所得世帯、障碍者、ホームレスを含む社会的弱者への直接給付が含まれている。

失業した労働者への所得支援の提供と強化は、開発途上国と新興諸国では特に難しい。それは、インフォーマルの労働者が多いことに理由の一端がある。短期的な選択肢の一つは、所得が下がる世帯すべてに公的扶助を拡大することである。例えばタイでは、社会保険に加入していない労働者で国有銀行の一つまたはオンラインの口座を持っている人に対して、月額500THB(150米ドル)を最低でも2020年4~6月の3か月間利用できるようにした。別のオプションとしては、資力調査に基づく現金または現物給付を社会的弱者に行うことだが、必ずしも雇用喪失と結びつけていない。例えばインドでは、貧困世帯、高齢者、障碍者など様々な社会的弱者に対する現金給付と必需品提供(例えば米、調理用ガス)を含む緊急経済対策を導入している。特筆すべきは、この対策には無担保ローン、特に低所得の女性に対する月額500INR(6.6米ドル)の現金給付など、女性向けの措置が含まれていることである。南アフリカでは、今回の経済封鎖の結果ほとんどのビジネスが苦しんでいるであろう非公式部門で働く人々を支援するためにセーフティネットの開発が進んでいる。またモロッコは、ウイルスの拡散を抑えるための封鎖措置により所得を失った非公式部門の労働者を支援する様々な措置を公表した。その取り組みの一環として、世帯構成員数によって(二人以下の世帯には800MAD(80米ドル)、4人以上の世帯には1200MAD(120米ドル)など)生活保護を支給することになっている。

 5.3. 起業家と小規模事業主向けの支援

コロナウイルスのパンデミック初期の個人事業主と企業向けの公的支援策は、企業存続の可能性を高めるための財政支援の提供に注力されている。いくつかのOECD加盟国で行われた中小企業調査によると、中小企業の50%以上がすでに相当な収入を失っており、3か月以内に廃業せざるを得ないとしている(OECD, 2020[66]) 。こうした状況で多くの女性に特有の課題が、仕事と学校閉鎖による子供の世話を含め増加する家事とのバランスを取ることである。女性自営業者の4分の1、男性自営業者の3分の1は雇用者を抱えているため、コロナウイルスのパンデミックの結果、非常に多くの事業が廃業され、雇用が失われる可能性がある (OECD/European Union, 2019[35])。

 
起業家と小規模事業主を支援するための政策オプション
  • 労働時間の削減方法、労働者への安心感の与え方、一時解雇や疾病にかかわる解雇手当の管理方法など、企業に積極的に情報提供を行う。中小企業が感染発生の短期的結果に対処することを支援するために金融措置を設定する。例えば、臨時の税控除、ローンプログラムや直接的資金援助など。自営業者、特に雇用保険に加入していない人々が緊急資金措置を利用できるようにする。

  • 調達と支払いの遅延に関して猶予措置を導入する。

  • 企業の回復力を強化するため長期的視点からの支援を検討する。例えば、中小企業が危機の財政的影響を評価、管理できるようにするため、またはデジタル化の推進、新市場の発見のための訓練やメンタリングのプログラム。

  • 包摂的な官民対話を行い、公的政策改革が検討されるときに女性の事業主が自分たちの懸念と優先事項について発言できるようにする。

政府は自営業者支援に乗り出しているが、今のところ、特に女性起業家に向けた支援策はない。各国は、資金援助を行うため様々なメカニズムを用いている。最も一般的な支援形態は、自営業者の社会保険料の削減、納入延期、免除(例えばベルギー、イスラエル、ポルトガル)、緊急時給付または失業保険の提供(例えばカナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イスラエル、イタリア、韓国、オランダ、スペイン、南アフリカ、英国)である。それより一般的ではないが、中小企業と自営業者の納税猶予(例えばイタリア、スペイン、南アフリカ、チリ、ペルー、アルゼンチン)や、イタリアのような四半期の所得喪失分が30%を上回ったと報告した自営業者の(主たる住居の)住宅ローンの一時猶予といったアプローチもある。コロナウイルスのパンデミック期の中小企業と自営業者向けの政府支援策の詳細は、(OECD, 2020[66]) を参照されたい。

