日本では、女性は男性に比べ成人教育に参加していない傾向にある。2012年時点で、学校教育や学校以外の教育に参加した割合が男性は48%であったのに対し、女性では35%であった。
日本では、就学前教育を受ける子どもの10人中7人以上が私立機関に在籍している。2018年時点で、就学前教育機関における総支出の48%が私費負担によって賄われた。これはOECD加盟国の中で最も高い割合であり、OECD平均17%の倍以上である。しかし2019年10月からは、法律によって3~5 歳の子どもたちすべてが、幼児教育・保育を無償で受けられることとなった。
日本では、新型コロナウィルス感染症(Covid-19)への教育的対応を支援するため、2020年と2021年で、初等教育、前期中等教育といった普通教育に対する年度予算の増額が見られた。資金はパンデミック下における学習継続性の確保に充てられ、特に最も不利な状況にある者に主眼が置かれた。また、追加指導員の採用にも財源が投入された。
日本は、OECD加盟国の中で、GDPに占める教育支出の割合が最も低い下位25%の国に入る。2018年時点で、OECD加盟国では平均してGDPの4.9%が初等から高等教育段階の教育機関に充てられたのに対し、日本の場合、その割合は4%であった。
授業時間数は相対的に少ないにも関わらず、日本の教員の勤務時間数はOECD加盟国平均をやや上回る。日本の場合、前期中等教育段階では法定勤務時間数の36%が授業に費やされる。これに対し、OECD加盟国平均は46%である。
Education at a Glance 2021
日本
注目点
教育と成果に見られる男女格差
OECD加盟国の大部分で、女性よりも男性の方が職業訓練コースに進む傾向が強い。この傾向は日本も同様であり、2019年時点で、後期中等教育職業課程修了者の57%が男性であった(OECD加盟国平均は55%)。女性は一般的に後期中等教育普通課程を修了する傾向にあるが、日本も例外ではなく、OECD加盟国平均55%に対し、同プログラム修了者の51%を女性が占めている(図1)。
ここ数十年、高等教育は拡大を続けている。2020年時点で、25~34歳人口ではOECD加盟国全体を通して、男性よりも女性が高等教育を修了する傾向が強く見られた。日本の場合、2019年時点の25~34歳人口における高等教育修了率は、男性59%に対し女性は64%であった。OECD加盟国平均はそれぞれ39%、52%であった。
専攻分野別にみた高等教育入学者の分布には男女で著しい差異が見られる。OECD加盟国の大部分で、自然科学、技術、工学、数学(STEM)領域を専攻する女性は少ない傾向にある。日本では、2019年時点で、高等教育新規入学者で工学、製造、建築を専攻する者のうち女性が占める割合は16%であり、OECD加盟国の中で最も低かった。対照的に、伝統的に女性が多い教育分野については新規入学者の71%を女性が占めた。
教員の男女比について、日本は僅差ではあるものの男性教員が女性教員よりも多い唯一の国である。2019年時点で、OECD加盟国平均30%に対し、全教育段階の教員に占める男性教員の割合は52%であった。最も男性が優勢となるのは高等教育段階であり、全教員のうち72%を男性が占め、これはOECD加盟国の中で最も高い割合である。対照的に、就学前教育の教員については大部分を女性が占めている。
データを入手可能なOECD加盟国で平均してみると、25~64歳人口では、男性よりも女性の方が成人教育に参加する傾向がやや強い。しかし日本では、2012年時点で、学校教育や学校以外での教育に参加した割合が、男性は48%であったのに対し、女性は35%であった。学習活動への参加を阻む要因について、女性の30%、男性の5%が家事や育児への責任を挙げていた。
社会経済的背景に関わりなく均等な機会の提供を
社会経済的地位は、生徒・学生の教育への参加に極めて大きな影響を及ぼす。これは特に、私費負担への依存が著しい幼児教育・保育や高等教育において顕著である。日本は、このいずれの教育段階でも私費負担に依るところが特に大きい。
日本では、10人中7人以上の子どもが就学前教育で私立機関に在籍している。2018年時点で、就学前教育機関における総支出の48%が私費負担によって賄われた。これはOECD加盟国の中で最も高い割合であり、OECD平均17%の倍以上である。日本では、私立の幼児教育・保育機関と各世帯を対象に、経済的負担の少ない幼児教育・保育を安定して利用できるようにするための公的支援が包括的に行われている。さらに、良質な幼児教育の提供と家庭の経済負担軽減を目的に、2019年10月から法律によって、3~5 歳の子どもたちすべてが幼児教育・保育を無償で受けられることとなった。