 5.4. 性別による暴力の被害者支援と司法の利用

公共政策によって、虐待者とともに家に閉じ込められている女性を助けることができる。最近行われたパートナーからの暴力に関するOECDハイレベル会議 (oe.cd/vaw2020) で紹介されたいくつかの政策措置は、現在、パートナーからの暴力の防止とその増加への対処にとって特に重要である。その中には次のものが含まれる。

  • 精神と身体の健康、住宅、所得支援、司法の利用といった様々な側面のサービスを統合し、公共部門、非営利団体、雇用主など複数の関係者を関与させること。これは、資源がひっ迫し組織が電子的コミュニケーションに移行しつつある今、特に重要である。しかしコミュニケーションの電子化そのものも、虐待者とともに家に閉じ込められ外部に連絡ができない家庭環境にいる女性にとっては課題である。

  • (平時でさえも)各国が暴力の発生率を把握するための行政及び調査データの収集には深刻な課題があるため、より良いデータを定期的に収集することを再確認すること。データの収集と共有は危機の間に行うことが特に重要である。それによって政府や社会が互いに教訓を得ることができるからである。

  • パートナーからの暴力を終わらせるために「全政府的」アプローチを採用することで、すべての政府機関がこの問題に緊密な連携を取りながら取り組むことができる。例えば、役割と責任、評価基準、危機の際に緊急対応にリスクを考慮したアプローチを行うことが明確にされた、適切な資源を持つ国の戦略によって行う。

  • 暴力被害者の司法利用を妨げている司法手段の弱点に対処する。

  • こうした暴力に対する社会的受容を排除する。

医療、支援、警察などのサービスが途絶することで問題が増幅し、暴力被害者は必要としている資源を利用できない。パンデミックの急速かつ死者を出しながらの拡大により、各国政府には全医療資源をコロナウイルスとの闘いに向けるよう求められている。医療体制にはなどの負担がかかり、「戦時下」の体制に移行しており、「必須ではない」とされた他のサービスは途絶えている。性別による暴力被害者への救命措置と支援(レイプ被害者への臨床管理、心の健康のサポート、ホットラインのような心理社会的支持などは、その中で打ち切られてしまう恐れがある。

封鎖、性別による暴力、病気の感染という特定の相互に交差する問題に対処するために、チリ、コロンビア、イタリア、スペイン、米国など多くの国々はコロナウイルスのパンデミック期に女性に対する暴力の被害者をより良く支援するために特別政策を導入しつつある。例えば、コロンビアのボゴタ市当局は、コロナウイルス危機の間、DV被害者が現金給付とサービス支援を完全に利用できることを保障している。チリの女性・男女平等担当省は、女性のためのセンターと避難所の運営継続、女性への暴力通報の奨励運動、オンライン防止講座といった、予防と抑制措置の双方を公表している。イタリアはコロナウイルスに特化した基金を含め女性への暴力と闘うための公的基金の設立を公表し、被害者に手を差し伸べるための啓蒙活動を促進している。スペインの一部地域では、薬剤師は助けを求める隠語(“mascarilla 19”)を見分ける訓練を受けている。この隠語を聞くと、緊急用施設が利用できるようになり、被害女性と少数者は公的居住施設へと送られる。米国の一部の州では、虐待からの一時保護を拡大して、虐待された女性のための避難所におけるコロナウイルス感染を防ぐための措置を導入している。ニューヨーク市とスペインでは、避難所をサービスの継続が認められる「必須サービス」としている一方、カナダは避難所と支援センターにサービス需要の増加を管理しやすくするための資金援助を発表している。家庭裁判所と支援センターがサービス提供を継続するためにホットラインやオンラインでのコミュニケーションメカニズムを採用しているところもある。