日本は、国公立機関の学士課程における年間授業料が、データを入手可能なOECD加盟国及び地域の中で5番目に高い。自国学生に課される学費は、2019年度で年間5,177米ドルであり、修士課程及び博士課程もほぼ同様の額であった。しかしながら日本の場合、学士課程の学生の4分の3以上は、年間の学費が国公立機関よりも最大で70%高額となる私立機関に在籍している。経済的支援を目的に、2020年4月からは、低所得世帯の学生の高等教育参加を後押しする新たな給付型奨学金の支給が始まっている。
大部分のOECD加盟国で、社会経済的地位は性別や移民としての立場以上に学習成果に及ぼす影響が大きい。日本の場合、2018年のPISA調査で経済・社会・文化的地位に関する指標 (ESCS)の下位25%に入る子どものうち、読解力でPISAレベル2に到達した者の割合は、ESCSの上位25%に入る子どもより20%低かった。これに対し、OECD加盟国における平均差異は29%であった。
日本で学ぶ外国人学生及び留学生の数は着実に増加し、2019年には20万2900人に達した。これは高等教育に在籍する全学生の5%を占める。日本の高等教育機関で学ぶ留学生では、中国を出身国とする者が45%と最も大きな割合を占めている。一般的に、低所得国出身の学生は留学する傾向が弱い。2019年時点で、OECD加盟国で学ぶ留学生の29%が低所得及び下位中所得国出身であったのに対し、この割合は日本では37%であった。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19): パンデミック下での18か月
新型コロナウィルス感染症(Covid-19)の拡大により、2021年時点でも依然、世界中の多くの国々で対面での教育活動の実施が難しい状況にある。2020年の始めから2021年5月中旬までの間に、37のOECD加盟及びパートナー諸国が複数回の休校措置を取っている。日本では、初等から後期中等教育段階で2020年3月2日から3週間(同年3月末)の休校措置が全国的に実施された。後期中等教育職業課程及び高等教育機関には休校措置は義務付けられなかったが、パンデミック下における高等教育機関の対応状況に関する直近の政府調査によれば、およそ90%の機関がパンデミックを理由に2020年の春学期開始を遅らせていた。2021年時点で、日本はすべての初等・中等教育機関(一部の職業課程を除く)が完全に活動を再開した状態にある数少ない国の1つである。
多くの国々で、新型コロナウィルス感染症(Covid-19)及び休校措置が教育の公平性に及ぼす影響が懸念されている。日本を含め、調査を行ったOECD加盟及びパートナー諸国36か国中30か国が、パンデミック下での学習活動で新たな障壁に直面する可能性のある子どもに対し、追加的な教育支援策を講じたと述べた。それらの国のうち、日本を含む3分の2が、生徒・学生の教育へのアクセスを手助けするデバイスに対する助成を行ったとしている。
各国政府は、安全を確保しつつ生徒・学生に良質な教育を継続して提供し、学習活動の中断をできるだけ回避するための財源配分決定に頭を悩ませている。パンデミック以前、日本の初等・中等・高等教育以外の中等後教育に対する公財政総支出の対GDP比は、2018年時点で2.4%であり、OECD平均3.2%を下回った。OECD加盟及びパートナー諸国のおよそ3分の2が、2020年に生じた危機を乗り越えられるよう、初等・中等教育機関へ追加的財源を投入したとしている。日本では、2020年と2021年の両方で、初等及び前期中等教育に対する年間教育予算を前年度より増額した。
日本を含む20のOECD加盟及びパートナー諸国が、パンデミックへの教育的対応を支援する追加的公的資金の割り当ては、生徒数や学級数に応じて行ったと述べた。その一方で、それらの国のうち日本も含めた13の国が、社会経済的に不利な立場にある生徒を対象に追加資金を投入することで、最も必要とされる部分に資源が行き渡るようにしていた。 例えば、初等教育及び中等教育段階の生徒の自宅学習を支援するため、インターネット端末を持たない家庭に対するモバイルルーター等のデバイスの配布や、低所得世帯への通信費助成といった取組みが実施された。高等教育段階においては、公的奨学金に対する追加助成や学費免除制度の拡大という形で財政支援が行われた。新型コロナウィルス感染症(Covid-19)により施設が閉鎖されていても、政府は民間の幼児教育・保育施設に対する事業費補助に継続して財源を配分した。追加資金はまた、初等及び中等教育で生徒の支援にあたる臨時教員及び指導員の採用や、オンライン学習へのアクセス確保にも充てられた。
パンデミック下において、留学状況は渡航及び日本入国に関する厳しい規制の影響を強く受けている。2020年秋より国際的な往来が再開されたが、2021年1月に2回目の緊急事態宣言が発表されたのを受けて、その流れは再び停止することとなった。文部科学省(MEXT)は、奨学金の柔軟な支給を継続するとともに、予定通りに来日できなくなった留学生が学習機会を確保できるよう、大学にオンライン講義やその他の遠隔授業の活用を要請した。日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を受け学位取得目的で留学する自国学生や、1年の留学プログラム(実際の派遣期間が9か月以上)に参加する学生に対する支援も再開されている。