 
性別による暴力の被害者支援のための政策オプション
  • 被害者へのサービス提供を関連する様々な側面―健康、社会サービス、教育、雇用、司法―にわたって統合し、コロナウイルス危機の間、より電子的なコミュニケーション手段に移行する時、犠牲者のニーズと安全を検討する。

  • パートナーからの暴力を終わらせるために「全政府的」アプローチを採用することで、すべての政府機関がこの問題に緊密な連携を取りながら取り組むことができ、また司法をタイムリーに活用したり、この期間にはそれを強化したりする。

  • この問題が外出制限の時期に女性にどのような影響を及ぼすかに注意を向けるなどして、DVの社会的受容を排除する。

カナダの裁判所では、運営を縮小しつつ司法の利用を確保するために、様々なアプローチを取り入れている (Fasken Institute, 2020[67]) 。例えば、接触者数を減らすためのオンライン相談、裁判所に持ち込める「緊急事項」リストの作成、そして場合によっては電話またはビデオ会議による相談などがある。ニューヨーク市では、最も重要な事例については、Eメールによる遠隔提訴とビデオまたは電話による聴聞、公判などが行われることになっている。

世界全体で、多くの非営利団体がコロナウイルス対応の一環としてサービスを変更している。一例として、欧州家庭裁判所連合(ECFJA)は、女性と子供に対する暴力に対処する専門家間の部門を超えた協力を構築するための機関で、専門家が危機を踏まえて慣行をどのように調整すべきかについて、一連の指針を発表した (ECFJA, 2020[68]) 。サービス提供者の中にも、カウンセリングのようなサービスを電子的に提供する方向に移行することで調整しているところがある。しかし、これは女性が通報を恐れるという問題を解決するわけではない。多くの虐待者は女性のコンピュータ利用や電話利用を支配しているからである。実際、フランスの団体が指摘しているように、虐待者が家にいると女性は通報が難しくなるため、通報率が下落している可能性がある。また、病院や警察といった最前線のサービスは、感染拡大に圧倒されているときでも、パートナーによる暴力の兆候を見逃してはならず、当局はDVホットライン、避難所、その他関連サービスなど、パートナーによる暴力の被害者に対する支援サービスの継続を保障しなければならない。

同様に、女性へのコロナウイルス危機の影響に取り組むため支援を提供している団体は、開発協力及び人道支援における性的搾取、虐待、ハラスメント撲滅のためのDAC提言DAC Recommendation on Ending Sexual Exploitation, Abuse, and Harassment, SEAH) を参考にすべきである(OECD, 2019[69]) この提言は、必要なサービスと支援のメカニズムなど、被害者中心のアプローチについてのメカニズム設計の具体的な方法を提案しているからである。

 5.5. ジェンダー影響評価、男女平等対策のための予算、ジェンダー問題の(緊急)政策対応における主流化

コロナウイルスのパンデミックにより、政府は医療部門の支出を支援し経済的影響を抑えるために当座の財政政策対応を打ち出した。経済の安定化と男女ともに適切な支援を与えるだけでなく、可能な限り男女平等というレンズを緊急政策対応の設計と実施に埋め込むべきである。そうすることで、政府は、男女平等にかかわる予算編成と男女平等の影響評価、良質な男女別データとジェンダー指標を全ての部門について、そして早急な対応を行う方法についてのスキルと知識について、機能的なシステムを導入することができる。しかし、これは多くの国々で取り入れられておらず、コロナウイルスの発生への緊急対応は迂闊にも既存の制度の男女不平等を助長している可能性がある。

 
政策対応にジェンダーの観点を含めるための政策オプション
  • 性別による影響評価プロセスとツールを緊急事態管理に統合する。そのためには、ジェンダーを主流化する機能的なシステム、あらゆる部門において男女別のエビデンスを利用できるようにすること、技術的なスキルが求められる。

  • ジェンダーを考慮した予算編成で、財政刺激策に含まれる措置にジェンダーの視点を取り入れ、政府が男女平等を目標とするパッケージの集合的影響を理解できるようにする。

  • ・持続可能な回復を支援するためのあらゆる政策と構造調整が確かなジェンダーと交差性(intersectionality)の分析を通じて行われるようにすること。

  • コロナウイルスの予防と対策をめぐる政策決定過程に関わる女性の役割と数を増やすための措置を採る。

カナダとスペインは、男女平等の影響評価の利用において長い伝統があり、両国とも男女平等について有事への対応措置を素早く動員した。カナダには、公式のジェンダー主流化戦略、“Gender Based Analysis Plus”があり、コロナウイルス危機への対応として、支援能力の拡大とDV防止の目的で、女性のための避難所と支援センターに最大5000万CADの支援を提供している(PM.GC.CA, 2020[70]) 。スペインの教育省は、“Contingency Plan against Gender Violence”(性別による暴力に対する対処計画)を始動したが、そこには女性への暴力の被害者のための基本的サービスの一つとしての法的援助を含め、あらゆる支援サービスの認定が含まれている (La Moncloa, 2020[71])。

男女平等に関わる予算は、ジェンダーの視点を支出見直しにどのように取り入れるかと同様、その視点を一連の財政刺激策に取り入れることを促進する。例えば、アイスランド政府は現在の危機への財政対応を立案する際に、投資案が男女それぞれにどのような便益をもたらしうるか、関連省庁に意見を求めている。そうすることで政府はこの情報を政策策定に採り入れ、政策パッケージ全体が男女平等という目標に及ぼす集合的影響をより良く理解できる。

緊急政策対応を超えて、持続可能な回復を支援するためのあらゆる政策・構造調整は、確かなジェンダーと交差性(intersectionality)の分析を通じて行うべきである。コロナウイルスの社会経済的影響が女性に過度に及ぶ可能性があるということは、ジェンダー政策の実施格差を縮小し、男女不平等への全政府的アプローチを強化する必要があることを強く示唆している。

機能的で資源を持った中核的な男女平等推進機関と包摂的な公的リーダーシップが、引き続き男女ともに恩恵を受けられる回復の主な柱である。どの国でも、特に開発途上国と人道問題を抱える国々では、コロナウイルスの予防と対策をめぐる政策決定過程に関わる女性の役割と数を増やすことが不可欠である。

開発援助は、コロナウイルスとの闘いにおいても,特に紛争地域や男女平等に関するプログラムにおいて、本質的な寄与をする。OECDの統計によると、2017〜18年には二国間援助の年平均493億米ドルが男女平等と女性の権利強化に向けられた(OECD, 2017[72]) 。これは、二国間援助の42%に相当し、過去最大である。そのうち、49億米ドルは男女平等をプログラムの主目的としているものに向けられており、二国間援助の4%に相当する。医療分野の二国間援助のほぼ半分は、男女平等や女性の権利強化には向けられていない。この領域の下部部門で特に男女平等への注力度が低いのは、感染症対策、基本的医療インフラ、医療研究、医療教育・訓練、性感染症対策とHIV/AIDSである。本来あるべき軌道に乗せる方法を早急に考える必要がある。今日特に関連があるのは、2017年には下部部門の感染症対策向け援助で男女平等対策に向けられたものはわずか25%だったということである (OECD, 2020[73])。

開発パートナーは、可及的速やかに、そして対応の当初から、女性の権利を保護する団体に関与し、女性を支援し危機に対処している地域の女性団体や運動に資金を提供すべきである。こうしたグループはその地域の状況と女性が抱える制約や機会、女性の健康についてよく理解している。コロナウイルスとの闘いの現段階で、OECD GENDERNETは新たな戦略と実践を共有している。必須要件及び最初のステップとして、どのような外部資金も男女平等と女性の権利を「阻害しない」ことが求められる (OECD, 2020[74])。