教育に対する投資
在学者1人当たりの年間教育支出は、それぞれの国が生徒・学生1人にどれほどの投資を行っているかを示す指標となる。2018年時点で、初等から高等教育機関のフルタイム学生1人当たりの教育支出は、OECD平均11,680米ドルに対し、日本は12,194米ドルであった。
2012年から2018年の間、初等から高等教育機関の学生1人当たりの教育支出は、OECD加盟国全体で、年間平均1.6%増加した。同期間に日本では、学生数が年間平均0.7%の割合で減少していたにも関わらず、教育支出の減少率は年間平均0.3%であった。つまり、日本の学生1人当たりの教育支出は、2012年から2018年の間に年間平均0.3%で増加した。
日本は、初等から高等教育機関に対する教育支出のGDP比について、OECD加盟及びパートナー諸国内の下位25%に入る。2016年時点で、日本の初等から高等教育機関に対する支出の対GDP比は4%であったが、この割合はOECD平均を0.9ポイント下回る。全教育段階を通してみると、日本は高等教育以外の教育機関に対する支出の対GDP比ではOECD平均を下回り、高等教育段階ではOECD平均とほぼ同じである(図2)。
日本において、教育支出に対する設備投資などの資本的支出の割合は、初等から高等教育で見ると平均を上回る。初等教育・中等教育・高等教育以外の中等後教育段階では、資本的支出は教育機関に対する総支出の11%を占め、これはOECD平均8%を3ポイント上回っている。高等教育段階では、教育機関に対する支出総額の11%を資本的支出が占め、OECD平均とほぼ同じである。
初等から高等教育において、経常支出に占める割合が最も大きいのは、教育機関で雇用されている教職員の給与である。2018年時点で、日本では経常支出の74%が教職員の給与に充てられ、これはOECD平均と同じである。高等教育機関では、施設や設備にかかる費用が大きいため、教職員への給与が経常支出に占める割合は相対的に小さい傾向がある。日本では、高等教育機関における教職員の給与が経常支出に占める割合は57%であり、高等教育以外の教育機関では82%である。OECD加盟国では、高等教育段階で平均68%、高等教育以外の教育段階では平均77%となっている。
教員の労働条件
学校教育における支出で最も大きな割合を占めるのは、教職員、特に教員及び学校長の給与である。給与水準は、教職の魅力にも影響を与える。大部分のOECD加盟国及び地域では、国公立教育機関の教員(及び学校長)の法定給与は、教育段階並びに勤務年数が上がるに従って増加する。2020年時点で、初等・前期中等普通教育および後期中等教育段階においては、給与体系上の最上位の資格を持つ教員の法定給与(最高給与)は、キャリア開始時の最低資格を持つ教員の法定給与(最低給与)よりも平均86%~91%高かった。日本の場合、それぞれの教育段階で、最高給与は最低給与よりも105%~110%高かった(図3)。しかし、教員の大部分は最低給与と最高給与の中間となる額を支給されていた。
2008年の経済危機後には減少したものの、OECD加盟国では、初等、前期中等普通教育、後期中等教育段階で、最も標準的な資格1を持つ勤続年数15年の教員の法定給与は2005~2020年にかけて平均3%上昇した。日本では、対応する教育段階における教員給与は同期間に8%減少したが、これは主に教員を含む公務員の給与体系が改正されたことによる。
国公立教育機関で教員に求められる授業時間数の平均は、OECD加盟国では教育段階が上がるにつれて減少する傾向にある。2020年について言えば、初等教育段階で791時間、前期中等教育(普通課程)で723時間、後期中等教育(普通課程)で685時間となっている。日本の場合、初等教育段階で年間747時間、前期中等教育(普通課程)では615時間、後期中等教育段階 (普通課程)では511時間となっている。
授業時間数は相対的に少ないにも関わらず、日本の教員の勤務時間はOECD加盟国平均よりも幾分長くなっている。日本の場合、教員は勤務時間内に授業計画や準備、採点や保護者対応など様々な教育活動に従事する。法定勤務時間に占める授業時間の割合は、前期中等教育段階で、データのある加盟国の平均は46%である。これに対し日本は36%となっている。