コロナウイルスの感染拡大により、人々はショックに対処する回復力と備えが足りないという事実に気づくようになった。OECDがNew Approaches to Economic Challenges (NAEC)で明らかにしているように、大規模な崩壊が起こる可能性があり、中核的システムは回復力と将来に向けてシステムを改善する能力を持つことが必須である。例えば、森林破壊や野生生物取引といった気候変動と生物多様性喪失の原因は、生物媒介または水媒介の感染症のパンデミックリスクを高めかねない。女性と社会的弱者−特に女性が環境財を利用して家族に水、食料、燃料を供給する役割を担っている開発途上国で−はこうした環境破壊の影響を最も深刻に受けるので、各国はジェンダーと包摂性の視点を環境活動に採り入れることが重要である。

 5.6. 女性と持続可能な開発目標(SDGs)に対する影響

コロナウイルスのパンデミックは、ジェンダー関連のSDGsの達成を脅かしている。パンデミックにより2015年以降男女平等と女性の権利強化の様々な側面で観察された改善のいくつかは台無しになっている。危機の経済・社会的結果は特に社会の最も周縁部にいる極貧状態の女性と女の子に対する既存の不平等と差別を増幅させる恐れがある。感染発生の動向は、女性のこれまでと現在のニーズに使われていた資源を他へ向けることで、ジェンダー問題を変革させる政策と改革をストップさせる恐れもあるが、実際にはこの危機によりそのニーズが高まる可能性がある。

 
ジェンダーにかかわるSDGsの進展を確保するためのオプション
  • 政策対応にジェンダーの視点を取り入れるため強力な政策的コミットメントを確立することで、危機によってダメージを受けている重要分野の経済、社会、環境の優先課題の調整ができる。

  • コロナウイルスの感染拡大によって国内の医療能力が圧迫されているときでも、基本的医療サービス、特にリプロダクティブ・ヘルス(産前産後の医療を含む)を維持すること。

  • 現金給付と食料援助を早急に実施し、コロナウイルスの経済的影響を緩和し社会的弱者―主に女性と子供―の貧困を予防する。

  • 社会の最周縁部にいる女性―地方に住む女性、先住民、避難民―が基本的サービスと支援措置を確実に利用できるようにする。

  • 危機の影響についてのデータを男女別に分類してジェンダーの視点から感染がSDGに及ぼす影響を測る。

  • 持続可能な発展のための政策整合性のデータと方法論を用いてジェンダーの観測機関(Gender Observatory)を設立し、危機の男女別の影響を把握し、優良な政策慣行を共有、特定する。

2030年までにジェンダー関連の全てのSDGsを達成することは難しいだろう。ジェンダー関連のターゲットと指標でコロナウイルス危機の影響を受けると考えられるのは、以下の通りである。

  • 感染発生の経済的影響(例えば,一時解雇、所得喪失、雇用の不安定化)は女性に不当に影響を及ぼすので、世界全体の女性の貧困水準が高まる可能性がある(SDG1−貧困の撲滅、SDG8−適正な労働と雇用の増加、SDG10−不平等の削減)。

  • 2014〜15年に西アフリカで発生したエボラ出血熱危機の際に得られた実証によると、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)と性的健康促進のための資源が危機対応に転用されると、特に医療能力が弱い地域では、妊産婦死亡率が上昇する恐れがある(SDG3−健康と幸福)(Wenham, Smith and Morgan, 2020[6]) 。例えばシエラレオネでは、危機後の影響研究によって、最も控えめなシナリオでも、救命救急サービスの利用減少により2014〜15年に死亡した妊産婦、新生児と死産が3600件増加した(Sochas, Channon and Nam, 2017[45])。

  • エボラ危機では、発生時の学校閉鎖の影響で未成年の妊娠が大幅に増加したこともわかっている。これは、その危機の後で母親になった未成年の学校中退につながった(SDG4−良質な教育)(Bandiera et al., 2019[75]) 。女性や女の子が負担する無給の家事・育児・介護−特に病人の介護−が増加すると、女の子の教育の見通しにも影響が及ぶだろう。

  • 女の子より男の子を大事にする社会的慣習がある国々では、パンデミックにより様々な側面でこの選好が強調される恐れがある。例えば、食料が制限されれば、差別的な社会慣習が蔓延している世帯では、男の子に優先的に食料を与えることになるかも知れず、それはSDG2−飢餓をなくすという目標に直接影響する。同様に、資源が限られる中で、教育や医療においても男の子を優先することもありうる(SDGs3と4)。

パンデミックは,特にSDG5の達成に深刻な影響を及ぼす可能性がある。危機以前から、2030年までに男女平等というターゲットの達成が危ぶまれる国々で暮らしていた女性と女の子の数は21億人と推定されていた (Equal Measures 2030, 2020[76])。進展のペースが遅いと、先進国、開発途上国ともに男女平等というターゲットの達成にさらに多くの時間を要することになる。SDG5のSDGターゲットで最も影響を受ける可能性があるのは、以下の通りである。

  • SDG 5.1 法的枠組みについて:OECD加盟国、パートナー諸国双方において、コロナウイルス危機以前には政治的介入が高まると男女平等を拡大する新たな法律が制定され差別的な法律を廃止することにつながっていた(OECD, 2019[53]; OECD, 2017[54])。しかし、多くの国々で、今回の医療危機により少なくとも新法制定や既存の法制の実施が遅れ、危機が深刻化すれば完全にシャットダウンされてしまう可能性がある。

  • SDG 5.2 女性への暴力について:上述のように、これまでの危機で得られた実証から,コロナウイルスのパンデミックでも様々な理由でDVが増加する可能性がある(4節参照)。

  • SDG 5.3 有害な慣習について:危機以前には、南アジアとサハラ以南のアフリカの双方で児童婚の慣習が減少しているという実証があった。しかし、児童婚、強制婚は極度の貧困から発生することが多く、危機により貧困が増加すると開発途上国ではこうした慣習も増加すると考えられる。さらに低所得国では、医療危機により政府予算に深刻な影響が及び、立法活動や訴追などに必要な資源が削減される可能性がある。例えば、女性の性器切除の加害者に対する訴追は、以前と同じではなくなる場合がある。

  • SDG 5.4 無給の家事・介護労働:コロナウイルス発生以前から、女性はすでに世界全体で家事・介護の75%を担っていた(OECD Development Centre, 2019[46]) 。危機の当初から女性の無給労働は増加しているので、危機以前の状態に戻すことすら難しいかも知れず、2030年までに男女で家事・介護労働を均等に分担するという目標を達成するのは、ほぼ不可能である。

  • SDG 5.6 性的健康とリプロダクティブ・ヘルスと権利について:供給網が途絶すると、生理用品などリプロダクティブ・ヘルスに関わる商品の提供にも影響が及ぶ可能性がある (UNFPA, 2020[77]) 。2015〜16年に南米で発生した「ジカウイルス危機」から得られた実証によると、エルサルバドルとブラジルで起きた犯罪組織の暴力は、供給を利用できる人とできない人とを非合法のネットワークが統制したことにより、女性のリプロダクティブ・ヘルスサービスの利用に直接的な影響が及んだ。

コロナウイルスとの闘いに直面する今だからこそ重要なことは、SDGのための2030年アジェンダのコミットメントにあるように、全ての関係者が「男女格差を縮小するための投資を大幅に増加させるために協力する」必要があるということである。OECDの推定では、SDG 5の「男女平等を達成し全ての女性と女の子の権利を強化する」という目標への資金提供は、開発途上国のパートナーによるゴールの中で3番目に少ないとみられている (OECD, 2020[74])。

2030アジェンダの支持者は、主要な政策一貫性原則に立脚してSDGsを達成するための戦略的ビジョンを構築し、コミットメントを国、地方レベル及び国際レベルで具体的な措置に置き換えることに合意した。 持続可能な発展のための政策整合性に関するOECD提言(OECD Recommendation on Policy Coherence for Sustainable Development, PCSD) (OECD, 2019[78]) は、ジェンダーの視点を持続可能性についてのより統合されたビジョンへの適用の指針となり得る。これは、有効な政策と制度の調整と、SDG実施を考慮したモニタリング、報告、評価システムを強化するための枠組みを提供している。PCSDのデータと方法論により、政策当局は女性に影響を及ぼす政策間の重要な相互作用(相乗効果、トレードオフ)を明らかにできる。