初等・中等教育においては、OECD加盟国では平均しておよそ35%の教員がこの先10年の間に定年を迎える。いくつかの国々では同時期に学齢期人口が増加すると予測されており、新たな教員の雇用と養成が政府にとって喫緊の課題となっている。2019年時点で、日本では初等教育の教員の29%が50歳以上であり、OECD平均33%を下回った。OECD加盟国では平均的に、全教員に50歳以上の教員が占める割合は教育段階が上がるほど増加し、前期中等教育では36%、後期中等教育では40%となる。日本では、前期中等教育で31%、後期中等教育では39%となっている。
参考文献
OECD (2021), “Regional education”, OECD Regional Statistics (database), https://dx.doi.org/10.1787/213e806c-en (accessed on 27 July 2021).
OECD (2021), Education at a Glance 2021:OECD Indicators, OECD Publishing, Paris, https://dx.doi.org/10.1787/eag-2018-en.
詳細について
『図表でみる教育 2021年版』についての詳しい情報及び全インディケータは下記ウェブサイトでご利用になれます。 www.oecd.org/education/education-at-a-glance-19991487.htm
各指標のデータ収集の際に用いられた方法論、出典資料、各国についての注記などの詳細は、Annex3をご覧ください。https://www.oecd.org/education/education-at-a-glance/EAG2021_Annex3.pdf)
方法論についての一般的な情報は、下記資料をご覧ください。OECD Handbook for Internationally Comparative Education Statistics:Concepts, Standards, Definitions and Classifications (https://doi.org/10.1787/9789264304444-en)
最新のデータはhttp://dx.doi.org/10.1787/eag-data-en、及び報告書に掲載されている各図表の下にあるStarLinks2で閲覧可能です。
一部の指標の地域データは、OECD Regional Statistics (データベース)(OECD、2021年)でご覧になれます。国に準ずる地域のデータを解釈する際には、場合によっては、各国内で地域の人口規模に大きな差異があることを考慮に入れる必要があります。また、分析対象とする地域が増えると、地域差が大きくなる傾向があります。
さらに詳しいデータ及び分析は、Education GPSをご覧ください。
https://gpseducation.oecd.org/
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)への教育的対応に関するデータは、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、ユネスコ統計研究所(UIS)、国際連合児童基金(UNICEFF)、世界銀行及びOECDによる協同事業であるSurvey on Joint National Responses to COVID-19 School Closuresに基づきOECDが収集し所有するものです。
問い合わせ先: Marie-Helene Doumet Directorate for Education and Skills |
カントリーノート著者: Etienne Albiser, Heewoon Bae, Andrea Borlizzi, António Carvalho, Eric Charbonnier, Corinne Heckmann, Bruce Golding, Yanjun Guo, Gara Rojas Gonzalez, Daniel Sanchez Serra, Markus Schwabe and Giovanni Maria Semeraro |
本書は、OECD事務総長の責任のもとで発行されている。本書で表明されている意見や主張は、必ずしもOECD加盟国の公式見解を反映するものではない。
本書に掲載する文書及び地図は、あらゆる領土の地位や主権、国際的な協会設定や国境を、また、あらゆる領土や都市、地域の名称を害するものではない。
イスラエルの統計データは、イスラエル政府関係当局により、その責任の下で提供されている。OECDにおける当該データの使用は、ゴラン高原、東エルサレム、及びヨルダン川西岸地区のイスラエル入植地の国際法上の地位を害するものではない。
本文所の利用については、電子版又は印刷版のいずれの場合でもwww.oecd.org/termsandconditions/に記載された諸条件が適用される。
Note
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