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[9] Public Health England (2020), Guidance on social distancing for everyone in the UK, https://www.gov.uk/government/publications/covid-19-guidance-on-social-distancing-and-for- vulnerable-people/guidance-on-social-distancing-for-everyone-in-the-uk-and-protecting-older- people-and-vulnerable-adults (accessed on 26 March 2020).

[11] RCOG (2020), Coronavirus infection and pregnancy, https://www.rcog.org.uk/en/guidelines- research-services/guidelines/coronavirus-pregnancy/covid-19-virus-infection-and-pregnancy/ (accessed on 26 March 2020).

[57] Risso-Gill, I. and L. Finnegan (2015), Children’s Ebola Recovery Assessment: Sierra Leone, Save the Children, World Vision International, Plan International, and UNICEF, https://www.savethechildren.org/content/dam/global/reports/emergency-humanitarian-response/ebola-rec-sierraleone.pdf (accessed on 24 March 2020).

[17] Rubery, J. and A. Rafferty (2013), “Women and recession revisited”, Work, employment and society, Vol. 27/3, http://dx.doi.org/10.1177/0950017012460314.

[18] Sahin, A., J. Song and B. Hobijn (2012), “The Unemployment Gender Gap During the 2007 Recession”, SSRN Electronic Journal, http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.1582525.

[39] Schneebaum, A. et al. (2018), “The Gender Wealth Gap Across European Countries”, Review of Income and Wealth, doi: 10.1111/roiw.12281, pp. 295-331, http://dx.doi.org/10.1111/roiw.12281.

[38] Sierminska, E., J. Frick and M. Grabka (2010), “Examining the gender wealth gap”, Oxford Economic Papers, Vol. 62/4, pp. 669-690, http://dx.doi.org/10.1093/oep/gpq007.

[45] Sochas, L., A. Channon and S. Nam (2017), “Counting indirect crisis-related deaths in the context of a low-resilience health system: the case of maternal and neonatal health during the Ebola epidemic in Sierra Leone”, Vol. 32, pp. 32-39, http://dx.doi.org/10.1093/heapol/czx108.

[56] UNDP (2015), Assessing Sexual and Gender Based Violence during the Ebola Crisis in Sierra Leone, UNDP, https://www.sl.undp.org/content/sierraleone/en/home/library/crisis_prevention_and_recovery/ assessing-sexual-and-gender-based-violence-during-the-ebola-cris.html (accessed on 24 March 2020).

[77] UNFPA (2020), COVID-19: A Gender Lens - Protecting sexual and reproductive health and rights, and promoting gender equality, UNFPA, https://www.unfpa.org/sites/default/files/resource-pdf/COVID- 19_A_Gender_Lens_Guidance_Note.pdf (accessed on 24 March 2020).

[6] Wenham, C., J. Smith and R. Morgan (2020), COVID-19: the gendered impacts of the outbreak, Lancet Publishing Group, http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30526-2.

[8] WHO (2020), Coronavirus Age, Sex, Demographics (COVID-19) - Worldometer, https://www.worldometers.info/coronavirus/coronavirus-age-sex-demographics/ (accessed on 24 March 2020).

[13] WHO (2020), Q&A on COVID-19, pregnancy, childbirth and breastfeeding, https://www.who.int/news-room/q-a-detail/q-a-on-covid-19-pregnancy-childbirth-and- breastfeeding (accessed on 26 March 2020).

担当

Gabriela Ramos (✉ Gabriela.Ramos@oecd.org)

1.

下記のどれか一つ以上の理由で夫が妻を殴打することが正当化されると考えている人の割合と定義されている:料理の失敗、夫への反論、無許可の外出、子供の放置、性行の拒否。

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